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コルヒチン、ベラパミル併用。腎機能の数字が正常に見える患者で、私が考えたこと

学会で聞いた話は、いつか自分の目の前に実体をもって現れる——

そう言われたことがある。
いつそうなるかは、誰にも分からない。
でも、来るときには来る。

日腎薬学術集会の会場で、コルヒチンの代償機構の話を聴いたのは、もうずいぶん前のことだ。

コルヒチンの腎排泄は、約20%しかない。
残りは、CYP3A4とP-gpが代償している。
だから、腎機能が落ちてしまっただけでは、コルヒチンは致死的にならない

——でも、その代償機構が相互作用で破綻することがある。

同時服用した患者の10%以上が亡くなっていた、
という内容を覚えている。
腎障害のある人の相対リスクは、9倍。

帰り道、「自分の病院では、まずお目にかからないな」と思った。

それでも、私の頭には『珍しい話』として残り続けていた。

この記事で取り上げている症例は、複数の症例を掛け合わせており、個人が特定されないように配慮しています。


その朝、私は新しい入院患者のサマリーを開いていた。

回復期に来る人の処方は、
急性期からだけでなく、
在宅から長く続いてきた薬が多い。
一つずつ確認していく。

降圧薬、抗血小板薬、胃薬——いつもの並び。

そして、その下に「コルヒチン 0.5mg 頓用」と書いてあった。

一瞬、目が止まる。

回復期で、コルヒチンを見る機会はそう多くない。
続いて視線を上に戻すと、ベラパミルの名前があった。

——どっかで聞いたことある。なんだっけ?

すぐには思い出せなかった。
でも、何か、大切なことだった気がしていた。



腎機能評価と同じくらい大事にしている考え方

・・・どっちだったっけ?

腎臓のこと?
それとも、薬物動態で聞いた話?

実は、私には腎臓以外にもう一つ大事にしている分野がある。

PISCS(薬物相互作用の予測法)
——CYPやトランスポーターの寄与率から、相互作用の大きさを予測する考え方。
添付文書だけでは見えてこないものを読み解くために、ずっと勉強を続けている分野。

日腎薬か、PISCSか。
たぶん、そのどちらかだ。

私は自分の引き出しから参考書籍をひっぱり出した。
腎薬物療法の本、PISCSの解説書、学会で取ってきたメモのファイル。机の上に並べて、付箋の貼ってあるページを片っ端からめくっていった。

——あ。

あった。
日腎薬のほうだった。

ああ、そうだ。これだった。

コルヒチンの、腎排泄寄与は約20%。
残りはCYP3A4とP糖タンパクで代謝・排泄される。
だから、それらを阻害する薬と一緒に使うと、血中濃度が大きく上がる——。


コルヒチンが『危ない薬』になる仕組み

コルヒチンは、
知っている人にとっては「気をつけるべき薬」だ。

痛風発作の頓用
家族性地中海熱の長期投与
最近は冠動脈疾患への低用量投与の話も聞く。

少量で効く薬で、有効血中濃度と中毒域の距離が近い。
致死量はおよそ7mgとされていて、
これは0.5mg錠で14錠分にあたる。

そのコルヒチンには、
相互作用で血中濃度を大きく上げる相手がいる。

代表は、クラリスロマイシン
強いCYP3A4阻害薬で、
コルヒチンの血中濃度を2〜3倍に押し上げる。

米FDAは、腎機能・肝機能が低下した患者ではこの組み合わせを禁忌としている。

報告されている死亡例は、ひとつではない。

台湾の単施設の検討では、コルヒチンとクラリスロマイシンを同時に処方されていた88人のうち9人、10.2%が亡くなっていた。
先にクラリスロマイシンが終わってからコルヒチンを開始した群の死亡率は3.6%。
同時投与で、死亡リスクはおよそ2.8倍に上がっていた。

米国のFAERS(FDAの副作用報告データベース)の解析では、コルヒチンの相互作用関連で報告された58例のうち、30例が死亡していた。

日本でも、2026年6月、厚生労働省が課長通知でコルヒチンの用法・用量が「1日総投与量が1.5mgを超えないこと」と改訂された。
1.5mg/日を超える高用量投与患者で重篤な中毒症状(胃腸障害、血液障害、腎障害、肝障害)と死亡例が報告されたことを受けた措置。PMDAは同年2月の時点で、すでに電子添付文書の改訂を行っていた(Medical Tribune 2026年6月2日)。

そして、相互作用で問題になるのは
クラリスロマイシンだけではない。
これが本当にやっかいなところ・・・


代償機構が破綻するとき

コルヒチンは、
腎臓と肝臓の両方から排泄される薬。

腎臓から出ていく割合は、およそ20%。
残りの大部分は、肝臓のCYP3A4で代謝され、肝胆道系のP糖タンパク(P-gp)というポンプを通って、胆汁中に排泄されていく。

コルヒチンは、複数のルートで体の外に出ていく薬


ここまでなら、薬物動態の教科書に載っている話だ。でもその先に、コルヒチンを「危ない薬」にしている仕組みがある。

腎機能が低下すると、当然、腎排泄分が減る。
そのとき、肝代謝とP-gpによる排泄が代わりに働いて、血中濃度の上昇をある程度抑えてくれる。

つまり、腎機能だけ落ちた状態なら、減量しながら使うことはできる。

——問題は、その代償機構を止める薬を一緒に飲んでいるときだ。

  • CYP3A4を強く阻害する:クラリスロマイシン、エリスロマイシン、イトラコナゾール

  • P-gpを阻害する:ベラパミル、ジルチアゼム、シクロスポリン。

これらの薬が入ると、コルヒチンの肝代謝も、胆汁排泄も、同時に止まってしまう。出口が、複数同時に詰まるのだ。

したがって、腎機能が低下している患者がこれらの薬とコルヒチンを併用している場合—コルヒチンの血中濃度は予測できない高さまで上昇する。

——これが、日本腎臓病薬物療法学会の初代理事長・平田純生先生が、「薬剤師が厳重な注意を払って防止しないといけない非常に重篤な腎障害患者特有の相互作用」と書いたその正体だ。

平田先生は、私が腎臓領域に興味を持つきっかけになった方で、薬剤師の仕事とは何かを深く考えさせてくれる。

勝手に師と思っている先生だ。


その日、私が考えたこと

話を、患者さんに戻しましょう。

その患者さんは、下肢切断後。
痛風発作の既往があり、
コルヒチンは0.5mg、頓用での処方。
冠動脈疾患治療目的でベラパミルが入っていた。
腎機能の数字は、年齢相応に保たれていた——みためは。

私は、自分の中で考えを並べていった。

  • 下肢切断後で、クレアチニンベースの腎機能評価をそのまま信じていいのか

  • コルヒチンの腎排泄寄与は約2割、肝代謝・胆汁排泄が約8割

  • 仮に腎排泄分が使えないとすると、頼りは肝代謝・胆汁排泄の8割分

  • ベラパミルがP-gpを阻害している以上、その8割のうち、ざっくり半分が動いていない可能性がある

  • つまり、全体のクリアランスのかなりの部分で、代償機構が破綻していると考えられる

頓用とはいえ、痛みが続けば連続して飲む可能性がある。

並べてみると、数字上は問題なく見える患者で、相互作用としては典型的な「危ない組み合わせ」だった。

私は、看護師にリスクを共有した。
コルヒチンとベラパミルの組み合わせで何が起きうるか、頓用とはいえ複数回連続で飲んだときに何を見ておけばいいか、消化器症状やしびれ、血液検査のどこを気にすればいいか。

患者さん本人にも、実際にコルヒチンを飲む頻度を確認した。

結果として、入院期間中に頓用が使われたのは、1〜2回だった。大きな問題はなく、経過した。

けれど、もしもう一度、頓用が必要になったら
——私はもう一度、同じだけ考えたんじゃないかと思う。


知っているかどうかで、結末が変わる薬がある。

コルヒチンは、その一つだと思う。

添付文書上、ベラパミルとの組み合わせは『併用禁忌』ではなく『併用注意』だ。
だから、パソコンの相互作用チェックでは警告画面(アラート)で弾かれないし、文字面だけを追っているとスルーしてしまう。

でも、『いま、この患者さんの薬の出口は何割が塞がっているか』を立体的に想像すると、文字以上の危険性が浮かび上がってくる。

数字だけを見ていれば答えが出る薬と、
数字だけでは答えにたどり着けない薬がある。

コルヒチンは、後者だ。


『どこかで聞いたことがある』が、誰かを守る

学会の会場で聴いていたとき、
私は「自分の病院では、コルヒチンを使う事なんてないだろうな」と思っていた。でも、頭の片隅にこの話は残っていた。

「どっかで聞いたことある」
——その引っかかりが、本とメモをひっくり返す動作に変わり、平田純生先生の文章に辿り着き、看護師と共有する声に変わっていった。

そして、この記事を書いている最中に、厚労省からコルヒチンの用法・用量改訂の通知が出た。海外の死亡例の報告から、日本の現場での注意喚起へ。

私が学会で聴いた話と、目の前のサマリーと、国の動き——それぞれの時間軸が、いま重なっている。

薬剤師であれ、医師であれ、看護師であれ、すべての処方を一人で完全に把握できる人はいない。でも、「どこかで聞いたことがある」という感覚は、職種を問わず育てていけると思う。

どうか、こういう処方の前で立ち止まれる人が、一人でも増えますように。私もまだ勉強中だけど、こういう感覚を育てていきたいと思っています。

その感覚が、誰かの命を見えないところで守っているかもしれないから。


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参考文献

DrOracle. Why is colchicine contraindicated with clarithromycin, a macrolide antibiotic?

Hung IF, et al. Fatal interaction between clarithromycin and colchicine in patients with renal insufficiency. Clin Infect Dis. 2005;41(3):291-300.

Villa Zapata L, et al. Serious Adverse Events Associated with Drug-Drug Interactions Involving Colchicine. Drug Saf. 2020;43(9):881-892.

平田純生. 腎薬ニュース第2号「腎機能低下時の薬物相互作用」(2007年初出/2012年加筆). 日本腎臓病薬物療法学会.


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