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【判例読み解き】全農林警職法事件(国家公務員はストライキができない?/公務員の人権)

国家公務員のストライキの可否が争点となった全農林警職法事件について、わかりやすく解説します。


基本情報

最高裁昭和48年4月25日大法廷判決
(昭和43年(あ)第2780号:国家公務員法違反被告事件)
(刑集27巻4号547頁)

事実の概要

昭和33年(1958年)10月8日に内閣は「警察官職務執行法の一部を改正する法律案」を衆議院に提出しました。警察官職務執行法(略して警職法)というのは、簡単にいうと、警察官が職務をするための基本事項に定めた法律です。具体的には、職務質問や侵入、武器の使用などについて定めています。この法律の改正案について、労働組合側は「警職法改悪反対」を掲げた反対闘争を展開しました。

そもそも被告人らは、農林省(現在の農林水産省)の職員であり、「B労働組合」の役員でした。

被告人らは、昭和33年10月30日深夜から11月2日のかけて、組合本部から全国の県本部や支部に対して、電報や文書によって、11月5日に所属長の承認なく正午に出勤すること(出勤遅延)や勤務時間内に1時間以上の職場大会を実施することなどの争議行為を指示する指令を出しました。

11月5日の当日、被告人らは午前9時ごろから農林省庁舎の入り口の扉を縛り付け、あるいは裏玄関に机や椅子を積み上げることで、職員役2500名の入庁を妨げました。また、職員らに対して「警職法改悪反対」の職場大会に参加するように説得し、参加を慫慂(しょうよう)しました。結果として、当日の午前10時頃から11時40分頃まで職場大会が開催され、2000人余りの職員が参加しました。

被告人らは、国家公務員法第98条5項違反で起訴されました。第一審および控訴審では、被告人らに有罪判決を言い渡しました。これに対して。被告人らは、国家公務員法第98条5項の規定が、憲法28条、21条、18条、31条などに違反するものとして、上告しました。

判旨

上告棄却

最高裁の判決文全文はこちらから検索できます。(事件番号に「昭和43年(あ)第2780号」を入力してください。)

解説

この全農林警職法事件の争点は

①労働基本権の適合性
②表現の自由および適正手続きの適合性
③政治的目的の抗議行為の評価
④処罰行為に関する限定解釈の是非

でした。

①労働基本権の適合性

被告人らは国家公務員法の規定は憲法28条が保障する労働基本権を侵害するものであり、違憲であると主張しました。

これに対して最高裁は、まず、公務員にも労働基本権の保障が及ぶとした上で、それを絶対的なものとはせず、「国民全体の共同利益の見地からする制約を免れない」と判示しました。

そもそも公務員は、国民全体に対して働く義務をもっているため、争議行為は、「国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼす」としました。

公務員の勤務条件とは、財源は税収であり、「国会の制定した法律、予算によつて定められることとなつている」ため、争議行為の圧力による強制を容認する余地はないと判断しました。

なお、公務員の勤務条件は、人事院勧告などの「適切な代償措置」が整備されており、禁止規定は、「国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約」ものであり、憲法28条に違反しないと判示しました。

②表現の自由および適正手続きの適合性

被告人らは、あおり行為等の処罰は、憲法21条の保障する表現の自由や憲法31条の適正手続き(罪刑法定主義と明確性の原則)に違反しているものだと指摘しました。一言で「あおり行為」と言ってもその概念は不明確であり、また、葬儀行為の実行自体が不処罰であるのに、その前段階のあおり行為のみが処罰されることは不合理であり、表現の自由を侵害するものだと主張しました。

最高裁は。「あおり」とは、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、またはすでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えること」を指し、概念は「内容が漠然としているものとはいいがたく」、憲法31条に違反しないと判示しました。

また、あおり行為は、争議行為の指導的行為であるため、単なる参加者に比べて社会的責任が重く、これのみを処罰することには十分合理的な理由があると判示しました。また、表現の自由については、政治的な目的があるとしても、「特別に保障されるということは、本来ありえない」とも判示しています。

③政治的目的の抗議行為の評価

被告人らは、公務員の政治的目的による争議行為も憲法28条によって保障されるべきであると主張しました。

これに対して最高裁は、政治的目的を持つ争議行為は、本来「憲法二八条の保障とは無関係なものというべきである」と判示し、保障の対象であるという被告人らの主張を否定しました。また、公務員がこのように政治的な目的のために争議行為を行うことは「二重の意味で許されない」とも判示しています。

④処罰行為に関する限定解釈の是非

過去の判例(全司法仙台事件やD事件など)では、違法性の強い場合のみに処罰する「限定解釈」を採用していました。被告人らはこれらの判例に則り、本件も限定解釈を適用するべきだと主張しました。

最高裁は、この「限定解釈」について、違法性の強弱や社会的許容声の有無によって、処罰の範囲を分ける考え方は、刑事罰が科される場合と科されない場合の境界がはっきりとせず、かえって憲法31条に違反する疑いがある判断しました。

よって、従来の判例(D事件判決)は「本判決において判示したところに抵触する限度で、変更を免れない」と判示しました。

結論として、最高裁は公務員の一切の争議行為の禁止を一律に合憲とし、あおり行為者についても限定解釈をせずに処罰することを正当と判断しました。

※「」内は判決文から引用。

参考文献

  • 最高裁判決文(昭和43年(あ)第2780号)

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