見出し画像

まだ赦せない夜に|岸へ着かない舟を、責めなくていい

こんにちは、ゆきのです。


夜、橋の上から川を見下ろすと、
水は思っていたより暗くて、
思っていたより、静かに流れています。

昼のあいだは気づかなかったことが、
夜になると、川面みたいに浮かんでくることがあります。

あの言い方。
あの沈黙。
大切にしてほしかったのに、雑に置かれた感じ。

たしかに傷ついたはずなのに、
それをうまく言えなかった自分のことまで、あとから苦しくなる夜があります。


そういう夜、心のどこかでこんな声が聞こえることがあります。

「もう気にしなければいいのに」
「早く手放したほうが楽なのに」
ゆるしたほうが、自分のためなのに」

たぶん、その言葉が間違っているわけではありません。

やわらかい意味で言われることもあるし、
本当にそこへ辿り着ける日もあるのだと思います。

でも、今夜の自分には、
その岸があまりにも遠く感じられることがあります。


ゆるしたいわけではない。
ずっと怒っていたいわけでもない。
ただ、まだそこに名前をつけきれない。

そんな夜に「ゆるせない自分はよくない」とまで思い始めると、
傷は二重になります。


以前の私は、早くどちらかに決めてしまおうとしていました。

「もう平気」と言い切るか。

「絶対に許さない」と固めるか。


でも実際には、その二つのあいだにいる時間のほうが、ずっと長かった。

岸へ戻るわけでもなく。
向こう岸へ渡りきるわけでもなく。
川の中ほどで、舟が揺れているような時間。

その場所にいる自分を、私はずっと「中途半端」だと思っていました。



けれど今は、少しだけ見え方が変わりました。
 

川の中ほどに舟をとどめることは、
弱さではないのかもしれない。

岸へ着かないのは、決断できないからではなく、
今の自分に必要な距離を、心が測っているからかもしれない。


近づきすぎると、また傷がひらく。
遠ざかりすぎると、自分の本音まで見えなくなる。

だから今夜は、このあたりで舟をつないでおく。


その判断は、心より先に、身体が知っていることがあります。

その人のことを思い出すだけで、背中が少し固くなる。
奥歯に、じわりと力が入る。
それは「まだダメ」という意味ではなく、
「ここは慎重に通りたい」という、身体からの静かな合図なのかもしれません。


そういう身体の感覚に気づくより先に、
早く結論を出さなければと焦っていた頃がありました。
ある夜、相談室で言われたことがあります。


「今夜は、結論を出さなくていいんじゃないですか」
 

その言葉を聞いたとき、
胸の奥で張っていた糸が、少しだけゆるんだのを覚えています。

結論を出さない。
それは投げ出すことではなく、
傷を雑に扱わないための保留でもある。


ゆるしには、時間が必要なことがあります。
そしてその時間は、ただ待つだけの空白ではなく、
傷と自分のあいだに、ちょうどいい距離を探している時間だと思います。
 


怒りの奥に、本当は守りたかったものがあります。

大切にされたかった。
信じたかった。
雑に扱われたくなかった。

その願いがあるから、痛みます。
だから、今夜まだゆるせないとしても、
それは、あなたの中に粗末にしたくないものがあった証でもあります。


もし今夜、手のひらをそっと開いてみることができたなら。

手放すためではなく、
何を握っていたのかを、自分で見失わないために。

心の中でこう置いてみる。

「今夜は、岸を決めない」

それだけでも、舟は少し安定することがある。


今夜のあなたの舟は、
まだ揺れながらも、ちゃんとここにあります。

それだけで、十分に、今日を渡っています。


咲かなくても、あなたは美しい。


ゆきの
 



【ココミチの「心の図書館」へようこそ】

この記事が、あなたの心に少しでも余白を届けられたなら幸いです。
「ココミチ」では、これからも心のゆとりと小さな気づきをお届けしていけたらと思います。


🌸 次に読む記事を探すなら
【迷ったら、まずここへ】

あなたの今の気持ちから、次の一冊を見つけられます。



【 あなたの心に近い枝葉 】

□ 赦せない熱の奥に、守りたかったものがある夜に
[ 怒らずにいた夜に|飲み込んだ熱は、何かを守ろうとしていた ]

□ 怒りの熱を、もう少し別の角度から見つめてみたくなったら
[ 理不尽な怒りを飲み込んでしまうあなたへ|握りしめていた、小石のこと ]

□ 離れてしまった関係を、終わりだけで見つめたくない夜に
[ 疎遠になった人を失ったように感じる夜に|人間関係にも季節があるのかもしれない ]

さらに記事を探すなら:
→ [ 📚 心の図書館・探索ガイド ]

いいなと思ったら応援しよう!