CKDで"腸に良い食事"は本当に良いの?:食物繊維・カリウム・腸内環境の板挟みを考える
前回の記事では、腸内細菌が産生するインドキシル硫酸などの尿毒素が、
腎臓や心血管にダメージを与えることを整理しました。
▼前回の記事はこちら
CKD患者さんの便秘について話をすると、
決まってこう聞かれます。
「野菜、たくさんとった方がいいですよね!」
一般的にはそのとおり。
食物繊維は腸内環境を整える上でとても大切な栄養素です。
でも、CKD患者さんにそのまま当てはまるかというと、
そう簡単ではありません。
療養指導の勉強を始める前は、
この事実をどんなふうに説明すればいいのか
とても困っていました。
野菜を多く食べると、カリウムも一緒に摂ることになります。
豆類や乳製品はリンが多い。
腸に良いとされる食品が、
CKD管理の食事制限と真っ向からぶつかってしまう。
「腸に良い食事」と「腎臓に優しい食事」は、
CKD患者さんの中で時に矛盾します。
でも、だからといって「食事はもう諦める」では終わりたくない。そこで今回は、
この板挟みをどう考えたらいいか
薬剤師と管理栄養士が一緒にできることは何か
この2点について、腎臓病療養指導士としての
経験も交えながら整理してみます。
■腸に良い食事って、何?
まず、「腸に良い食事」とはどんなものか
というところを整理しておきましょう。
腸内環境を整えるために大切な食事の要素は、大きく3つです。
① 食物繊維
野菜・豆類・きのこ・海藻・果物などに多く含まれます。
腸内細菌のエサになり、善玉菌を増やす働きがあります。
特に、腸内細菌が発酵・分解することで生まれる短鎖脂肪酸(酪酸など)は、腸のバリア機能を守り、炎症を抑える働きが知られています。
② 発酵食品
ヨーグルト・納豆・味噌・漬物などに含まれる乳酸菌や酪酸菌(プロバイオティクス)が、腸内細菌のバランスを整えます。
③ 水分
適切な水分摂取は腸の蠕動運動を助け、便秘を予防します。
これらを組み合わせることで、
腸内細菌のバランスが整い、
前回記で解説したインドキシル硫酸などの尿毒素産生を
抑えることが期待されます。
と、ここまでは一般的な話。
問題なのは、
CKD患者さんではこれがそのまま当てはまらない場面がある
ということなんです。
■CKD患者さんが抱える「食事のジレンマ」
腸内環境を整えるために大切な食品が、
CKD患者さんには
「食べにくい」
「食べすぎてはいけない」
ものになることがあります。

① 食物繊維とカリウムのジレンマ
食物繊維が豊富な食品の代表は
野菜・いも類・豆類・果物です。
しかし、これらにはカリウムも多く含まれます。
CKDが進行すると、腎臓がカリウムを排泄する力が落ち、
高カリウム血症のリスクが高まります。
そのため、カリウムを多く含む野菜や果物を制限する必要が出てきます。
腸を良くしようとすると、カリウムが上がる。
カリウムを下げようとすると、食物繊維が減る。
これが、最も悩ましい板挟みです。
以前、K吸着薬を服用中で便秘に悩んでいた患者さんがいました。
「便が出ないのは嫌。でも下剤は癖になりそうだから飲みたくない」
とおっしゃっていました。
尿毒素をためないために、下剤を使いたい。
でも患者さんは嫌がる。
結果、下剤を使うことになりました。
でもこのあと、その患者さんはこう言いました。
「入院中は薬を我慢して飲むけど、家に帰ったら果物と生野菜で頑張る。」
これには言葉に詰まりました。
気持ちはよくわかる。
でも、腎機能を考えると手放しで「それでいいですよ」とは言えない。
腎臓病療養指導士として、最も対応に難渋した場面のひとつです。
▼関連記事:薬の側からも、便秘やカリウム管理にどう関わるかを整理しています。
② リン制限と発酵食品のジレンマ
腸内環境を整える食品として知られるヨーグルト・チーズ・納豆・豆腐などは、リンも多く含みます。
CKDが進行すると高リン血症のリスクが高まるため、これらの摂取を控えるよう指導することがあります。
③ たんぱく制限とサルコペニアのジレンマ
CKDではたんぱく質の過剰摂取が腎臓への負担になるため、
たんぱく制限が行われることがあります。
でも、高齢の患者さんや回復期リハ病棟の患者さんでは、
たんぱく質が不足するとサルコペニアや低栄養が進んでしまいます。
リンが基準値上限ギリギリの状態でサルコペニアを抱えた患者さんが入院されたことがあります。
回復期としてはサルコペニアへの対応を優先したい。
でもリンは気になる。
しかもリン吸着薬は服用方法が煩雑で、
退院後も続けられるかどうかが心配でした。
これは管理栄養士と一緒に何度も話し合った、難しい症例でした。
④ 水分制限のジレンマ
便秘解消には水分摂取が効果的ですが、
CKDが進行すると水分制限が必要な場合があります。
特に透析患者さんでは水分管理が厳格なため、
「水分を増やして便秘を解消する」という選択が取りにくくなります。
これらのジレンマは、
「どれかを選べば正解」というものではありません。
患者さんの状態、生活背景、価値観を見ながら、
チームで一緒に考えていくしかないものです。
■回復期リハ病棟で見えること
先ほど挙げたジレンマは、どの病棟でも起こり得ます。
でも、回復期リハ病棟には、さらに特有の難しさがあります。
①食事量が日によって大きく変わる
急性期から回復期に移ってきた患者さんは、
入院初期は食事量が安定しないことが多いです。
リハビリが進むにつれて食欲が戻り、食事量が増えてくる。
反対に、疲労が出て食欲が落ちる日もある。
食事量が変われば、カリウムやリンの摂取量も変わります。
一律に「この薬を何錠」と決めにくい場面が多いのが、
回復期リハ病棟の特徴のひとつです。
②補食がリン・カリウム管理に影響する
リハビリを支えるために、筋力維持・栄養補給を目的とした補食が追加されることがあります。
しかし、市販の補食や栄養補助食品にはリンやカリウムが多く含まれているものもあります。
「サルコペニア対策で補食を追加したら、リンが上がった」という場面は、回復期リハ病棟では珍しくありません。
③退院後の生活が見えている
回復期リハ病棟では、入院中の治療と並行して、
退院後の生活を見据えた準備が進みます。
食事制限も「入院中だけ守れればいい」ではなく、
「退院後も無理なく続けられるか」が問われます。
患者さんが「家に帰ったら果物と生野菜で頑張る」とおっしゃっていた場面を、先ほど紹介しました。
あのとき私が感じたのは、
「制限を伝えるだけでは足りない」ということ。
患者さんが退院後に自分で判断できるように、
何を食べてよくて、何を控えた方がいいのか、
その理由まで含めて一緒に考える。
それが、腎臓病療養指導士として
薬剤師に求められることだと思っています。
もうひとつ、私が特に意識していることがあります。
それは、健康食品やサプリメントへの対応です。
腸内環境を整えようとして、患者さんが自分で乳酸菌サプリや青汁、食物繊維の粉末などを持ち込んでくることがあります。
こうした健康食品やサプリメントは、患者さんによって「薬に近いもの」と捉えていたり、「食品だから自由に摂っていい」と思っていたりと、認識に差があります。
薬剤師に相談してくる患者さんもいれば、
管理栄養士に話す患者さんもいます。
だからこそ、どちらに相談が来ても対応できるよう、
薬剤師と管理栄養士が常に情報を共有しておくことが大切
だと感じています。
「健康に良いと思って飲んでいたものが、実はカリウムやリンを多く含んでいた」という場面は、回復期リハ病棟では決して珍しくありません。
■ジレンマの中で、何ができるか
食事制限とのジレンマがあるからといって、
「もう諦めるしかない」ではありません。
制限の中でも工夫できることがあります。
そしてその工夫は、
薬剤師と管理栄養士が一緒に考えるからこそ生まれます。
① 調理の工夫でカリウムを減らしながら食物繊維を確保する
野菜のカリウムは、茹でこぼし・水さらし・細かく切って水にさらすなどの調理法によって、ある程度減らすことができます。

管理栄養士と連携し、「どんな野菜をどう調理すれば食べやすいか」を患者さんと一緒に考えることが、腸内環境を諦めない第一歩になります。
「カリウムがあるから野菜はダメ」で終わらせず、
「どうすれば少しでも摂れるか」を考える。
腎臓病療養指導士として、この視点を大切にしています。
② 過度な制限はPEWのリスクになる
たんぱく制限・エネルギー制限が厳しすぎると、PEW(タンパク質・エネルギーの消耗状態)が進むリスクがあります。
特に高齢者や回復期リハ病棟の患者さんでは、低栄養がサルコペニアや免疫力低下につながり、全身状態の悪化を招くことがあります。
「腎臓を守るための制限」が、結果として患者さんの体力や生活の質を奪ってしまう。これはで「木を見て森を見ない」治療になりかねません。
制限の必要性と、栄養状態を保つことのバランスを、管理栄養士と一緒に見ていく視点が大切だと思います。
③ 食事で補えない部分は、薬で整える
食事制限がある以上、食品だけで腸内環境を完璧に整えることには限界があります。だからこそ、薬剤師のアプローチが力を発揮します。
【引き算:便秘の原因薬を見直す】
リン吸着薬・カリウム吸着薬・鉄剤など、便秘に関わりやすい薬を見直し、減量・代替できないかを医師に提案します。下剤を足す前に、まず原因を取り除くという視点です。便秘薬だけでなく、漫然と続いている胃薬(PPI)や不要な抗菌薬も、腸内の良い菌を殺してしまうため引き算の対象になります。
【足し算:プロバイオティクスで腸内環境を直接整える】
食品から十分な発酵食品や食物繊維が摂れないのであれば、ミヤBMなどの酪酸産生菌(プロバイオティクス)を薬として補うことを検討します。腸内環境を整えることで尿毒素の産生を抑え、腎保護につながる可能性が研究で示されています。

プロバイオティクスと食物繊維(プレバイオティクス)を組み合わせる「シンバイオティクス」のアプローチも、腎機能保護の観点から有望な研究報告があります。
④ 薬剤師と管理栄養士が常に連携する
患者さんが健康食品やサプリメントについて相談してくるとき、それが薬剤師に来るか管理栄養士に来るかは、その患者さんの認識次第です。
どちらに相談が来ても対応できるよう、日頃から情報を共有しておくことが大切です。
「食事の話は栄養士、薬の話は薬剤師」と分けるのではなく、患者さんの全身状態を一緒に見るチームとして動くことが、ジレンマの中での最善策につながると感じています。

まとめ:CKDの腸活は「引き算と足し算」で考える
CKDがある場合、「腸に良い食事」をそのまま実践することは難しい現実が多々あります。
しかし、「何もできない」ではなく「工夫次第でできることはある」というのが、本記事を通じてお伝えしたかったことです。

CKD患者さんの腸内環境を守ることは、尿毒素の産生を抑え、腎機能の悪化を少しでも遅らせることにつながります。
薬剤師として、「食事の話は栄養士の仕事」と線引きするのではなく、患者さんの生活全体を見ながらチームで動く——その姿勢が、ジレンマだらけのCKD管理の中での最善策だと感じています。
▼次回は、腸内細菌が産生するTMAO(トリメチルアミンN-オキシド)と腎・心血管リスクについて整理します。
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