【2026年改定】薬剤総合評価調整加算160点で何が変わる?回復期リハ薬剤師が動くべき5つの実務ステップ
この記事は当初有料で公開していましたが、
回復期リハ病棟でCKD高齢患者さんを診ている
PT/OT/ST・看護師・薬剤師の方に、できるだけ広く役立てていただきたいと考え、2026年4月23日より無料公開に変更しました。
今後は、この記事をベースにしたさらに実践的な事例・ツール集などを別途有料コンテンツとして準備していく予定です。
「この患者さん、なんかリハがうまく進まないんですよね」
PTさんからのひとこと。
……あるあるです。
回復期リハビリテーション病棟に来る患者さんには、
だいたいこういう方がいる。
eGFR30台。
内服薬は10種類以上。
ふらつきがある。
起立性低血圧もある。
夜間は頻尿でぐっすり眠れず、日中はぼーっとしている。
そして便秘。
──そして、内服整理が必要だとわかっていても、
忙しい現場では「いつ、誰が、何点で動くか」がわかりにくい。
2026年度改定で薬剤総合評価調整加算が160点に引き上げられたことは、回復期リハ薬剤師にとって追い風です。
この記事では、その加算を実際に算定するための5つの実務ステップを、現場の流れに沿ってお伝えします。
リハがうまく進まないのは、筋力の問題だけじゃない。
……もしかして、薬のせいじゃないか?
そう気づいたとき、薬剤師の仕事が始まります。
この記事は、回復期リハ病棟で
CKD高齢者を診ている
PT/OT/ST・看護師・病棟薬剤師の方に向けて書きました。
回復期リハ病棟は、本来「回復する場所」だ。
でも正直なところ、10剤以上の薬を抱えて
ふらふらしながら回復できる人は、そう多くない。
CKD(慢性腎臓病)がある高齢者では、
腎機能の低下によって薬が体内に蓄積しやすい。
「普通の量」が、その人にとっては
「多すぎる量」になっていることがある。
薬の副作用が、リハの邪魔をしているという状態。
その構造を、チームで整理するのが「ポリファーマシー対策」だ。
2026年度の診療報酬改定で、
「薬剤総合評価調整加算」が100点から160点に引き上げられた。
点数が上がっただけじゃない。
変わったのは「評価の範囲」だ。
院内で薬を減らして指導するだけでは、もう算定できない。
退院後の医療機関や薬局への文書による情報連携まで含めて、
はじめて160点になる設計に変わった。
・どんなCKD高齢者で薬を見直すか
・多職種(リハ・Ns・薬剤師)がそれぞれ何を見るか
・退院・転院時の薬剤情報連携をどう書けばいいか(文例テンプレ付き)
つまり「減薬は退院したら終わり」ではなくなった。
地域へつながる減薬が、チームに求められている。
この記事でわかることは、次の3つ。
● どんなCKD高齢者で薬を見直すか。
● 多職種(リハ・Ns・薬剤師)がそれぞれ何を見るか。
● 退院・転院時の薬剤情報連携を、どう書けばいいか。
難しい薬の話は、できるだけ省きます。
一緒に、チームで「減薬」を動かしていきましょう。
※2章途中以降は有料部分です。
具体的な減薬候補の見つけ方、多職種での動き方、退院時情報連携の文例テンプレやQ&Aを、回復期リハ病棟の実例ベースで解説しています。
【忙しい方への読み方ガイド】
薬剤師の方は「2章・3章・4章・5章・6章」
リハ職の方は「1章・2-2・3章・4章・7-2」
看護師の方は「1章・2-2・3章・4-3・5章・6章」
を中心に読んでいただくと、
忙しくても業務に直結するポイントを押さえやすくなります。
1章 回復期リハ病棟の「CKD高齢ポリファーマシーあるある」
1-1. Aさんのケース
Aさん、80代女性。
大腿骨頸部骨折の術後リハ目的で転入。
持参薬を確認すると、内服薬が12種類。
高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、逆流性食道炎、不眠、頻尿
……病名の数だけ薬がある。
血液検査を見る。
eGFRは28。CKD G4。
……これは、整理しないといけない。
入棟から数日後、PTさんから声がかかる。
「Aさん、立位練習のときにふらつきが強くて。
血圧も下がりやすくてりはできない日があります。」
起立性低血圧。
降圧薬が3種類入っていた。
「夜もあまり眠れていないみたいで、
日中ぼーっとしてることが多いです。」
睡眠薬が入っていた。
しかも長時間作用型のベンゾジアゼピン系。
腎機能低下があれば、さらに薬が抜けにくい。
「リハの集中力がなくて、指示が通りにくいこともあって……」
抗コリン作用のある薬が複数重なっていた。
こういう患者さん、回復期リハ病棟にいませんか?
「リハが進まない」の原因を、
身体機能や認知機能だけで考えていると、見落とすことがある。
薬が、リハの邪魔をしているかもしれない。
1-2. なぜリハに影響するのか
CKD高齢者では、腎機能の低下によって薬の排泄が遅くなる。
つまり「普通の量」が体に残りすぎる。
結果として何が起きるか。
ふらつく。
眠い。
ぼーっとする。
血圧が下がりすぎる。
便秘になる。
夜間に何度も起きる。
……全部、リハの質を下げる症状だ。
さらに、ここに「転倒リスク」と「褥瘡リスク」が重なってくる。
ふらつきがあれば転ぶ。
転べば骨折する。
骨折すれば、また入院が伸びる。
活動量が落ちれば、栄養状態も落ちやすい。
低栄養+圧迫が重なれば、褥瘡ができやすくなる。
「薬でフラフラしていると、せっかくのリハが進まない」
これは感覚論じゃない。
『薬物有害事象がADL低下・転倒・褥瘡と直結する』
という構造の話だ。
だから、回復期リハ病棟での減薬は
「薬を減らすこと」が目的じゃない。
「リハを、きちんと届けること」が目的だ。
その手段として、薬を整理する。
2章 2026年度改定:薬剤総合評価調整加算160点の「ざっくり概要」
2-1. 点数・要件のポイントだけ整理
まず、数字の話から。
2026年度の診療報酬改定で、
「薬剤総合評価調整加算」が100点→160点になった。
増えた60点の正体は何か。
実は、これまで別立てで存在していた
「退院時薬剤情報連携加算(60点)」が廃止されて、
この加算に統合された。
つまり、こういうこと。
減薬+指導+情報連携、
この3つをセットでやって、はじめて160点。
以前は「院内で薬を整理して、患者さんに指導すれば100点」だった。
今は「退院後の医療機関や薬局に、文書で情報をつないで、
はじめて160点」になった。
算定の基本要件も確認しておく。
入院前に6種類以上の内服薬が処方されていた患者さんに対して、処方内容を総合的に評価・変更し、かつ「療養上必要な指導および情報連携」を行った場合に、退院時1回限り算定できる。
ポイントは3つ。
①入院前から6種類以上あること。
②処方内容を実際に変更すること。
そして、
③退院後の受け皿(外来、かかりつけ医、薬局など)に文書で情報をつなぐこと。
「変更した」「指導した」だけでは、もう足りない。
「つないだ」まで含めて、評価の対象になった。
もう一つ、「薬剤調整加算」(150点)という上乗せ加算の存在。
薬剤総合評価調整加算を算定した患者で、次のいずれかに該当する場合に150点を上乗せできる。
①退院時に処方される内服薬が 2種類以上減少し、その状態が 4週間以上継続すると見込まれる場合
②入院中の経過の中で、抗精神病薬の種類数が 2種類以上減少した場合
要件を満たせば「薬剤総合評価調整加算160点」に加えて「薬剤調整加算150点」が算定できるため、合計 310点 まで評価されることになる。
「一時的に減らしてみる」だけでなく、
退院後も続ける前提で減薬すること。
そして抗精神病薬の適正化も含めて評価する仕組みに変わった、
とイメージしてもらえるとよいと思う。
2-2. 回復期リハ病棟との関係
「なんだ、薬の話か……うちには関係ないかも」
と思ったPTさん、OTさん、STさん。
めちゃくちゃ関係あります。
回復期リハ病棟に入院してくる患者さんは、
CKD高齢者・多剤併用・ADL低下、
この3つが揃っていることが多い。
そしてこの加算の算定要件を読むと、
「多職種による連携のもとで、薬剤の総合的な評価を行う」
と書いてある。
薬剤師だけで完結する話ではありません。
リハが見た「ふらつき」「集中力の低下」「血圧の変動」。
Nsが記録した「夜間頻尿」「アドヒアランスの乱れ」「食欲の変化」。
そういう現場情報があってはじめて、
薬剤師は「この薬が怪しい」と動ける。
160点の中に、リハや看護師の目線が入っている。
そう思って読んでもらえると、
この加算の意味が変わってくると思う。
もう一つ視点を加えると、この加算は
「転倒予防」「心不全再入院予防」とも間接的にリンクしている。
薬を整理することで転倒リスクが下がる。
過剰な降圧が改善されれば、循環動態が安定しやすくなる。
回復期リハで「リハを届ける」ことと、
「薬を整える」ことは、実は同じゴールを向いている。
チーム医療の評価の中心に、薬剤総合評価が入り込んできた改定、
と捉えてほしい。
「減薬の責任範囲が、退院後まで伸びた改定」と捉えると、
この変更の意味がわかりやすい。
とはいえ、
「すべてを完璧にやらないといけない」という話ではない。
まずは1人の患者さんで、
1剤の減薬+1枚の情報連携からで十分だ。
その積み重ねが、チームの文化になっていく。
3章 CKD高齢ポリファーマシー患者の「減薬候補」をどう見つけるか
3-1. スクリーニング:誰を対象にする?
「減薬を考えたほうがいい患者さん」を、どうやって見つけるか。
薬剤師がひとりで全患者を同じ深さで見るのは、
正直むずかしい。
だから、まずスクリーニングが必要になる。
うちの病棟で意識しているのは、こんな目安。
①内服薬が7種類以上、特に10種類を超えていたら要注意。
②CKDのステージがG3b〜G4(eGFRが45を下回るあたり)であれば、薬の蓄積リスクを意識する。
そこに
③「ふらつき」「転倒歴」「せん妄」「夜間頻尿」「便秘」「食欲低下」のような症状が重なっていたら、薬との関連を疑いにいく。
3つ以上当てはまったら、薬剤師に声をかけてほしい。
リハの現場で言えば、
こんなサインが「薬を疑うきっかけ」になりえる。
・立位練習のときに血圧が急に下がる。
・リハ中に眠そうにしている。
・ふらつきが強くて歩行練習が思うように進まない。
・指示が通りにくい日と通りやすい日がある。
そのサインを「この患者さん、最近こういうことがあって」
と薬剤師に伝えてくれるだけで、評価の糸口になる。
「薬のことは薬剤師の仕事」ではなく、
「現場で起きていることを教えてくれる人がいて、はじめて薬剤師が動ける」という構造を、ぜひ頭に置いておいてほしい。
3-2. 減薬候補になりやすい薬のカテゴリ
ここは「薬の超入門」として読んでほしい。
専門的な話は薬剤師に任せてもらえればいい。
でも「この薬のカテゴリは要注意かも」という感覚を、
リハ・Nsの方にも持っておいてもらえると、
チームの精度が上がる。
① 抗コリン作用のある薬
口が渇く、便秘になる、尿が出にくい、
ぼーっとする、記憶力が落ちる。
そういう副作用を「抗コリン作用」という。
問題は、抗コリン作用を持つ薬が
「いかにも怪しそうな薬」とは限らないことだ。
過活動膀胱の薬(例:オキシブチニン)
抗ヒスタミン薬
一部の抗うつ薬(例:アミトリプチリン)
胃腸薬
……日常的によく処方される薬に、
抗コリン作用が隠れていることがある。
高齢者では加齢とともに抗コリン作用への感受性が上がる。
CKDがあれば薬が抜けにくくなる。
複数の薬の抗コリン作用が重なると、
認知機能やADLへの影響がじわじわ出てくる。
回復期リハあるある:
STの訓練中、「先週より指示の入りが悪くなった気がする」という変化。
原因を探ると、頻尿対策として入院中に追加された薬に抗コリン作用があった、というケースがある。
「新しく追加された薬」は特に注意が必要だ。
リハで「なんかぼーっとしてるな」と感じたとき、
抗コリン薬の重複がないか、薬剤師に確認を投げてほしい。
② ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では、ベンゾジアゼピン系は「可能な限り使用を控える」薬として明示されている。
転倒リスクが上がる。
翌朝まで眠気が残る。
筋弛緩作用でふらつきが出る。
特に長時間作用型(例:フルラゼパム、ニトラゼパム)は、
腎機能が落ちていると薬が体に残りやすく、
日中のぼーっとした状態につながりやすい。
回復期リハあるある:
「夜眠れないから」と入院前から長年飲んでいた睡眠薬が、そのまま継続されているケース。本人は「これがないと眠れない」と言うが、実はその薬のせいで日中のリハに集中できていない、という逆説が起きていることがある。
減薬後に「こんなにすっきり起きられるとは思わなかった」と驚く患者さんも少なくない。
非ベンゾジアゼピン系(例:ゾルピデム、エスゾピクロン)も転倒リスクがあり、高齢者では慎重な使用が求められる。
③ NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
痛み止めの定番だが、CKD患者には要注意の薬。
NSAIDsは腎血流を低下させる作用があり、CKD患者では腎機能をさらに悪化させるリスクがある。
CKD診療ガイド2024でも、CKD患者への投与を避けるべき薬として明示されている。
回復期リハあるある:
リハ中の疼痛管理のために「とりあえずロキソプロフェン」となっているケース。骨折後のリハ中は痛みが出やすいので、疼痛コントロールのニーズ自体は当然だ。でもCKDがある患者さんでは、アセトアミノフェンへの切り替えや用量見直しが先に来る。「痛みを取ること」と「腎臓を守ること」を両立させる視点が必要になる。
④ PPI(プロトンポンプ阻害薬)の漫然長期投与
胃を守るために処方されたPPIが、明確な適応なく何年も続いていることがある。
CKD診療ガイド2024では、PPIの長期使用がCKDの発症・進展リスクになりうることも指摘されている。
回復期リハあるある:
「胃が弱いから」とずっと飲んでいるが、今は特に胃の症状もなく、NSAIDsも抗血小板薬も飲んでいない。なのにPPIだけがずっと続いている。入院という「処方を棚卸しするタイミング」があるからこそ、「これ、まだ必要ですか?」と確認できる。
⑤ 多剤・高用量の降圧薬
高血圧の治療は大切だ。でも、回復期リハで活動量が上がってきた患者さんに、入院前と同じ量の降圧薬がそのまま入っていることがある。
その結果、起立性低血圧が起きる。リハ中に血圧が下がりすぎる。
回復期リハあるある:
入院前は安静にしていたから血圧が高めだった。でも回復期に入って歩き始めると、もともとの薬の量が多すぎてふらふらする。PTが「リハ開始後に血圧が急に下がる」と気づいて報告してくれたことで、降圧薬の見直しにつながったケースがある。「リハで動けるようになった」こと自体が、薬の見直しサインになることがある。
⑥ 一部の向精神薬
抗精神病薬のなかには、過鎮静・錐体外路症状・転倒リスクを高めるものがある。
「不穏があったから」「せん妄対応で入った」という経緯で処方されたまま、整理されずに続いていることがある。
回復期リハあるある:
急性期病院で不穏対応として入った薬が、回復期に転院してきても継続されているケース。本人はすでに落ち着いているのに、薬だけが残っている。「動きがぎこちない」「表情が乏しい」という印象をリハ職が抱えていたが、その原因が向精神薬の継続にあった、ということがある。
これらのカテゴリはあくまで「怪しいかもしれない薬の目安」だ。
実際に減らすかどうかは、主治医・薬剤師・多職種での評価と合意が必要になる。
大事なのは「現場で気づいた変化を、薬剤師に届けること」。
それだけで、チームの動きが変わる。
【CKD高齢ポリファーマシーで"まず疑いたい薬カテゴリまとめ"】
・抗コリン作用薬(頻尿薬・一部抗うつ薬・抗ヒスタミン薬など) ・ベンゾジアゼピン系睡眠薬
・抗不安薬
・NSAIDs(ロキソプロフェンなど)
・PPI漫然長期投与
・多剤・高用量の降圧薬
・一部の向精神薬(過鎮静・錐体外路症状に注意)

これらの薬+リハ中のふらつき・眠気・集中力低下があれば、
ぜひ薬剤師に声をかけてください。
4章 多職種で動く:リハ・Ns・薬剤師の役割分担
4-1. 減薬カンファレンスの4ステップ
減薬というのは、薬剤師が
「この薬を減らしましょう」と言って終わる話じゃない。
現場情報の収集→薬学的評価→多職種での合意形成→患者・家族への説明と退院後連携、という流れがある。

そしてこの流れの最初を支えるのは、
リハやNsが持っている「現場で起きていること」だ。
情報がなければ、最適な薬物療法に結びつかない。
4-2. リハ(PT/OT/ST)が見るべきポイント
★PTが見ているのは、立位・歩行のときの身体的な変化だ。
「今日は血圧の下がり方がいつもより大きかった」
「ふらつきが強くて手すりを離せなかった」
「リハ開始直後だけ特にしんどそう」。
こういう観察は、そのまま薬の副作用評価につながる。
★OTが見ているのは、日常生活動作のなかの変化だ。
「食事動作のときに集中力が続かない」
「手の震えが気になった」
「更衣動作のときに疲労が早い」。
活動の質の変化は、薬の影響が出やすいところでもある。
★STが見ているのは、
認知・コミュニケーション・嚥下の変化だ。
「指示の入りが日によって違う」
「いつもより反応が遅い」
「むせが増えた気がする」
向精神薬や抗コリン薬の影響は、
STの観察から見えてくることがある。
「この時間帯だけ特にしんどい」という情報は特に重要だ。
薬の血中濃度は時間帯によって変動する。
「朝の内服後1〜2時間だけぼーっとする」
「夕方になると急に眠くなる」
といった時間帯情報は、
どの薬が原因かを絞り込む手がかりになる。
気づいたことは、できるだけ
「いつ・どんな状況で・どう見えたか」を添えて共有してほしい。
4-3. Nsが整理する情報
Nsが持っている情報は、薬剤師にとって宝の山だ。
バイタルの推移(特に起立時の血圧変動)
排尿回数・夜間頻尿の状況
便通の変化
睡眠の質
内服アドヒアランスも重要だ。
「自分で飲む量を調整している」
「飲み忘れが多い」という情報は、
薬の効果が安定していない可能性を示している。
食欲の変化
せん妄の兆候
日中の覚醒状態
これらは毎日の関わりの中で自然に集まってくる情報だ。
でもそれが「薬との関連かもしれない」
という視点で整理されると、
薬剤師の評価は一気に精度が上がる。
「最近、夜間に3〜4回起きているみたい。」
「日中もぼーっとしています」
この一言が、薬剤師への大切なパスになる。
4-4. 薬剤師が担う評価
リハ・Nsから情報を受け取った薬剤師は、何を見るか。
まず、CKDのステージと薬剤の相性を確認する。
eGFRをもとに、
腎排泄型の薬が適切な用量で使われているかを確認する。
腎機能が低下しているのに「標準用量」がそのまま入っていれば、過量になっている可能性がある。
次に、減らせそうな薬の候補と優先順位を整理する。
3章で挙げたような
「高齢者に注意が必要な薬」が重なっていないか。
抗コリン負荷が積み重なっていないか。
必要性が薄れているのに漫然と続いている薬はないか。
そして、減らした場合の注意点とフォロー方法を整理して、
多職種と共有する。
「この薬を減らした後、最初の1週間は血圧の変動に注意してほしい」
「この睡眠薬を中止する場合、急にやめると反跳性不眠が出ることがあるから、段階的に減らす」。
薬を減らした後のモニタリングまで、薬剤師の仕事に含まれる。
4-5. うちの病院の場合:「リハ薬剤チェックシート」という仕組み
ここで、うちの病院でやっている実践例を紹介したい。
「リハ薬剤チェックシート」という運用だ。
回復期リハ病棟で多職種連携の話をすると、
「カンファレンスで情報共有する」という答えが返ってくることが多い。
それはそれで大事だ。
でも週1回のカンファで「気になることはありますか?」と聞かれても、その場で整理して言語化するのはなかなかむずかしい。
特にリハの現場で起きていることは、
「なんとなく気になる」レベルのことが多い。
それが薬と関係しているかどうかは、その場では判断できない。
そこで作ったのが、チェックシートだ。
構成はシンプルで、
共通項目+PT・OT・STそれぞれの視点の3ブロックに分かれる。
共通項目では
「立位時にふらつきがある」
「リハ中に血圧が大きく下がる」
「日中の覚醒レベルが低い」
「指示の入りが悪い日がある」といった項目に、
あてはまればチェックを入れる。
PTの欄には歩行・立位に関する変化。
OTの欄には上肢動作・ADL・疲労感に関する変化。
STの欄には認知・嚥下・コミュニケーションに関する変化。
それぞれの視点で「リハ現場で起きていること」にチェックを入れて、薬剤師に情報提供する。
薬剤師はそれをもとに「薬がリハを妨げている可能性」を評価して、必要であれば医師に処方見直しの提案をかける。
このシートの何がいいかというと、
「言語化のハードルが下がる」ことだ。
「なんか気になる」が、チェックを入れるだけで情報になる。
PTさんが「今日はふらつきが強かった」と感じたら、
シートに一つチェックを入れるだけでいい。
それが薬剤師への橋渡しになる。
「薬のこと薬剤師に言っていいのかな」という遠慮も、
シートがあると消えやすい。
「チェックを入れて渡す」という行為が、
自然な情報共有の入り口になる。
もし病棟にこうしたシートがなければ、
まずは3つくらいの項目だけを手書きのメモにして
共有するところからでも十分だ。
「完璧なフォーマット」より、
「情報が動き始めること」を優先してほしい。
完璧な仕組みじゃなくていい。
「リハで気になったことを、薬剤師に届ける流れ」
が病棟に存在するかどうか。
それが、減薬チームの第一歩だと思っている。
5章 退院・転院時の「薬剤情報連携」をどう書くか
5-1. なぜ情報連携が必須になったのか
減薬は、退院したら終わりじゃない。
これが、2026年度改定の一番大きなメッセージだと思っている。
入院中にどれだけ丁寧に薬を整理しても、
退院後に「元の処方に戻ってしまう」ことがある。
かかりつけ医に「入院中に何かあったんですか?」と聞かれて、
患者さん本人が「薬を減らしました」とだけ伝える。
なぜ減らしたのか、どんな経緯で、
何に注意してほしいのか、何も伝わらない。
結果、退院後の外来でまた元の薬に戻る。
この「減薬の巻き戻し」を防ぐために、
文書による情報連携が算定要件に組み込まれた。
院内の減薬だけでは160点は取れない。
退院後の医療機関・薬局等への文書連携まで含めて、
はじめて160点になる。
「減薬の責任範囲が、退院後まで伸びた改定」と捉えると、
この変更の意味がわかりやすい。
5-2. 情報連携文書に最低限書きたい3つのこと
では、実際に何を書けばいいか。
難しく考えなくていい。最低限、この3つが伝わればいい。
★① 減薬・中止した薬と、その理由
何を減らしたか、だけでなく「なぜ減らしたか」を書く。
「CKD G4のため腎排泄型薬剤の蓄積リスクあり、用量を調整」
「転倒リスク軽減のため長時間作用型ベンゾジアゼピンを中止」
といった一文があるだけで、退院後の主治医が判断しやすくなる。
理由がなければ、「なんで減ってるんだろう」と元に戻される可能性が上がる。
★② 減薬後の患者状態の変化
減らした結果、どうなったかを書く。
「中止後、日中の覚醒レベルが改善。リハへの集中力が向上した」
「降圧薬を1剤減量後、起立性低血圧の頻度が減少し、歩行練習が安定した」。
こういった変化を書くことで、「減薬は正しい判断だった」という根拠を伝えられる。退院後の医師や薬剤師が、処方を維持する判断をしやすくなる。
★③ 退院後に注意してほしいポイント
減薬後のフォローに必要な情報を伝える。
「降圧薬を減量しているため、血圧のモニタリングを継続してほしい」
「ベンゾジアゼピン系を中止したため、不眠の再燃に注意が必要。代替として〇〇を検討済み」。
かかりつけ医やかかりつけ薬剤師が「次に何を見ればいいか」がわかる情報を渡す。
5-3. 文面テンプレ(退院時サマリーの薬剤欄に貼れる形で)
実際に退院時サマリーの薬剤欄に書いている文章のイメージを示す。
施設によってフォーマットは異なるが、この構造を参考にしてもらえればと思う。
【入院中の薬剤調整について】
■ ★調整内容と理由
・○○(薬剤名):中止
★理由)CKD G4(eGFR○○)のため、
腎排泄型薬剤による蓄積リスクあり。
リハ中のふらつき・日中過鎮静との関連を疑い、
主治医と協議の上中止。
・○○(薬剤名):〇mg→〇mgに減量
★理由)転倒リスク軽減のため。
リハ職より起立時の血圧低下・ふらつきの報告あり。
■ ★調整後の経過
・中止・減量後、日中の覚醒レベルが改善し、リハへの集中力が向上した。
・起立性低血圧の頻度が減少し、歩行練習が安定した。
・有害事象の再燃なく、退院時まで状態は安定している。
■ ★退院後にご注意いただきたいこと
・血圧のモニタリングを継続してください(目標値:〇〇)。
・不眠の再燃に注意が必要です。
睡眠薬の再開が必要な場合は、非ベンゾジアゼピン系
もしくは〇〇(代替薬名)をご検討ください。
・腎機能の定期モニタリングをお願いします
(次回採血目安:〇週後)。
担当薬剤師:○○ (内線:○○○)

ポイントは「読む人が次に何をすればいいかわかる」文書にすること。
かかりつけ医が外来で5分以内に読んで判断できる、
かかりつけ薬剤師が服薬指導の前に確認できる、
その実用性を意識して書く。
うちの病院では、日本病院薬剤師会が作成している「薬剤管理サマリー」の様式をベースにしながら、上記の3点が必ず入るように調整して運用している。
5-4. よくある失敗と、その回避策
「テンプレートを見てもうまく書けない」という声をよく聞く。
書けない理由は、だいたいこの3つだ。
失敗① 薬剤名だけ書いて、理由を書いていない
「〇〇(薬剤名):中止」と書いて終わり。
これが一番多いパターン。
でもこれでは、受け取った医師や薬剤師が
「なぜ中止したのか」がわからない。
「入院中に何かあったのかな」で止まってしまい、
復活処方される可能性が上がる。
→ 回避策:
「理由」の一行を必ず書く癖をつける。
一言でいい。
「腎機能低下のため」「転倒リスクのため」
それだけで、受け取る側の判断が変わる。
失敗② 「経過良好」だけで終わる
「減薬後、経過良好」と書いて終わり。
これも惜しい。
「良好」の中身が伝わらない。
何がよくなったのかを書かないと、
退院後のフォローが抽象的になってしまう。
→ 回避策:
「日中の覚醒が改善した」
「ふらつきが減って歩行が安定した」など、
リハ・Nsから教えてもらった具体的な変化をそのまま書く。
チームの情報がそのまま文書になる。
失敗③ 退院後の注意点が「継続観察してください」で終わる
「引き続き経過観察をお願いします」と書いて終わり。
受け取る側は「何を観察すればいいのか」がわからない。
漠然とした依頼は、漠然とした対応しか生まない。
→ 回避策:
「血圧は〇〇mmHg以下を目標に管理してください」
「〇週後に腎機能採血を推奨します」など、
「次のアクション」を具体的に書く。
タイムラインが入ると、受け取る側の動きが変わる。
文書を書くのが苦手でも、
この3つの失敗を避けるだけで、
情報連携の質はぐっと上がる。
「完璧な文書」じゃなくていい。「
次の人が動ける文書」を目指してほしい。
6章 よくある質問(Q&A)
リハ職・看護師から実際によく聞かれる疑問に、薬剤師の立場から答える。
Q1. 「薬を減らしたら、病気が悪化しないか心配」と患者さんに言われたら?
A.
この不安は、とても自然だ。
長年飲んできた薬を減らすことへの恐怖感は、
患者さんにとって切実なものだ。
大事なのは「やみくもに減らすわけではない」
ということを伝えること。
「この薬は今のあなたの腎臓に負担をかけているから、量を減らします」
「代わりにこちらの薬で同じ効果を補います」など、
理由と代替策をセットで説明する。
そして「減らした後も、変化があればすぐに教えてください。みんなで一緒に見ていきます」という安心感を添える。
減薬は「治療を諦める」ことじゃない。
「より安全に続ける」ための調整だ、と伝えてほしい。
Q2. 「薬を減らしてほしい」と薬剤師から直接、医師に言っていいの?
A.
言っていい。というより、それが薬剤師の仕事だ。
ただ、「この薬を減らしてください」という言い方より、
「この薬について、こういう理由で見直しを検討していただけますか?」という提案スタイルの方が、
医師との関係をスムーズに動かせる。
根拠を持って、丁寧に、でも遠慮しすぎず。
薬剤師が動くことで、
医師が「それなら減らしてみよう」と動けることは多い。
リハ・Nsとしても、「薬剤師から先生に話してもらえますか?」という依頼の仕方ができると、チームとしての動きが自然になる。
Q3. 「減薬したら、外来でまた増やされてしまった」という話をよく聞く。防ぎようはあるの?
A.
ある。それが5章で書いた「情報連携文書」だ。
退院後に薬が戻ってしまう最大の原因は、
「なぜ減らしたか」が外来の主治医に伝わっていないことだ。
「入院中に薬を整理した」という事実だけが伝わって、
理由が伝わらなければ、
外来医師は「じゃあ元に戻しておこう」と判断せざるを得ない。
だからこそ、文書に理由と経過を書く。
「この減薬には根拠があります」と伝えることが、
退院後の「巻き戻し防止」になる。
Q4. リハ職が「薬かもしれない」と気づいたとき、どのタイミングで薬剤師に声をかければいい?
A.
気になった、その日のうちがベストだ。
「もう少し様子を見てから」と思っているうちに、
転倒が起きてしまうことがある。
「まだ確信がないから言いにくい」という遠慮は不要だ。
「なんか気になるんですけど」で十分伝わる。
薬剤師はその「なんか」を手がかりに評価を始めることができる。
声をかけるハードルが高ければ、
4章で紹介した「リハ薬剤チェックシート」のようなツールを使って、
チェックを入れるだけで情報を届ける仕組みを作るのも一つの手だ。
Q5. CKDの程度はどうやって確認すればいい?
A.
血液検査の「eGFR(推算糸球体濾過量)」を見る。
eGFR 60以上:正常〜軽度低下(G1〜G2)
eGFR 45〜59:軽度〜中等度低下(G3a)
eGFR 30〜44:中等度〜高度低下(G3b)→ 薬の蓄積リスクが出てくる eGFR 15〜29:高度低下(G4)→ 腎排泄型の薬は要注意
eGFR 15未満:末期腎不全(G5)→ 透析が必要なレベル
回復期リハ病棟でポリファーマシーを意識したいのは、
G3b(eGFR45未満)あたりから。
電子カルテの検査値欄で確認できることが多い。
数字が低いほど、薬が体に残りやすい、と覚えておいてほしい。
7章 まとめ:CKD高齢者の「減薬×ADL維持」を回復期リハのチームで
7-1. 要点の再掲
長くなったので、最後に整理する。
回復期リハ病棟に来るCKD高齢ポリファーマシー患者は、薬物有害事象がADL低下・転倒・褥瘡と直結しやすい状態にある。
「リハが進まない」の原因が、実は薬にあることがある。
だから、減薬はリハを諦めることじゃない。
リハをきちんと届けるための、準備作業だ。
2026年度の診療報酬改定で、薬剤総合評価調整加算が160点になった。
変わったのは点数だけじゃない。
「院内で減薬して終わり」から
「退院後の医療機関・薬局へ文書でつないで、はじめて完結」
という設計に変わった。
チームで減薬に取り組み、地域へつなぐ。
その一連の流れが、正式に評価される時代になった。
そしてその流れを支えるのは、リハ・Ns・薬剤師それぞれの視点だ。
PTが気づいたふらつき。
OTが感じた集中力の低下。
STが観察した反応の変化。
Nsが記録した夜間頻尿と睡眠の乱れ。
それらが薬剤師に届いて、
はじめて「この薬が怪しいかもしれない」という評価が動き出す。
薬剤師ひとりでできることには限界がある。
チームの目線があってはじめて、精度の高い減薬ができる。
7-2. 行動への一歩
最後に、一つだけお願いがある。
あなたの病棟で、
「減薬を考えたいかもしれないCKD高齢者」を、
一人思い浮かべてみてほしい。
内服薬が多い。
腎機能が落ちている。
なんとなくリハが進みにくい。
そういう患者さんが、きっと一人はいるはずだ。
その方について、今日、薬剤師に一言声をかけてみてほしい。
「この患者さん、リハ中にふらつきが強くて。
薬と関係ありそうですか?」
それだけでいい。
チームの減薬は、その一言から動き出す。
そして薬剤師の仲間へ。
情報連携文書を「面倒な書類」と思わないでほしい。
退院後のかかりつけ医やかかりつけ薬剤師が、
その文書を頼りに判断する。
減薬の成果を地域につないでいくのは、私たちの文章だ。
「何を・なぜ・どうなった・次はどこを見て」。
この4点が伝わる文書を、一枚書いてみよう。
完璧なチームじゃなくていい。
完璧な文書じゃなくていい。
まず1剤。まず1枚。
回復期リハのチームで、一緒に動いていきましょう。
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