見出し画像

灯りを渡されたあの夜|受け取れない罪悪感は、あなたの誠実さの影

心に、ひと呼吸の余白を。
咲かなくても、あなたは美しい。

こんにちは、ゆきのです。
 


 
あれは、まだ私が支援される側だった頃。

相談室の湯呑みから、白い湯気が立っていました。

窓の外では、誰かが傘をさして歩いている。
しとしとと降る雨の音が、遠くから静かに聞こえてきます。

その静けさの中で、向こうに座る方の穏やかな表情だけが、焦点の合わない視界にふっと残りました。 

 
「どうぞ」
 

 そう差し出されても。
私は手を伸ばしかけて、止まってしまいました。
  

受け取ってしまったら。
この温かさに見合う何かを、返さなければいけない気がして。
(たとえば、すぐ元気になることとか、笑顔で応えることとか)
 

喉はからからなのに、湯呑みに手を伸ばすのが少しこわい。
胸の奥で、小さな声がささやきます。

 
「申し訳ない」

「こんなに時間を割いてもらうほど、私は何もしていないのに」
 

優しくされるほど、苦しくなる夜。

ありがたいのに、受け取れない夜。
 

そんな日が、あなたにもあるでしょうか。
  


受け取ることへの罪悪感

 
これまでお話を聴かせてもらう中で、こんな言葉に出会うことがありました。

 
「すみません、こんな話ばかりで」

「時間をもらってしまって」
 

 
その言葉を聞くたび、胸の奥がきゅっと締め付けられるような痛みが走ります。

なぜなら、私自身も。
同じ言葉を、何度も何度も口にしてきたからです。
 

 
職を転々としていた頃。

友人が「今度、ランチでもしない?」と誘ってくれても、「おごらせてしまうかもしれない」ことが申し訳なくて。

支援の手が差し伸べられても、「迷惑をかける」ことが怖くて。

 
「大丈夫です」

「自分でやります」
 

そう言って、差し出された手を引っ込めていました。
本当は、助けてほしくてたまらなかった日も、きっとあったのに。
 


「飲まなくてもいい」という許可

 
それから数ヶ月後。

精神保健福祉士さんとの面談で、私はまた同じように、差し出された温かいお茶を前に固まっていました。

すると向かいに座る方が、湯呑みに視線を落として、静かに言いました。

 
「ゆきのさん。飲まなくても、いいんですよ」
 

 
え?
と顔を上げた私に、続けてこう言いました。

 
「ただ、両手で包んでみるだけでもいい。

冷えた手を、その温かさで温めるだけでも、いいんです」
 

その一言で、張り詰めていた肩の力が、ふっとほどけました。
 

私はいつの間にか、
「受け取る=全部を飲み干して、すぐに元気を出すこと」
だと思い込んでいたのかもしれません。

でも、ボロボロだった当時の私には、その期待に応えるのが重すぎた。

恐る恐る、指先で陶器に触れてみました。
思ったより、やさしい丸み。

両手で包むと、陶器の厚み越しに、じんわりと温度がてのひらに広がっていきます。

飲まなくてもいい。

全部じゃなくていい。

今できる分だけでいい。
 

全部を受け取りきれなくても、何かを返せなくても。

ただ、そこにある温かさを感じること。
 

その数秒間だけ、胸の奥の「申し訳ない」が、少し静かになりました。
 


罪悪感は、誠実さの影

 
しばらくして、その方がふと尋ねました。

 
「もし、あなたが相手のことを『どうでもいい』と思っていたら。
罪悪感は、生まれるでしょうか?」
 

 
ハッとしました。

罪悪感が生まれるのは。
相手を大切に思っているから。

 

 
「粗末にしたくない」

「傷つけたくない」

「できるなら、ちゃんと返したい」
 

そんな想いが『灯り』のように、あなたの心の奥にあるから。
その光が強いぶん、罪悪感という影も濃く落ちてくる。
 

影が濃いということは。
それだけ強く、灯りがあなたの中にあるということ。

たとえば、友人の誘いを断るときに「申し訳ない」と思うのは、 その友人を大切に思っている証拠です。
どうでもいい相手なら、罪悪感は生まれません。
 

罪悪感がある夜は、
あなたの中に優しさという“灯り”がある夜です。

影があるのは、灯りがある証拠だから。

その影は、あなたが誰かを大切に想っていることの、優しい証拠なのかもしれません。
 


受け取ることは、居場所を渡すこと

 
それからさらに時が経ち、少しずつ働けるようになった頃。

ある日、残業していた私に、先輩が温かい飲み物をそっと差し出してくれたことがあります。

私が反射的に「すみません、悪いです」と言うと。
先輩は、少し寂しそうな顔でこう言いました。
 

 
「ゆきのさん。受け取ってもらえないと、私の『応援したい気持ち』が、行き場を失っちゃうんだよ」
 

 
その言葉が、今も胸に残っています。
 

私は「迷惑をかけないこと」が優しさだと思っていた。

でも、受け取らないことは。
相手の優しさを「行き止まり」にしてしまうことだったのかもしれない。

 
受け取る人がいて、初めて。

優しさは「完成」して、居場所を見つける。
 

あなたが手を伸ばすことで。
誰かの「応援したい」という想いが、行き場を得る。

 
受け取ることは、奪うことじゃない。

優しさの“居場所”を、そっと渡すこと。

たとえば、相手の「応援したい」に、「ありがとう」だけ返すみたいに。

それは、弱っている時の私たちができる、静かな贈り物なのかもしれません。
 


【今夜のひとかけら】

 
もし今夜、温かい飲み物を手にする瞬間があったら。
 

飲まなくてもいい、と心の中でつぶやいてみませんか。
 

一口も飲まなくてもいい。
ただ、両手でカップをそっと包んでみる。

掌に伝わる温度を、ゆっくりと感じてみます。

 
「温かい」
 

それだけを、静かに味わう。
それだけで、今日は十分です。
 

 
もし「申し訳ない」という気持ちが顔を出したら。
追い払わなくて大丈夫です。

 
「ああ、私は相手を大切に思っているんだね」

「私の中に、誠実さという灯りがあるんだね」
 

そう静かに認めてみるだけで、今日は十分です。
 

受け取れない夜も、あなたの美しさです。
 

手が伸びない夜も、あなたの誠実さです。
 

光の中にいる日も。

影の中にいる日も。

ここは、あなたがいつでも灯りを受け取れる場所でありたい。
 

咲かなくても、あなたは美しい。
 

また、ここで。

 
ゆきの
 



【ココミチの「心の図書館」へようこそ】

この記事が、あなたの心に少しでも余白を届けられたなら幸いです。
「ココミチ」では、これからも心のゆとりと小さな気づきをお届けしていけたらと思います。


🌸 次に読む記事を探すなら
【迷ったら、まずここへ】

あなたの今の気持ちから、次の一冊を見つけられます。



【 あなたの心に近い枝葉 】

□ 優しさは返すものではなく、循環するもの
→ [ 優しさは呼吸 ]

□ 心の井戸が満ちると、自然にあふれ出す
→ [ 満たされた心から、静かに溢れるもの ]

□ 助けを求められない夜に、そっと寄り添う
→ [ 助けてと言えない夜に ]

□ 罪悪感の奥にある感情を知りたくなったら
→ [ 感情は、優しい翻訳者 ]


さらに記事を探すなら:
→ [ 📚 心の図書館・探索ガイド ]

いいなと思ったら応援しよう!