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【連載小説】w 「あたしの道草」① 


(一)

周りがみんな知らない顔ばかりで、あたしも少し緊張していたんだよね。

だってまだそこの”現地校”に来てそんなに時間が経っていなかったし、当たり前だけど、まだ馴染めてる感じもしていなかったから。

フランス語は、実はほとんど理解できたんだけど、そのコ達はまさかあたしが、そのコ達が話しているフランス語がわかってるとは思ってなかったみたい。

まあ、海外では人種差別なんて普通にあるって知ってはいたし経験もあるんだけど、実際にされるとやっぱりショックだよね。

そのコ達がそのつもりでそう言ったのかはわからないけど、あるいはもしかしたら、そんなニュアンスもあるのかも、とあたしはそのとき思っていた。

でも、あたしはそれほど腹が立ったりしなかったんだよね。だって、もしそうだったとしても、それはそのコ達の問題で、あたしの問題ではなかったから。

もちろん、そのことでそのコ達があたしに攻撃を仕掛けてきたら、あたしも戦わざるを得ないけれど、そのとき、そのコ達はそんなことはしなかったし、そのつもりもなかったみたい。

ただ、単純にあたしのことが珍しかったんだと思うけど、まあ、少しは差別的な意識はあったのかもしれないね。だって、白人とアジア人では、やっぱり違うし、アジア人の中でも日本人は特に違うってあたしでも思うから。

でも、あたしはそのとき、そのコ達の心の奥底にあるかもしれない差別意識よりも、言葉にしたその表現がちょっと気になってしまったの。

そのコ達、あたしを見て、あたしに聞こえるくらいの声でこう言ったの。

「彼女、鼻が光ってる」

確かにそのとき、あたしは緊張で鼻にアブラが出ていたと思うんだよね。

そのコ達、、彼女たちは、まさかあたしがフランス語を理解しているとは思っていなかったみたいで、あたしに聞かれても平気な感じだったけど、鼻が光ってるって聞こえてあたしはちょっと笑いそうになったの。

もちろん、差別意識があるのかも、と考えれば少しは「え?」って思って、同時になにか恥ずかしいような気持ちもなくはないけど、あたしはそのときその言葉を純粋に「面白い」と感じてしまったんだよね。だって今でも覚えてるくらいだから。

それに、あたしも、転校してきたばかりの子の鼻が光ってたら、「あ、鼻が光ってる」って言っちゃうかもって思ったの。

だから、やっぱり差別的な意識はなかったのかも。わからないけど。 

後に帰国して、同じ大学の友達のリエちゃんにも笑いながら言われたことがある。

「マリ、あんた最初会ったときスゴイ鼻光ってたよね」って。

あたしはつい「あ、それ言われたことある!」って叫んだんだけど、現地校の話をしたら、リエちゃんはちょっと申し訳なさそうな顔をして、変な意味で言ったんじゃないんだけどって付け足した。

「気を悪くしたらゴメンね」ってリエちゃんは言ったんだけど、あたしはむしろ少し嬉しかったんだよね。

その頃には、あたしは、自分の光る鼻を誇りに思ってたくらいだったから。

リエちゃんは、もしかしたら、その言葉に差別意識を感じてしまったのかもしれないけど、あたしは全然気にしてなかった。

それに、そのことがどう変な意味になるのか、よくわからなかったから、気を悪くしようがなかった。

あたしは、自分の鼻がくすんでるって言われるよりは、光ってると言われる方がうれしいと思ってたからね。

後で知ったんだけど、「鼻が光ってる」って欧米では「得意になっている」って意味もあるらしいんだよね。

でもあたしは、全然そうじゃなかったから、やっぱり本当に鼻が光ってたんだと思う。

まあ、最近は友達に言われて、必要以上に光らないように気を付けるようにしてるけどね。

大学の友達に教えてもらった洗顔料でぬるま湯で優しく洗うと、割と光らなくなるみたい。

あたしはそんなに気にはしていなかったんだけど、友達の方が気になったみたいで、こうするといいよって教えれくれたんだよね。少し残念な気もしたけど、あんまり鼻を光らせてもね。

あたしは、ずっと自分の光る鼻のことを考えていたんだけど、それには理由があって、実は今、電車の中で、あたしが立っている目の前に会社員風のネクタイを締めたおじさんが座っていて、その人の鼻がビックリするくらい光ってるの。

そのおじさんは、少し疲れたような眠そうな顔をしていたから、決して「得意になってる」って感じではなかったから、単純に鼻が光ってるんだと思う。

あたしは、正直「負けた」って思った。

だって、そのおじさんの鼻は本当にピカピカと光っていたから。

このおじさんが、もしも「得意になって」いたら世界が明るくなるほど、鼻が光るかも。

あたしはそんなことを考えながら、目の前の座席に座っているおじさんの鼻に注目してたんだけど、別にそのために電車に乗っているわけではなかった。当たり前だけどね。

「あたしの道草」②に続く




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