小説: ペトリコールの共鳴 ⑳
第二十話 甘え上手のカリスマ ⑤
「そうしてアジトから通報されたんですか?」
『週刊エックス』社会部記者、浮所いずみへ、素直に警察へ話したままを聞いてもらって良いと俺は判断した。
「はい。俺が監禁されていたときに、俺以外2人いたので、まずは人命を優先しました。監禁された人は俺が入った翌日ぐらいに1人が解放されて、入れ替わり新入りが来た感じでした」
いずみは空の手で隣に置いたタブレットを取る。
「なるほどなぁ」
どうやら聞き取ったことを読み返しているようだ。
俺も知らない出来事をいずみに質問してみた。
「浮所さん。被害者と加害者はどうやって金の受け渡しをしていたんですか?」
“マニュアル”に書いてあったとしても覚えてない。
いずみは顔を上げると、
「警察や弁護士から聞いてないですか?」
彼女はまたタブレットに目線を落とし、
「解放された被害者のSNSへ翌日DMが来るそうです。慰謝料300万円でしたね。口座へ振り込むと足がつくので、現金。代理人という女性へ人混みで紙袋に入れたお金を渡していたとか」
「中には、交際相手。相田梨子だったりも自分と同じように監禁されているんじゃないかと、
倍の600万円。お金に困ってやったんじゃないかと1000万円、渡した人もいたと聞いています。
今はまだ、全容が掴めていないようです」
「性的な関係になる前に同意書なり残すカップルがいないですし、事後に足元が見られやすいですね。
監禁に至らない、恐喝だけの被害者も多数です。
……法律を悪用する人がいますからねぇ」
そういえば……。
またキンクマに助けられた。
俺がSNSで愛羅の投稿を見ようとすると、愛羅をブロックした表示が画面に大きな文字で出た。
愛羅がブロックしたんじゃない、俺からだ。
いや、正確にはキンクマがブロックしたんだ。
キンクマのヤツ……。
俺が愛羅の投稿を見てしまうと気になってまた閲覧し、執着心は留まることを知らない。
やがて投稿をヒントに愛羅へストーカーするなど、被害者が加害者になるパターンは、犯罪じゃなくとも起きてしまう。
しかし愛羅が娑婆に出てくるのはかなり先だろう。
「お金なら働いて取り返すことができますが……
命が取られたんじゃなくて、まだ幸いというか」
俺の言葉に、いずみは「えっ?」と反応し
「辰巳さん、今朝のニュースをご覧になりました?
この事件は行方不明者が3人いて、まだ誰も発見されていません。
まあ……絶望的でしょうね」
「相田梨子達の目的は
『犯罪者予備軍を見つけて事前に懲らしめたい』
犯罪者を成敗するのと、他人へ近づいて犯罪者予備軍として懲らしめるのは、叩いてきた人へ叩き返すのとその辺りにいる歩行者を叩くぐらいに違いがありますね……」
いずみと俺の間へ静かな空間ができる。無実の人が犯罪者予備軍として殺された。
知らない人とは言え、人が亡くなるのは気の毒であるのは当然で、虚無感に近い感情が喉を障る気がする。
「どうしてこんな酷いことができるんでしょうね」
「酷いことと思わないからではないですか」
間髪入れないウィスパーボイスは淡々とした。
「辰巳さん、大変な時期に貴重なお話を誠にありがとうございます。
また、お話を伺いに来るかもしれません。
その折もよろしくお願いいたします」
いずみが帰ったあとは心なしか静けさが増して、
キンクマは藁の上に座っていた。
