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疎遠になった人を失ったように感じる夜に|人間関係にも季節があるのかもしれない

心に、ひと呼吸の余白を。

こんにちは、ゆきのです。



疎遠になった人を、失ったように感じる夜があります。

何かが壊れたわけではないのに、もう戻れない気がして、胸が少し痛む。
けれど、人間関係にも季節があるのだとしたら。
この距離にも、まだ別の名前があるのかもしれません。
 


引き出しの奥の名前


昨日、引き出しの奥から、古い連絡先が出てきました。

小さなメモ用紙に、少し丸みのある文字。
かつて、よく一緒に笑っていた人の名前です。

紙の端が少し折れていて、指先で触れると、思ったより乾いた感触がしました。


捨てる気にもなれなくて。
でも、今さら連絡する勇気もなくて。

その名前を見つめていたら、胸の奥に、小さな痛みのようなものが浮かびました。


何か大きな出来事があったわけではありません。

ただ、会わなくなった。

ただ、連絡が途切れた。

それだけのことだったのだと思います。


それでも、その小さな途切れが、ときどき心に残ります。

あなたにも、ふと思い出す人はいるでしょうか。
 


疎遠になった人を失ったと思っていた


福祉の仕事を始めて間もない頃、私は同じ職場の先輩にずいぶん助けられました。

仕事帰りに安いカフェへ寄って、うまくできなかった日の話をしては、二人で笑っていました。

私が悩みすぎて言葉に詰まると、その人は


「ゆきのは、ほんとうによく考えるよね」
 

と言って、それ以上追ってきませんでした。
責めるでもなく、励ますでもなく。
その間合いが、いちばん楽だったのです。


やがて、その人は別の職場へ移りました。

毎週末の電話は月に一度になり、季節の変わり目だけになり、いつの間にか途切れていきました。


誕生日に「おめでとう」と送ろうとして、指が止まった夜のことを、今でも覚えています。


久しぶりすぎて、たったひと言が重たく感じられたのです。

会いたい気持ちが消えたわけではないのに、会うところまで気持ちが届かない。
そんな時期が、人にはあるのかもしれません。


あの頃の私は、
人間関係は続くほどいいもの。
長いほど確かなものだと、そんなふうに思い込んでいました。


だから、途切れた関係を見るたびに、
自分のどこかが足りなかったのだと、
静かに採点していたのだと思います。
 


人間関係にも季節があるのかもしれない


でも、ある日の帰り道、公園の木の下を通りかかったとき、
少しだけ考えが変わりました。


足元に、茶色い落ち葉がたくさん積もっていました。
風が吹くたびに、乾いた葉が、かさかさと小さな音を立てていました。

少し冷たい空気のなかで足を止め、見上げると、葉を落とした枝のあいだから、思っていたより広い空が見えました。


その姿を見たとき、ふと思ったのです。

葉を落とすことは、終わりではないのかもしれない。

ただ、その木が次の季節を生きるために、今の形になっているだけなのかもしれない、と。


人との関係も、少し似ているのかもしれません。

よく会う時期がある。

なんでも話せる時期がある。

名前を思い浮かべるだけで、ほっとできる時期がある。


けれど、暮らしが変わることがあります。

仕事が変わることもあります。

守りたいものや、使える力の量が変わることもあります。


そうやって、関係の距離や温度も、少しずつ変わっていく。

それは、壊れたというより、
人間関係の季節が静かに巡ったということに近いのかもしれません。
 


きれいに納得しなくていい夜


もちろん、こう言い換えても、寂しさが消えるわけではありません。

もう少し続いてほしかった、と思う夜もあります。

言えなかった言葉が、胸の奥に残ることもあります。


だから、無理にきれいに納得しなくていい。

「大切だったのに、離れてしまって寂しい」

まずは、その気持ちのまま置いておいてもいいのだと思います。


そして、もし少しだけ心に余白があるなら。

この関係は、いま、どんな季節の中にいるのだろう。

そんなふうに、そっと問いかけてみてもいいかもしれません。


春のように近かった時間。

夏のようにまぶしかった会話。

秋のように、静かに色が変わっていった日々。

冬のように、言葉が少なくなった今。


どの季節にも、そのときにしか見えない景色があります。


もし今、あなたが冬のような時間の中にいるなら。

葉を落とした枝のあいだからしか見えない空が、
いまのあなたには見えているのかもしれません。


連絡してもいいし、しなくてもいい。
まだ言葉にならないなら、そのままでもいい。

迷いながらその人を思い出していること自体が、
その関係を雑に扱っていない、ひとつのしるしなのかもしれません。
 


引き出しに戻した名前


あの夜、私はメモ用紙を捨てませんでした。
でも、連絡もしませんでした。
ただ、引き出しにそっと戻しました。

閉めたとき、小さな音がしました。
その音が、不思議と、少しだけやわらかく聞こえました。
——その夜だけ、そうだったのかもしれません。

離れてしまった関係が、すべて元に戻るとは限りません。
それでも、あの時間まで無意味だったことにはならないのだと思います。


一緒に笑ったこと。助けられたこと。言葉を交わしたぬくもり。
そういうものは、消えたのではなく、
形を変えながら、今の私たちのどこかに静かに残っているのかもしれません。


ふとした瞬間、あの人の口癖が自分の中から出てきて驚く。

誰かの話をじっと聴けるようになってきた気がするのは、
あの人がそうしてくれていたからかもしれない。

そんなふうに、あの時間は、いまも静かに混ざっているのかもしれません。


もし今、思い出すたびに胸が少し痛む相手がいるなら。
その関係を、すぐに「失ったもの」と決めなくてもいいのかもしれません。


離れてしまった関係を、急いで整理しなくていい夜もあります。
ここが、そんな夜にそっと腰を下ろせる場所であれたらと思うのです。


葉を落とした枝の間から見える冬の空は、
葉が茂っていた頃には見えなかった空なのかもしれません。

今はただ、まだ名前のつかない季節の途中に、
そっと立っているのかもしれません。


咲かなくても、あなたは美しい。

また、ここで。


ゆきの



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