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【判例読み解き】剣道実技拒否事件(学生は宗教上の理由で授業を拒否できる?/信教の自由)

学校の教育課程と信教の自由が対立した「剣道実技拒否事件(エホバの証人事件)」についてわかりやすく解説します。


基本情報

最高裁平成8年3月8日第二小法廷判決
(平成7年(行ツ)第74号:進級拒否処分取消、退学命令処分等取消事件)
(民集50巻3号469頁)

事実の概要

被上告人(原告)は平成2年(1990年)4月にD工業専門学校(D高専)に入学した学生でした。

D高専は学年制を採用した高専であり、進級するには全科目の修得が必要でした。また、学校長は連続して2回進級できなかった学生に対しては退学を命じることができました。

D高専では、1990年度から1年生の必修科目として「剣道」が採用されており、その配点は体育のうち85%を占めていました。

被上告人はキリスト教信者(「E」)であり、「格技である剣道の実技に参加することは自己の宗教的信条と根本的に相いれない」という信念を持っていました。

そこで、被上告人は入学直後の4月下旬から体育担当の教員に代替措置を求めて相談を繰り返していました。しかし、担当教員及び上告人は代替措置を取らない方針を固め、剣道実技に参加しない場合には欠席扱いとすることを被上告人およびその保護者に説明しました。

剣道実技の授業が始まった際に、被上告人は実技そのものには参加しなかったものの、服装を整え、準備体操や講義、サーキットトレーニングには参加しており、実技の内容に関するレポートを作成し、担当教員に提出しようとしました。しかし、担当教員はレポートの受領を拒否しました。

準備体操等への参加が評価されたものの、剣道実技の欠席から体育科目は不合格となりました。

その後、上告人が提案した剣道実技の補講についても被上告人は宗教上の理由から拒否したため、最初の原級留置処分(留年)が決定しました。

翌年の平成3年も被上告人の態度と上告人の対応は同様であり、体育の評価は48点にとどまり、再度進級ができませんでした。よって、上告人は、被上告人を「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者」に該当すると判断し、平成4年3月27日、退学処分を告知しました。

なお、被上告人は剣道実技以外の体育種目には真摯に参加しており、体育以外の科目の成績は優秀でした。また、他の工業専門学校の中には、代替措置(レポートの提出など)で救済している学校も存在していました。

被上告人は上記の状況を鑑みて、処分の取り消しを求めて提訴し、原審の審理を不服とした学校側(被告)が上告しました。

判旨

上告棄却

最高裁の判決文全文はこちらから検索できます。(事件番号に「平成7年(行ツ)第74号」を入力してください。)

解説

信教の自由や学校の裁量について争われた剣道実技拒否事件(エホバの証人事件)です。最高裁での争点は以下の通りでした。

①本件の原級留置処分・退学処分は校長の裁量権の範囲内か
②代替措置をとることは政教分離に反することか
③代替措置は実現可能であったか。また、宗教的に中立であったか。

①から、解説して行きます。

①本件の原級留置処分・退学処分は校長の裁量権の範囲内か

上告人は、教育課程や評価の方法は学校の一般的な取り決めに従ったものであり、被上告人はそれらのことを理解した上で本校を選択し、入学してきている以上、不利益(原級留置処分・退学処分)を被ることは許容の範囲内と主張しました。

一方で、被上告人は、剣道実技の拒否は宗教上の理由であり、また、剣道実技以外の科目は成績優秀であったことから代替措置を求めた上での退学処分は酷であると主張しました。

最高裁は、本件の処分は校長の裁量権を超えた違法なものであると認定しました。そもそも退学処分は、「学生の身分をはく奪する重大な措置」であり、「当該学生を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って」選択すべきであると判示しました。その上で、本件にそれを当てはめると、本件の処分は、被上告人が「信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせられるという性質を有するもの」であったと認めました。また、被上告人が繰り返し代替措置を求めていたにも関わらず、それらが取られることなく、処分が下されたことには「考慮すべき事項を考慮しておらず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会観念上著しく妥当を欠く」と判示し、違法なものと認定しました。

②代替措置をとることは政教分離に反することか

上告人は、特定の宗教を理由にして、代替措置をとることは、結果的にその宗教を援助する性質を持ち、憲法20条3項が定める政教分離に反するものであったと主張しました。

最高裁は代替措置をとることについて、「その目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援助、助長、促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教者に圧迫、干渉を加える効果があるともいえない」と判示し、上告人の主張した、特定の宗教の援助という可能性を否定しました。よって、代替措置は「その方法、態様のいかんを問わず、憲法二〇条三項に違反するということができないことは明らかである」とし、上告人の主張を退けました。

③代替措置は実現可能であったか。また、宗教的に中立であったか。

上告人は、代替措置をとることで他の学生に不公平であるという感情を抱かせる可能性があり、実質的には障害があると主張しました。また、代替措置のために、学生の信仰を調査することは、公教育の宗教的中立性に反するものになると主張しました。

最高裁はまず、実質的な障害について、「他の学生に不公平感を生じさせないような適切な方法、態様による代替措置を採ることは可能」と判示し、障害を否定しました。また、「宗教上の信条と履修拒否との合理的関連性が認められるかどうかを確認する程度の調査をすることが公教育の宗教的中立性に反するとはいえない」とも判示し、公教育の宗教的中立性に反するという上告人の主張を退けました。

最高裁判所は、本件の原級留置処分および退学処分を、「社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えた違法なものといわざるを得ない」として、上告を棄却しました。これにより、学校側の処分を取り消した控訴審判決が確定しました。

※「」内は判決文から引用。

参考文献

  • 最高裁判決文(平成7年(行ツ)第74号)

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