【保存版】腎機能の数字だけでは答えが出ないと思っている14剤—回復期薬剤師の要注意薬リスト
カルテを開いた手が、止まる。
別の用事で開いたはずだった。
でも、画面のはしに映った数字が気になる。
——この人、腎機能下がってからしばらく経つな。
その違和感だけで、私は処方をもう一度確認する。
誰にも頼まれていない。
誰にも気づかれていない。
けど、これが私の大事にしていること。
ときどき、カンファの後にも同じことをする。
「最近ふらつきが増えて」と聞いたとき、
私はうなずきながら、頭の中ではもうその薬を探している。
——『長年薬剤師をやってきたから、こうやって確かめに戻る癖がついた』と言うべきかもしれない。
私の頭の中には、いつも並んでいるリストがある。
【腎機能別】薬剤調整リスト、14個。
ちゃんと書き出したことはない。
でも、浮かんでくるのは、いつも同じ順番だ。
プレガバリン、タリージェ——リハから「危ない」と言われた患者さんのふらつき。
トラマドール——悪心。
ファモチジン——急な帰宅願望。
リスペリドン——傾眠と流涎。
アマンタジン——「何目的?」と立ち止まる感覚。
浮かんでくる順番は、たぶん、
私の身体が覚えている順番なんだろう。
並べてみてから、気づいたことがある。
このリストには、それぞれ"最初に気づく人"がいる。
リハが先に気付く、患者さんのふらつきの原因となる薬。
看護師や管理栄養士が気づく、食事が進まない原因の薬。
薬剤師である私が、まっさきに気付かなければならない薬。
そして——処方箋が手元に来たその瞬間に確かめなければいけない薬。
でも、これは並べてみないと見えなかった。
だから今日、ここでその情報を並べて整理してみようと思う。
A:リハに止められる薬

① プレガバリン(リリカ)/タリージェ(ミロガバリン)
薬効:神経障害性疼痛治療薬
腎機能別調整:
eGFR 60以上:通常量
eGFR 30〜60:減量
eGFR 30未満:1日1回・低用量から
透析患者(プレガバリン):1日1回25〜75mg
タリージェも同じ判断軸。新規導入時はさらに慎重に
チェック:リハ介入時間に効きすぎていないか、必ず確認する
注意点:ふらつき・眠気・浮腫。蓄積で過鎮静
HONOの一言:リハから「ふらついて危ない」と言われた患者さんは必ずチェック。
② トラマドール(トアラセット含む)
薬効:弱オピオイド
腎機能別調整:
eGFR 30未満:投与間隔延長または減量検討
代謝物(M1)が腎排泄
チェック:悪心の訴えが出たら、まず腎機能と投与量を見直す
注意点:悪心・嘔吐・便秘・呼吸抑制
HONOの一言:私の経験では、悪心が最初のサインだったことが多い。「合わなかった」で片づけずに、腎機能と投与量を見直したい
③ ファモチジン
薬効:H2受容体拮抗薬
腎機能別調整:
eGFR 60以上:通常量
eGFR 30〜60:減量または投与間隔延長
eGFR 30未満:さらに減量(1日1回20mg以下を検討)
チェック:高齢者が「変なこと言う」状態になったら、まずH2ブロッカー飲んでないか確認する
注意点:せん妄・幻覚・帰宅願望様の言動。蓄積で中枢症状
HONOの一言:「最近変なこと言うんです」と相談されたとき、私がまず考えるのは「ファモチジン飲んでる?」
④ リスペリドン
薬効:非定型抗精神病薬
腎機能別調整:
eGFR 60以上:通常量
eGFR 30〜60:低用量から(0.5mg/日程度)
eGFR 30未満:さらに慎重に。半量・隔日も視野に
チェック:BPSDの少量処方でも、傾眠・流涎が出たら腎機能を再評価する
注意点:傾眠・覚醒不良・流涎・嚥下機能低下
HONOの一言:BPSDに対しての少量処方でも、腎機能が落ちると蓄積する。「少量だから大丈夫」とは思わない
⑤ アマンタジン
薬効:抗パーキンソン薬/抗インフルエンザ薬
腎機能別調整:
eGFR 60以上:通常量
eGFR 30〜60:減量
eGFR 30未満:大幅減量。半量・隔日も検討
透析患者:原則中止/極少量
チェック:処方を受け取ったら「誰のために、何のために」から確認する
注意点:せん妄・興奮・幻覚・ミオクローヌス。蓄積で中枢症状
HONOの一言:「誤嚥予防か、意欲向上か、どっち?」と立ち止まる感覚を、私は大事にしている。興奮状態になっていたら必要性と投与量を再チェック
B:私が先に気づきたい薬

⑥ ウブレチド(ジスチグミン)
薬効:コリンエステラーゼ阻害薬(神経因性膀胱・重症筋無力症)
腎機能別調整:
eGFR 60以上:通常量
eGFR 30〜60:減量検討
eGFR 30未満:原則中止または極少量
チェック:腎機能→ドネペジル併用→「いつから使ってる?」の順で確認する
注意点:コリン作動性クリーゼ(流涎・縮瞳・徐脈・呼吸困難)。長期処方で蓄積
HONOの一言:投与開始2週間がクリーゼチェックの重点期間。便通異常があれば投与量も再チェックしたい
⑦ ジゴキシン
薬効:強心配糖体(心不全・心房細動)
腎機能別調整:
eGFR 60以上:通常量で開始可だが、TDMで確認
eGFR 30〜60:減量(0.125mg隔日など)
eGFR 30未満:大幅減量。TDM必須
チェック:食思不振・悪心・徐脈のどれかで、もうTDM依頼の準備を始める
注意点:ジギタリス中毒(消化器症状・徐脈・視覚異常・不整脈)。腎機能低下で血中濃度上昇
HONOの一言:採血値が正常範囲でも、症状で先に気づくことがある。「次の採血を待つ」より、私から動きにいく
⑧ ピルシカイニド
薬効:Naチャネル遮断薬(Ic群抗不整脈薬)
腎機能別調整:
添付文書:CCr 60以上=150mg/日/30〜60=50〜100mg/日/30未満=50mg/日まで
個別eGFRで再評価すると、表示eGFR以上に低いことがある
チェック:バイタルと自覚症状が問題なくても、個別eGFRで再評価する
注意点:催不整脈作用・QRS延長。蓄積で心毒性。腎排泄寄与が大きい
HONOの一言:75mg/日 分3で飲んでいる人が、個別eGFR30未満。バイタルも自覚症状も問題ない。でも、理論上は危ない。——だから血中濃度測定をしたい
⑨ アロプリノール
薬効:キサンチンオキシダーゼ阻害薬(高尿酸血症)
腎機能別調整:
eGFR 60以上:通常量(200〜300mg/日)
eGFR 30〜60:減量(100〜200mg/日)
eGFR 30未満:50〜100mg/日まで
透析患者:透析後100mgなど
チェック:腎機能どおりに減量すると効かない。フェブキソスタットへの変更を提案する
注意点:重症皮膚障害(SJS/TEN)・骨髄抑制。腎機能低下で副作用リスク上昇
HONOの一言:「効かないから増量」ではなく、「効かないなら薬を変える」。心血管リスクを見ながら、私はフェブキソスタットへの切り替えを提案することが多い
⑩ DOAC(ダビガトラン以外の3剤)
薬効:直接経口抗凝固薬(心房細動・静脈血栓塞栓症)
腎機能別調整:
エドキサバン・リバーロキサバン・アピキサバン:各添付文書のCCr基準で減量
ダビガトランはCCr 30未満禁忌(今回の14剤からは除外)
腎機能だけでなく、併用薬(P-gp阻害・CYP3A4阻害)の確認が必須
チェック:まず腎機能、次に併用薬。「DOACなら安心」とは思わない
注意点:出血リスク。腎機能低下+相互作用で蓄積
HONOの一言:DOACは「ワルファリンより安全」と語られやすい。でも、腎機能と併用薬を外せば、安全な薬は一つもない
C:処方鑑査で止める薬

⑪ フィブラート系(ベザトール/リピディル)
薬効:脂質異常症治療薬(PPARα作動薬)
腎機能別調整:
ベザフィブラート:eGFR 60未満で減量、30未満で原則禁忌
フェノフィブラート:eGFR 60未満で減量、30未満で原則禁忌
スタチン併用時はさらに慎重に(横紋筋融解症リスク)
チェック:長年の継続処方で来る薬。脂質関連数値が下がりすぎていないか確認する
注意点:横紋筋融解症・腎機能悪化・肝障害。スタチン併用で副作用リスク上昇
HONOの一言:90代でサルコペニアが進んだ患者さんを前にして、私はこの薬を止めたいと思ったことがある。「何のために続けるか」が、薬剤師の問いになる
⑫ コルヒチン
薬効:痛風発作治療薬・家族性地中海熱治療薬
腎機能別調整:
eGFR 60以上:通常量
eGFR 30〜60:減量
eGFR 30未満:大幅減量・慎重投与
腎排泄寄与は少ないが、肝代謝(CYP3A4)とP-gpが代償している
CYP3A4阻害薬・P-gp阻害薬の併用で代償機構が破綻する
チェック:腎機能の数字だけで安心しない。併用薬リストを必ず開く
注意点:骨髄抑制・横紋筋融解症・多臓器不全。死亡例の報告あり
HONOの一言:腎排泄寄与が少ない、と聞いて安心したくなる薬。でも、その安心が崩れる仕組みがある——詳しくは後半で書きます
⑬ エルデカルシトール
薬効:活性型ビタミンD3製剤(骨粗鬆症)
腎機能別調整:
eGFR 30以上:慎重投与
eGFR 30未満:原則禁忌または極めて慎重に
補正Caで評価しないと、本当のCa値は見えない
実務マイルストーン:長期処方の継続行で目が止まる薬。補正Caで評価する
注意点:高Ca血症・腎機能悪化・尿路結石。長期投与で蓄積
HONOの一言:「ずっと飲んでいるから安心」と語られやすい薬。でも、補正Caで見ないと本当の値は分からない。継続処方こそ、定期的に止まって見たい
⑭ セフェピム注/バラシクロビル
薬効:
セフェピム:第4世代セフェム系抗菌薬(注射)
バラシクロビル:抗ヘルペスウイルス薬
腎機能別調整:
両剤とも、腎機能に応じた厳密な用量調整が必須
セフェピム:CCr基準で投与間隔延長・減量。透析患者は透析後投与
バラシクロビル:CCr基準で1回量・投与間隔を変更
チェック:腎機能を外せば中枢神経が壊れる薬。「いつもの量」で出さない
注意点:
セフェピム脳症:意識障害・ミオクローヌス・けいれん
バラシクロビル脳症:意識障害・幻覚・「痛い痛い」「ぴくぴく」と訴える患者像
HONOの一言:「痛い痛い」が止まらなかった人を、後から思い返したことがある。脳症だったのかもしれない、と気づいたとき、私は処方鑑査の重みを学んだ
並べてみて、見えたこと
並べてみて、気づいたことがある。
このリストには、三つの群があった。
最初の6剤——プレガバリンからアマンタジンまでは、患者さんの動きが先に教えてくれる薬だった。リハから「危ない」と言われる。看護師から「最近変なこと言う」と聞く。管理栄養士から「食事が進まない」と相談される。私はそれを受け取って、薬を見直す。
次の5剤——ウブレチドからDOACまでは、私が採血値や処方歴と向き合わなければいけない薬だった。バイタルは問題ない。自覚症状もない。でも、数字を見ると違和感がある。誰にも言われないけれど、私が動かないとずっと続くかもしれない薬。
そして最後の4剤——フィブラート系からセフェピム注まで。これは、処方が出る瞬間に確かめないと間に合わない薬だった。症状が出たときには、もう遅い。
——並べてみるまで、こんなふうに分かれているとは思っていなかった。
ふだんは「腎機能で調節する薬」とひと括りで持っていた頭の中が、書き出してみたら三層に分かれていた。
でも、リストを並べていて、もうひとつ気づいたことがある。
このリストの中に、二つだけ、私が手を止めたものがある。
ピルシカイニド
ひとつめは、ピルシカイニドだ。
75mg/日 分3で飲んでいる人を、つい先日見た。
在宅からの継続処方。
投与量はずっと変わっていない。
でも、個別eGFRを計算してみたら、30を切っていた。
バイタルも自覚症状も、何ひとつ問題ない。
本人もいつもどおりに過ごしている。
——でも、理論上は危ない。
こういう薬は、誰かに「危ない」と言われるよりも先に、私が気づかなければいけない。それが、このクラスタの薬たちの正体だ。
コルヒチン
もうひとつは、コルヒチンだ。
14剤を並べ終わってから、コルヒチンの箇所で手が止まった。
私がこれを入れたのは、古くから継続されやすいからだけじゃない。腎機能が低下すると、肝代謝が補う薬だから。腎排泄寄与が少ないと聞いて、安心したくなる薬だから。
でも、コルヒチンはCYP3A4やP-gpの影響を強く受ける。
クラリスロマイシンやベラパミルを併用したとき、代償機構そのものが止まる。死亡例の報告もある。
——腎機能の数字だけを見ていれば、答えが出ると思っていた頃の自分に、コルヒチンの箇所を見せたい。
このリストがあなたに渡すもの
書き始めたときは、これは「答えのある記事」になるはずだった。
腎機能別に薬を整理して、
調整目安を書いて注意点をまとめる。
検索で見つけてくれた人に、保存して持って帰ってもらう。
そういう実用的な記事。
でも、書き終えてみて、私はこう思っている。
——このリストは、答えを渡すリストじゃない。
数字だけを見ていれば答えが出る薬と、
数字を見ても答えにたどり着かない薬が、
同じテーブルの上に並んでいる。
それを、私はずっと頭の中で混ぜこぜにしていた。
書き出してみても、答えは出なかった。
でも、答えが出ない場所がどこかは、
少しだけ見えるようになった。
それも、一つの答えなのかもしれない。
14剤を並べてみて、私自身が一番驚いた。
「腎機能の数字があるから安心」と思っていた薬の中に、
数字だけでは答えにたどり着けない薬がこんなにあった。
このリストは、私が長年薬剤師をやってきたなかでゆっくり育ってきたもの。
「これも入れたほうがいい」
「うちの病院ではこの薬が問題」
というのがあれば、教えてもらえると嬉しい。
リストは、現場の数だけあるはずだから。
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