筋トレ用サプリが腎臓を傷める?CKD患者とTMAOの知られざる関係
前回の記事では、CKD患者さんの食事における「腸に良いもの」と「腎臓に優しいもの」の板挟みを整理しました。
▼前回の記事はこちら
今回は、その続きとして
TMAO(トリメチルアミンN-オキシド)
というキーワードを取り上げます。
少し難しそうな名前ですが、
難しい理屈は極力省きたいと思います。
以前、こんな患者さんがいました。
高度CKDで定期的に外来に通っている方でしたが、ある日の服薬指導でこう話してくれました。
「最近、筋トレを始めたんですよ。
体力落としたくないから、Lカルニチンのサプリも飲んでいます」
健康意識が高く、体を動かそうとしている
—本来であれば、とても良いことです。
でも、「高度CKD」×「Lカルニチンサプリ」
という組み合わせに、
私は引っかかりを感じました。
「やめてもらった方がいいかもしれない。
でも、なんて説明すればいいんだろう…」
当時の私には、
明確な説明の言葉がありませんでした。
今なら言えます。
そのLカルニチン、
腸内細菌によってTMAOという物質に変わり、
腎臓や心臓をじわじわ傷つけている可能性があります。
この記事では、
TMAOとは何か
なぜCKD患者さんに問題なのか
そして薬剤師として何ができるか
を整理してみたいと思います。
■ TMAOって何?(仕組みを超シンプルに)
TMAOとは
トリメチルアミンN-オキシドという物質の略称です。名前は難しいですが、仕組みはシンプルです。

【TMAOができるまで】
肉・卵・特定のサプリに含まれるコリン・カルニチンを食べる
腸内の悪玉菌(クロストリジウム属など)がこれを分解しTMA(トリメチルアミン)を産生する
TMAが腸から吸収され、肝臓で酸化されてTMAOに変換される
TMAOが血液中に入り、全身をめぐる
通常であれば、
TMAOは腎臓から尿として排泄されます。
ところがCKD患者さんでは腎臓の排泄機能が低下しているため、TMAOが体内に蓄積しやすい状態になっています。
そして蓄積したTMAOは、
動脈硬化を促進し、
心血管イベントや腎機能悪化のリスクを高める
ことが研究で示されています。
つまり、
腸内細菌→TMAO→心臓・腎臓へのダメージ、
という経路が存在するのです。
これが「腸腎連関」の、もうひとつの顔です。
▼「腸腎連関ってそもそも何?」という方は、こちらの記事から読むと全体像がつかみやすいです。
■ 原因になる食品・サプリ
TMAOの原料となるコリン・カルニチンは、
次の食品・サプリに多く含まれています。

「健康に良い」と思って取り入れているものが、
CKD患者さんにはTMAOの原料になってしまうことがあります。
冒頭のLカルニチンの事例もそうでした。
「筋肉を落としたくない」という
患者さんの気持ちは十分わかります。
だからこそ、
「なんで飲んじゃいけないんだ」という言葉には、
しっかりした説明で答えられなければいけないと、今も強く感じています。
当時の私が言葉に詰まったのは、
「なぜダメなのか」のメカニズムを
自分自身が整理できていなかったからです。
TMAOというキーワードを知っていれば、
こう伝えられたはず。
「このサプリの成分が、腸の中で悪い菌に分解されて、腎臓や心臓を傷つける物質に変わってしまうんです。腎臓が弱っているとその物質を排泄しにくいので、特に注意が必要なんです」
■ でも、肉や卵を減らしすぎるとPEWになる
ここで、大切な「待った」があります。
「TMAOの原料になるから」といって、
高齢のCKD患者さんから赤身肉や卵を取り上げすぎると、今度はPEW(Protein-Energy Wasting:たんぱく・エネルギー消耗症候群)を招く危険があります。
PEWとは、
慢性腎臓病に伴う深刻な低栄養・筋肉減少の状態です。
一度進行すると回復が難しく、
免疫低下・感染症・死亡リスクの上昇につながります。
つまり、こういうジレンマです。
肉・卵を食べ続ける
→ TMAOが増え、腎臓・心臓へのダメージリスクが上がる
肉・卵を制限しすぎる
→ たんぱく不足でPEW・サルコペニアが進み、寿命を縮める
「制限すれば良い」は正解ではない。

だからこそ、
食事の制限だけに頼らない
別のアプローチが必要になります。
それが、
次のセクションで紹介する薬剤師の出番です。
■ 薬剤師として何ができるか
食事制限には限界がある
—だからこそ、薬剤師のアプローチが光ります。

① サプリ・薬の聴取をする
まず「引き算」として、
TMAOの原料になるものを把握することが第一歩です。
Lカルニチンサプリ・レシチンサプリを飲んでいないか
透析患者さんへのLカルニチン製剤(パルクス等)の処方がある場合、TMAOリスクを念頭に置く
「筋トレのためのサプリ」など、健康目的のものほど見落としやすい
薬歴に残っていないサプリは、
こちらから積極的に聴取する姿勢が重要です。
② プロバイオティクスを提案する(薬剤師の最大の武器)
そして「足し算」として、
ミヤBM(酪酸菌)などのプロバイオティクスの提案が有効です。
カルニチンやコリンをTMAに変換するのは、
主に腸内のクロストリジウム属などの悪玉菌です。
プロバイオティクスで腸内環境を整え、
悪玉菌の割合を下げることで、
同じ食事をしていてもTMAOの産生量を抑えられる可能性があります(研究段階ではありますが、エビデンスが蓄積されつつあります)。
ここで、私自身の経験をお伝えします。
ミヤBMの処方提案をしたとき、
医師や同僚の薬剤師から
「整腸剤をわざわざ追加するなんて、ポリファーマシーじゃない?」と言われたことがありました。
当時は「確かに……」と思ってしまいました。
でも、今なら答えられます。
「ミヤBMの追加は、腸内の悪玉菌を抑えてTMAO産生を減らすための、腎保護を目的とした介入です。漫然投与とは目的が違います」
整腸剤ではなく、
腸腎連関への治療的アプローチとして位置づけることで、処方提案の説得力がまったく変わります。
食事も薬も制限に限界があるからこそ、
プロバイオティクスという「整える」選択肢を、
薬剤師が自信を持って提案できるように
しておきたいと思っています。
■ まとめ:「制限する」から「整える」へ
この記事では、
腸内細菌が産生するTMAOという
もうひとつの尿毒素について整理しました。
今回のポイント
肉・卵・Lカルニチンサプリのコリン・カルニチンは、腸内悪玉菌によってTMAOに変換され、腎臓・心臓を傷つける
CKD患者さんはTMAOを排泄しにくいため、特にリスクが高い
しかし、これらを制限しすぎるとPEW・サルコペニアを招くジレンマがある
だからこそ「制限する」だけでなく、ミヤBM等のプロバイオティクスで腸内環境を整えるという薬剤師ならではのアプローチが重要になる
TMAOを知ることで、
薬剤師としての介入が変わります。
「整腸剤の追加」ではなく、
「腸腎連関への治療的介入」として処方提案できる
—それが、腸腎連関を学ぶ最大の意味のひとつだと思っています。
▼次回は、腸腎連関シリーズの中でも質問が多い「ルビプロストン」について。慢性便秘治療薬としておなじみのルビプロストンに、「腎機能の悪化を抑えるかもしれない」というデータが出てきました。便秘・腸内環境・CKDをつなぐ最新の話題を、一緒に整理してみたいと思います。
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