新人薬剤師が押さえたい「eGFRの5つの誤解」
【この記事は、こんな方に向けて書きました。】
●薬学生や実習生
●1~3年目の新人薬剤師
●腎機能評価ってなんか苦手と思っている医療職
突然ですが、国家試験でeGFRを勉強したとき、
こんな風に思いませんでした??
式も単位も、CKDのステージ分類も覚えた。
これで腎機能はバッチリだ!
……わかる。わかるよ。
でも現場に出てみると、なんかちょっと違う。
自分:「eGFRが40だから減量、でいいんですよね?」
先輩:「うーん、それだけじゃなくてね・・・」
こんな風に言われた経験、ありませんか?
私は新人の時、先輩に言われました。
自信満々に「どや!」って感じで確認したのに、撃沈でした。
確かに、eGFRは便利な指標です。
血清クレアチニンと年齢と性別があれば、すぐ出せる。
電子カルテには自動で表示されているから使い勝手もいい。
だからこそ、「わかった気」になりやすい。
腎機能評価をするときに、
まず大前提として押さえてほしいことが一つ。
eGFRの「e」はestimated、つまり「推定」。
実測値ではないんです。
式から算出した推算値であり、
実測GFRとの誤差は±30%以内に収まるのが約75%程度。
残りの25%は、それ以上にズレる可能性がある。
「え、そんなにズレるの?」
そう。ズレるんです!
あくまで指標なんです。
まずは、この前提を頭に入れたうえで、
つまずきやすい「5つの誤解」を一緒に整理していきましょう。
誤解① eGFR(mL/min/1.73㎡)のまま投与設計してよい
電子カルテに表示されているeGFR。
あの数字、単位まで確認していますか?
mL/min/1.73㎡
——そう、これは体表面積1.73㎡で補正された値です。
CKDの診断や重症度分類にはこの単位を使います。
でも薬物投与設計には使いません!
投与設計に使うのは、
体表面積補正を外した未補正eGFR(mL/min)
あるいはCcr(クレアチニンクリアランス)です。
なぜでしょうか?
考えてみてください。
身長180cm・体重90kgの大柄な男性
身長150cm・体重45kgの小柄な高齢女性
どちらも、体表面積1.73㎡です。
体表面積補正をしたまま使うと、
体格の影響を無視することになってしまいます。
仮に、eGFR(mL/min/1.73㎡)が同じ「50」だったとして、
実際に腎臓を流れる薬物量は同じでしょうか。
補正値のまま投与量を決めると、
大柄な人には過少投与に、
小柄な人では逆に過量投与になる可能性があります。

現場での確認ポイントはシンプルです。
まず、自分の病院の電子カルテに「未補正eGFR」が表示されているかどうかを確認しましょう。
表示されていなければ、自分で計算する必要があります。
私は新人のころ、ここを理解理解していませんでした。
そして、後々苦労する場面が多かったんです。
だから、ほんとにここだけは理解しておくといいと思います!
「eGFRが出てるからOK」ではなく、
「どのeGFRか」を確認する習慣を、
新人のうちにつけておくと、後々ぐっと仕事が楽になります。
誤解② eGFRだけ見れば、投与量調整は完結する
eGFRは確認した。
未補正かどうかもばっちり確認した。
「よし、これで投与量を決められる!」
……ちょっと待ってください!
eGFRは腎機能の一側面にすぎないんです。
特に回復期リハ病院に多い、高齢・低筋肉量・浮腫のある患者さんでは、eGFRの解釈はぐっと難しくなります。
たとえばこんなケース。
未補正eGFR 50。
標準的な投与量で問題なさそう。
でもその患者さん、
80代で体重38kg、明らかなサルコペニア。
筋肉量が少ないと血清クレアチニンは低く出ます。
つまり、eGFRが実際より良く見えてしまうことがあるんです。
結果、標準量で投与 → 薬が効きすぎる → 副作用。
逆のパターンもあります。
未補正eGFR 25。
「腎機能が悪いから全部減量」と判断して、
抗菌薬を過剰に減らしてしまう。
感染症の治療が十分に効かない、
いわゆるサブセラピューティックな状態になってしまいます。
eGFRはあくまで入口。
そこに加えて確認したいのは、
尿量・体重変動・浮腫・電解質(特にカリウム)・BUN、
そして投与する薬の腎排泄割合と治療域の広さです。
「eGFR 50だから大丈夫」ではなく、
「eGFR 50のこの患者さんに、この薬を使って大丈夫か」
という問いの立て方に変えてほしい。
極端な話、
腎機能が悪い人でも、整腸剤の投与量そんなに気になりませんよね?
でも、抗凝固薬の投与量は気になりませんか?
治療域が狭くて、過量投与でも過少投与でも危ない。
そんな薬のときは慎重になりましょう。
一手間だけど、この手間が患者さんを守ることになります。
誤解③ 式さえ入れれば、誰でも同じようにeGFRを解釈できる
eGFRの計算式は、日本人向けに調整されているのを知っていますか?
血清クレアチニン・年齢・性別を入力すれば、
誰が計算しても同じ数字が出る。
「じゃあ、解釈も同じでいいんじゃないの?」
……そこが最大の落とし穴なんです。
式が出す数字は同じでも、
その数字が意味することは患者さんによって違います。
日本人向けの式でも、精度が下がるケースがある。
極端な肥満、るいそう、妊婦、小児
——こういった患者さんは、
式の前提条件からはみ出してしまいます。
回復期リハで特に意識したいのは、
筋肉量が極端に少ない高齢者です。
血清クレアチニンは筋肉の代謝産物なので、
サルコペニアの患者さんでは産生量自体が少ない。
これを理解していないと、
クレアチニンが低い →eGFRが高く出る → 「腎機能は保たれている」と判断してしまうんです。
でも実際には、腎機能はそこまで良くないかもしれない。
だから、ここで一度立ち止まる視点を持ってほしい。
この患者さんは、そもそもクレアチニンによるeGFRの式が当てはまりにくいタイプなのでは?
そう問いかけるだけで、見えてくるものが変わってきます。

見えるものが変わってくると、
・気になるときはシスタチンCを確認する
・腎臓内科や上級薬剤師に相談する
——そういう「次の一手」につながっていきます。
式を信じながら、式を疑うこと
これが、本当に本当に大事だと思っています。
誤解④ eGFRの値は、「その瞬間の腎機能」を完全に表している
電子カルテを開いて、今日のeGFRを確認する。
「40か。この量でいいかな。」
ちょっと待って!
一つだけ確認してほしいことがあります。
先週・先月のeGFRと比べましたか?
新人の頃、私はこの習慣がありませんでした。
いつもスポットでeGFRをみて、「いい」「悪い」と言ってました。
それが原因で、主治医にとんちんかんな提案をして怒られたこともあります。
eGFRは採血した「その時点」の情報です。
でも腎機能は、静止画ではなく動画で見る必要があります。
例えば、急性腎障害(AKI)では
数日で腎機能が大きく変動します。
今日のeGFRが40でも、1週間前が55だったなら、
それは急降下している途中かもしれない。
造影剤投与後、脱水、敗血症
——「これからさらに悪くなるかもしれない」という状況で、
今日の数字だけを見て投与量を決めるのは危険です。
逆のトレンドも見逃せません。
1年前が65、半年前が55、今日が40
——年単位でじわじわ下がっている患者さんは、
それ自体が独立したリスク因子になります。

回復期リハ病院は、同じ患者さんと長く関われる環境。
入院期間中に繰り返し採血データが蓄積されていくということ。
これはトレンドを追うのに絶好の機会でもあるんです。
「今日のeGFR」だけでなく、
「この人のeGFRの旅」を見る習慣を、
ぜひここで身につけてほしいと思います。
誤解⑤ eGFRが基準値内なら、腎リスクはあまり気にしなくてよい
「eGFR 65。正常範囲だ。腎臓は大丈夫。」
その判断、半分は正しい。
でも半分は、危ないんです。
eGFR 60以上でも、リスクがゼロというわけではありません。
たとえば尿アルブミンが増加していたり、
eGFRの低下速度が速かったりする場合、
数字が「正常範囲」であっても腎臓はすでにSOSを出しているかもしれないから。
CKDの評価の原則は、
【eGFRと尿アルブミン(蛋白尿)の組み合わせ】
数字一つで判断が完結するわけではありません。
もう一つ押さえておきたいのが、CKDと心血管疾患の関係。
eGFRが下がるほど、心血管イベントや全死亡のリスクが上昇することがわかっています。
腎臓だけの問題ではなく、全身のリスク管理として捉える必要もあるんです。
回復期リハ病院に入院している患者さんの多くは、
糖尿病・高血圧・心疾患などの背景疾患を持っています。
「eGFR 65、正常範囲」という数字の裏に、「糖尿病10年・高血圧・蛋白尿あり」という背景があれば、話はまったく変わってきます。
数字を見るのではなく、数字の向こうにいる患者さんを見る。
eGFRはそのための道具。
道具に使われないようにしたいですよね。
現場で迷わないための「eGFR確認リスト」
投与設計の前に確認したいことをまとめておきましょう。
難しいことではありません。
「この患者さんに、この数字をそのまま当てはめていいか」を一度立ち止まって考える、それだけです。
確認したいのは、
体格(極端な肥満・るいそうか)
年齢とサルコペニアの有無
表示されているeGFRの種類(体表面積補正あり・なし)
直近のトレンド(過去の値との比較)
尿検査(蛋白・アルブミン)
投与予定の薬の腎排泄割合と添付文書の用量調整欄
——この6点だけ。
「全部一人で判断しなきゃいけない」わけではありません。
迷ったら、先輩薬剤師・腎臓病療養指導士などに相談する。
そのタイミングを自分の中で決めておくだけで、ずいぶんと動きやすくなります。

慣れると無意識にできるようになります。
まとめ:新人のうちに身につけたい「eGFRとの付き合い方」
eGFRは本当に便利な指標です。
でも今日の記事を読んで、
少しだけ「怖さ」も感じてもらえたなら、それでいい。
「便利だからこそ、過信しない」という姿勢を持ってほしいんです。
式の結果を鵜呑みにせず、
患者さんの全体像とセットで判断する。
トレンドを見る。
体格を見る。
背景疾患を見る。
それを一つひとつ積み重ねていくのが、
腎機能と向き合う薬剤師の仕事だと思っています。
回復期リハは、同じ患者さんと長く関わり続けられる場所だ。
毎週採血データが更新されて、eGFRの変化を肌で感じられる。
国家試験では教えてくれない「eGFRの読み方」を、現場で少しずつ学んでいける環境でもあります。
新人のうちにeGFRと仲良くなっておくと、
必ずあとで自分を助けてくれます。
まずは、一つからでもいいので始めてみませんか?
▶腎機能評価をもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考なるかもしれません。
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