加藤正行先生の作って楽しむヴァイオリン Part 3 イベントリポート 演奏編
Part 2からの続きです。
弦を張る
ヴァイオリンの弦は4本あります。高い音の方から1番(E線)、2番(A線)、3番(D線)、最も低い弦が4番(G線)です。弦の振動による音の高さは、弦の長さ、張力、密度で決まる。高い音の弦は細くて軽く、低い音の弦は太くて重い。密度を変えることで、4本の弦が同じ長さ、同じくらいの張力で音の高さが変わるように作ってある(*)、といった説明のもと作業を進めます。
*正確な説明は、先生のサイトにあります(「単純な楽器」2025.2.末)
https://gakkinomori.jimdofree.com/%E3%82%A8%E3%83%83%E3%82%BB%E3%82%A4/)。

テールピースの裏側から表側へ、あらかじめ開けられた4つの孔に、それぞれの弦を通します。弦の後端には”玉”と呼ばれる球状のパーツがあり、孔に引っかかって留まるようになっています(ボールエンド)。
テールピースに弦を通したら、エンドピンにテールガットを引っ掛けてテール側を固定します(このパーツセットでは、テールガットはあらかじめテールピースに環状にして取り付けてありますので、エンドピンからテールガット〜テールピースの全長は規定の長さになっています)。
2番弦(A線)の先端をネック先端にある弦を巻き取るネジ(2番弦なので、テール側から見て右から二番目のネジ)に通します(ネジと書いていますが六角穴付きボルトです*)。
*ヴァイオリンでは、木製の”糸巻き(ペグ)”をつかって弦を巻き取り張力をかけますが、木製である分、湿度の影響を受け、夏場は固く締まって回らず、冬場は乾燥のため緩んで止まらないという性質があります。初心者には使いにくいので、今回の製作では六角穴付きボルトと六角ナットにより弦を固定できるようにしたネジの”糸巻き”を使うとのことです。よく考えられているなあ。
弦の先端をネジ(に取り付けられたパーツ)に差し込んだら、あとは左回りに(ここ間違えないように、counter-clockwiseですよ)手で弦を巻き付けていきます。それ以上巻けなくなったら、今度はネジを六角レンチで右回り(clockwise)に回して巻取り、少しずつ弦に張力をかけていきます(レンチは短い方をボルトに挿して、長い方を持って回します)。弦に張力がかかってくると、弦を爪弾いたときに音が出るようになってくるので、ここで一旦、止めます。同様に3番、4番、1番と最低限度の張力(音になるギリギリくらい)をかけておきます。
なおレンチはペグボックス側面に挿して格納できるようになっています。よく考えられてます、ホント。

駒を立てる
指板後端とテールピースの間に、”駒(ブリッジ)”と称する小さな板を入れます。これは弦を支える土台であり、弦の振動をボディ(共鳴胴)に伝える役目を担います。また、駒は弦の振動する有効長を規定するパーツでもあります。ネックの先端(ナット)から駒までが弦の長さになるわけです。ヴァイオリンでは33cmとのこと。
弦の下、駒を表板に並行に置き、両手で駒の両端をしっかり保持して、駒を表板と垂直になるように起こして立てます。この際、表裏を間違えないように(駒は左右対称ではなく、一般に高音側が低くなっています)。
駒の位置は目分量ですが、指板の延長上でf字孔のfの字の縦方向の中央、ヴァイオリン表板の中心線(ネックの中心線の延長上の方向)に直交、表板に対して垂直、といったところ。左右位置ははネック先端側から見たときに、指板の端と駒の端との間隔が左右同程度に揃って見えればよいでしょう。ナット(ネック先端)から駒までの距離(弦の有効長)は前述の33cmが規定値です。
なお、駒上で弦を移動する(ずらす)際は、駒の表裏両側に指を一本ずつ差し入れて、二本の指で弦を持ち上げて移動するようにと指示がありました。
先生からの指示ではありませんが、筆者は駒の弦が通る溝に、持参した2B鉛筆の芯の黒鉛を潤滑剤として擦り付けました(6Bくらいのほうが良いらしい)。

フィッティングの取り付け
以上の作業で楽器本体としては完成です。あとは楽器として弾きやすくするためのパーツ、あるいは本体とは独立した交換可能なパーツ類を取り付けます。これらの付属パーツをフィッティングと呼びます。
ヴァイオリンはテール側を鎖骨に乗せて顎で軽く押さえて構えます。構えやすいように顎をのせる”顎当て”と称する台座を取り付けます。顎当ては脱着可能な後付けパーツなので、通常は、体型や構え方によっては交換するものです。
今回、顎当てはネジと接着剤で固定するため、あとから脱着・調整ができません。ヴァイオリンの後端のカーブに沿うように、かつ、テールピースに干渉しない位置に取り付けます。
軽バイオリンでは弦の張力を調整する(調弦する)糸巻きにはネジを使用しています。そのため、通常、ヴァイオリンのネック先端部分に横方向に飛び出している糸巻きは不要です。ですが、ヴァイオリンらしい形を演出するためでしょう、装飾用の糸巻きパーツが用意されているので取り付けます。ネック先端部、ペグボックスのあらかじめ開けられた穴に差し込むだけです。これ、つけた途端にヴァイオリンらしくなるから不思議ですよ。
調弦
ヴァイオリンには4本の弦があり、ピッチの低い方からソ(G3)、レ(D4)、ラ(A4)、ミ(E5)です。音律はピタゴリアン、完全5度に調弦します。
この段階ではまだ弓がありませんので、弦をはじいて発音して合わせます(当然ながら重音で合わせることはできません)。
調弦方法としては、先生から、スマホのチューナーアプリを使うと良いとのアドヴァイスがありました。また、教室では上記ソ・レ・ラ・ミを流してあり、こちらで合わせた方もあるかもしれません。筆者はこの基準音と、持参したクリップオンチューナーを用いました(*)。
*チューナーの音律はピタゴリアンあるいはヴァイオリン用を使用します。平均律のチューナーを使用される場合は、Aはそのまま、EとDはプラマイ2セント、Gはマイナス4セントくらいでピタゴリアンに近くなるかと思います。当日はA=442Hzでした。
調弦は2番弦Aから始め、3番D、4番G、1番Eと進め、再度、2番Aを合わせます。この二回目のAが大きく狂っていた場合は、調弦をやり直したほうが良いとの説明がありました。
このチューニングタイム、一時間ほどで、全員の調弦が完了。早く調弦できた方は、その間、ネック削りやサンディングなど、楽器の仕上げに勤しんでおられました。またご自分での調弦が難しい方には先生が一人ずつ合わせていかれましたので、これから参加される方はご心配なく。
*ヴァイオリンは頸部にそのテールエンドを押し付けて構えることになります。なので、ヴァイオリンのテール側、特に首に当たる付近をサンディングしてなめらかにしておくとよいでしょう。
とうとう、ヴァイオリンが仕上がりました。自分で作ったマイヴァイオリンをこれから弾くんです。ワクワクしますね。
弓の配布
弓は組み立て済みの状態で配布されます。弓ってどうやって作るのだろうと不思議に思っていたのですが、実にうまく工夫されています。さすがプロの作品。
加藤先生の弓の竿は、園芸用の支柱のような部材の太いものと細いものを組み合わせて構成されています。かつてはヴァイオリンの弦は羊の腸、弓は馬のしっぽの毛、つまり腸をしっぽの毛でこすって音を出す楽器とのお話がありました(現在では弦の材質はナイロンや金属が主流になってきています)。今回の弓では弓毛はナイロン糸とのことです。
弓の手元側には弓毛にテンションをかける仕掛けがあり、これを毛箱(フロッグ)といいます。加藤先生考案の弓では、これを2つの木片と蝶ネジだけで実現しているのです。凄いよ、これ。
この蝶ネジを締めて、弓毛が引っ張られて全体が揃うくらいのテンションをかければ、弾ける状態になります。通常の弓は”逆反り”ですが、この弓は文字通りの弓なり、バロックボウみたいですね。
逆反りでない点を除けば、フロッグの形状も含めて通常の弓と変わりないので、弓の持ち方の指導も通常の弓の持ち方と同じでした。右手で握り込まないように、フロッグに親指をかけて、人差し指は第1−第2関節、小指は竿の上において・・・といった具合です。
なお、弓毛にはすでに松脂がしっかり塗りつけてありましたので、当日、松脂は配布されましたが、参加者が松脂を塗る操作をする必要はありませんでした。
普段は配布された松脂を弓毛に擦り付けるだけでよいが、半年に一回程度、配布された松脂の表面に消毒用アルコールを少量つけて溶かした状態にした上で、弓毛に塗布すると良いとのことでした。
チューニング
弓の持ち方を教わったところで、皆で弾きます。
ヴァイオリンの構え方についての説明の際、肩当てについても解説がありました。セミナー当日は肩当てなしで弾きましたが、肩当てを必要とする方は、いわゆるスポンジたわしを輪ゴムでヴァイオリンの裏板に装着するとよいとのことです(先生のウェブサイトに「輪ゴムをエンドピンと左裏の角部分に引っ掛け、スポンジを差し込む」と記載されています)。
https://gakkinomori.jimdofree.com/%E8%BB%BD%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3/
まずはA線開放弦を皆で弾きました。「自分の音がおかしいと思った人は?」と先生が尋ねられると、多くの方が挙手。
再度、先生が一人ずつ、全員のヴァイオリンの調弦をチェック。めでたく全員揃い、全体のチューニングも完了!
「きらきら星」の練習
ヴァイオリンでは指一本が半音に相当する理論的根拠などの説明をはさみながら、演奏に移ります。
A3マニュアルには楽譜と音名(カタカナ)、指の位置など記載されています。まずはラ・ラ・ミ・ミ・ファ#・ファ#・ミーと区切って、少しずつ譜読みを進めました。
練習が終わっていよいよ全員でアンサンブル。伴奏に合わせて「きらきら星」を演奏します。おお!アンサンブル演奏、きれいに響きました。参加者の皆さんは感激されたんじゃないかと思います。とっても楽しかったんですよ。みんなで弾くのって。
もう一曲弾く意義
もう一ヶ所、指一本加えればさらに一曲弾けますよと、皆でアンサブル演奏。これまた大成功、皆さん、楽しく弾けました。
この指一本足すだけでもう一曲弾ける、この考え方が大切なのだと思います。一つできたら、誰しも、もう少しやってみたいと思う。もう少し練習してみよう。もう少し工夫してみよう。好奇心が刺激され、意欲が湧く。加藤先生はこのクリエイティブな気持ちを大事にしようというメッセージを、セミナーに込められているのだと思います。
お持ち帰り
さて完成した大事なマイヴァイオリン、無事、持ち帰らねばなりません。セミナーの持ち物として指定されていたのは、サイズ10x25x75cm程度の袋。
筆者は普通の買い物袋(トートバッグ)を持っていきました。ネックや弓が飛び出してしまうのは仕方がない。
ただ、この日は雨予報。せっかく作った大事なヴァイオリンを雨に晒したくありません。防水のため、45Lのゴミ袋も合わせて持参しました。さらに、ヴァイオリンケース用のレインカバーも。これがあると、ゴミ袋に入れたヴァイオリン本体と弓をまとめてくるんでしまえ、かつ、雨を防げるからです。
実際にヴァイオリンをビニール袋に入れて、弓(傘を入れるような白いビニール袋に入った状態で配布された)と一緒にレインカバーでくるみ、その紐をぎゅっと絞ると、うまい具合にひとかたまりにまとまりました。このひとまとまりを買い物袋に入れて、開口部中央のマグネットでとじて、持ち手を右肩にかけると、ちょうどネックと弓のはみだしたあたりが顔の右下前方、ヴァイオリン本体が体の右側面に落ち着き、とてもコンパクトかつ安全にに持ち運ぶことができましたよ(ヴァイオリンケースに入れるよりコンパクト)。
なお筆者は、駒周辺を保護するために、ハンドタオルを駒の前後、テールピースの下などに挟んで運びました。
*今回の軽バイオリン、サイズは通常のヴァイオリンとおなじなので、ヴァイオリンケースをお持ちの方はケースで運搬されるのもよいでしょう。
塗装についての説明
当日は塗装まではできません。後日、各自で行うことになります。これも先生から詳しい説明がありました。
加藤先生のウェブサイトをご覧いただくとよいのですが、通常の木の質感を活かしたニス仕上げ(いかにもヴァイオリンって見た目ですね)にする派と、個性的にトールペイント風に仕上げる派に大別されるようです。
ニス仕上げにする場合は、着色用水性ニスにほんの少し、アクリル赤を混ぜて複数回塗り重ねるとヴァイオリンらしい色味に仕上がるとのこと。
ニスを塗る際は、乾いた布で塗り拡げるとムラにならずに塗布できるそうです(ワイピング)。筆や刷毛で塗るとムラになりやすいとのことでした。
当日は実際に木片にニス塗装した色見本を提示していただきました(一部は先生のサイトに掲示されています)。なお使用する水性ニスはダイソーなどで調達できるそうです。
おわりに 人を笑顔にする”作って弾くヴァイオリン”
朝10時半から始まり、予定通り16時半に終了した今回のセミナー。長いようで、あっという間の6時間。終了後の参加者の皆さんの表情がとても良く、皆さん、ハッピーな一日をお過ごしになったことが見て取れました。加藤先生命名の”軽バイオリン”、手軽に手にでき、気軽に弾いて楽しめる、そんな意味が込められた”軽”の文字。筆者はさらに”かろやか”の”軽”もあるかと感じました。
作って弾いて楽しむヴァイオリン、人を元気にする効果が絶大ですね。
以上、「作って弾こう!憧れのヴァイオリン 1dayセミナー」のイベントリポートでした。一人でも多くの方に加藤先生の活動を知っていただき、また、これから参加しようという方の参考になれば幸いです。
*塗装など最終的な仕上げについては、下記参照(もういいって?)
まとめにかえて
当日持参して役立ったもの
・持ち帰り時の防水用大型ゴミ袋が雨よけに役立った
・ハンドタオル類(運搬時の駒周辺保護)
・筆記具(メモ用、ラベル記載用)
・B系鉛筆(駒・ナットの弦溝の潤滑に使いました)
・ゴーグル(作業時の目の保護)
・切創防止手袋(筆者は「ストロングンテ」の番手の細いタイプを持参したが、手掌に滑り止めがないタイプなのでキリを使う際に滑りまくりでした)
・マスク(防塵&感染対策)
・手指消毒用アルコールジェルなど
・チューナー
・昼食(日曜お昼のフードコートは大混雑)
経験者の方へ
・ヴァイオリンケース、顎当て、肩当て、弓などはそのまま使えました(サイズは通常のヴァイオリンと同一、弓はちょっとだけ短め)。
・松脂は配布されますが、すでに弓毛に塗布済みでした。
加藤正行先生のサイト
https://gakkinomori.jimdofree.com/
参考文献
記載にあたり用語など下記を参照しました
・「はじめての 弦楽器メンテナンスブック」 川幡宏, ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス, 2009.
・「最上の音を引き出す弦楽器マイスターのメンテナンス: ヴァイオリン ヴィオラ チェロ コントラバス」 園田信博, 誠文堂新光社, 2017.
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