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どん底26歳の1万円起業|フリーランスとしてブランドを立ち上げるまで



代官山蔦屋書店。
たった1杯のドリップコーヒーで、人生を変えようと必死だった日がある。



誰にも会う予定のない平日朝8時。なけなしのお金で買ったコーヒー1杯を、夜まで保たせるべくちびちびと飲みながら、私は2冊の本に没頭していた。お金も、夢も、自信もなかった26歳の夏。このままじゃダメだ、という焦りだけを燃料に、私は本の中から必死に「答え」を探していた。


この記事は人生を振り返る連載の第三弾です。


そもそも、なぜ私がそんな状況にいたのか。会社を辞め、無職で金欠で死にかけながらも、フリーランスになると腹を括った独立前夜の出来事は、以下の記事(連載 第二弾)で詳しく綴りました。


当時お付き合いしていた彼との出逢いはこちら。


今日綴るのは、そんな私がたった2冊の本をきっかけに、自分のブランドを立ち上げるまでの物語。もし今、あなたが道に迷っているなら、この話が「わたしにもできるかもしれない」という、小さな光になるかもしれません。



──


26歳。2015年7月。

底を着きそうな、金銭的緊急事態を免れるためにはじめた料亭のアルバイトを、2ヶ月で辞める決意をした。すっからかんになっていた貯金がすこし肥やせたところで、わたしは「わたしの名前一本で生きてやる」と、フリーランス一本で生きていく覚悟を決めた。

と、そうえらそうに決めたはいいものの、正直なところ、まだ実際の売り上げを作っていく手段は見つかっていない。

そんなこともあって、「お金がない」「お金がない」とうわごとのように言い続けていたのが実情だ。そんなわたしを見かねて、当時付き合っていた彼は図書館で「この世でいちばん大事な「カネ」の話」という本を借りてきて「今のひとみに良いと思う」と手渡してくれた。タイトルを見て、「同情するなら金をくれ!」と喉まで出かかったが、ひとまず言葉に棘が出ないように気をつけながら「ありがとう」と受け取る。どういう意味だ、と真意が汲み取れないままイライラと読んだ記憶がある。

わたしの当時のブクログの記録。2015年6月30日。

めちゃくちゃいい本なのに、コンディションが最悪(改め金欠)状態で読んだせいでまさかの星3。そして、必ず書くブックレビューは無記載。当時のイライラが出ている。


貧乏は、心を殺す。そんなことが書かれていた。

「お金がない」という状況は、私たちの心から余裕を奪い、優しさや正しい判断力を失わせ、人間関係を破壊していく。貧困は、人を人じゃなくしてしまう恐ろしいものである──

この世でいちばん大事な「カネ」の話

そんなことが、繰り返し語られていた。
貧困は、「人」を「人」じゃなくしてしまう・・・。

ふむ。つまり彼は、わたしに「ひとみは今、人じゃなくなっている」と言いたいのだろうか?まさに金欠で余裕を失い、優しさと正しい判断力を失っていた(この本で言われている通りの)状態になっていたわたしは、彼への嫌悪感を抱きながら読んだ。遠回しに、「今あなた、おかしくなっているよ」と伝えるために渡したのか?ページを読み進めるも、何のメッセージだ、と心がささくれ立ち、ムカついてくる。

しかし、書かれていることはとても本質なのだ。

「稼ぐ」ことは、自由を手に入れること。「地獄のような状況から抜け出す唯一の方法が「自分で稼ぐこと」」です。誰かに養ってもらうのではなく、自分の力で稼いでこそ、初めて言いたいことが言え、嫌な場所から逃げ、自分で人生を選択する「自由」が手に入るのです

この世でいちばん大事な「カネ」の話


今ならわかる。当時彼は、わたしの腐った依存思考を、手を替え品を替えどうにかしようと伝え続けてくれていたのだ。10年後の今の私が見ても、当時の私には同じ本を差し出すだろう。

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隠すことでもないので書いておこう。わたしは彼の家に転がり込んだ時、「彼が養ってくれるかもしれない」という一抹の淡い希望を抱いていた。うんざりするパラサイト思考だが、そんな甘ったれた願望を抱いていた時代があった。それまでの歴代彼氏に、いろんなものを当たり前のように買ってもらったり奢ってもらってきたりしていたこともあり、自分で何かを買ったり、割り勘で家賃や生活費を払うなんて考えられなかったのだ。シンプルに腐っていた。


しかし、彼はピシャリと言い放った。


「ひとみ、自分の欲しいものは自分で稼いで買うんだよ


わたしは突然、突き放されるような衝撃を受けた。「冷たい!」と即座に思った。(反応として完全にわたしが間違っている)そして、同棲を始めるや否や、当然に家賃も生活費も割り勘を求められた。至極真っ当である。しかし、「こんなに金欠なのにひどい!」というのが心の第一声だった。彼をうらめしく思った。自分はめちゃくちゃに稼いでいて、わたしはこんなにお金がないのに対等な金額を請求するなんて・・・今思うと「この女、どうしてそこまでクズなんだ」とげんなりするが、これが過去の本当のわたしの姿であることも、やはり(抹消したいけれど)事実だ。


そして、彼の存在と彼の(涙ぐましい)努力あって、わたしに自立心と独立心が芽生えたのも事実である。本当に本当に、彼のこの姿勢は未来のわたしにとって相当にありがたかった。仮に、彼が生活の全てのことを賄ってくれていたとしたら、わたしは「自分の名前で生きていく」と覚悟も決まらなければ、お金がない焦りと戦ったり、健全なハングリー精神を育むことはできなかっただろう。そんなことは容易に想像がつく。

今思えば、フリーランスという荒野を生き抜くために一番必要な「自立心」という名の筋肉が、この時、彼の言葉によって無理やり鍛えられ始めていたのかもしれない。

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元々小説(特に村上春樹作品)しか読んでこなかった、世間知らずで無知の塊のようなわたしは、彼のおすすめ本をはじめとして、この時期からビジネス書を読む習慣が少しずつできてきた。

それにしても、「フリーランスで生きていくぞ!」と決断する人に神様は優しい。この頃、偶然友人から「この本面白いよ」とおすすめされた2冊の本たちが、わたしのフリーランス人生を大きく前に進めてくれるきっかけとなった。

依頼された仕事同様、とにかくなんでもいいから少しでもヒントになりそうなものは、片っ端からやっていった。なぜなら、もうやるしかない状況だし、なんとかしなければいけない焦りがあった。アルバイトで蓄えた貯金も持って、1ヶ月弱かそこらだろうか。とにかくすぐにお金を作る必要がある。

友人におすすめされた2冊を読むために、苦手な早起きをして、朝8時に代官山の蔦屋書店に行った。ここは売られている本たちが、スタバでドリンクを飲んでいる限り読み放題、という場所である。さすがに朝から1日いたら、遅読のわたしでも2冊くらい読み切れるだろう。タンブラーを持参し、スタバの一番安いドリップコーヒーのショートサイズを10円引きで買った。その1杯を夜まで持つように計算しながら、舐めるようにちびちび飲みつつ、書籍を読み始めた。そんなセコイことせず本買えばいいじゃん、なのだが、それは貧乏人の気持ちがわかってなさすぎる発想だ。金欠すぎると、「買って失敗だった」は致命的すぎるダメージになる。何かを買うことに非常に慎重になるのだ。(今は、気になったら本だけは値段に関係なく買う。今ならそれが、投資だとわかるから)

おすすめしてもらったまず1冊が、はあちゅうさんの「半径5メートルの野望」だった。

読んだ直後のわたしのブクログの記録。2015年7月6日。


読み終えた時の興奮は言葉にしがたいものだった。パラサイト思考にまみれていたわたしは、頭をガツンとハンマーで殴られた気分だった。でもそれが、全く嫌な痛さじゃないのだ。長い白昼夢から、やっと目が覚めた感覚だった。すごい、すごい、すごい──こんなふうに生きている人がいるんだ!しかもそんなに年齢も離れていない。この人かっこいい。こんなふうになりたい。こんなふうに、わたしも生きたい。


ドキドキした。たまらなく、ワクワクした。


同時に、自分との圧倒的な差分も理解した瞬間だった。「自分の名前で生きる」を体現している人って、こんな覚悟を持った人なんだ。こんなにたくさん発信して、こんなにたくさん行動する必要があるんだ。わたし全然行動してない。わたし、全然発信してない。たまにInstagramに渾身の軌跡の(そして嘘の)1枚をあげるだけ。オフラインの場でなんとかしようと、ゆるふわに生きていたわたしを、真正面から「あなたはそのままじゃ無理」とシャットアウトされているようだった。でももう一度言う。それが全く嫌な感じじゃなかったのだ。これなんだ。これだったんだ。わたしに足りないのはこれだったんだ──


わたしもこうやって生きてみたい。
自己紹介のいらない人になりたい。

願望とは力だ。

「こうありたい」が見えた瞬間にどんどん活力が溢れてくる。



今のわたしに「野望」と言えるようなたいそうなものはないけれど、でも、わたしにも「こうなりたい」「こうしたい」はある、と気づく。わたしはスマホに小さな願望をいくつかメモしてみた。

・必要な化粧品が買えるようになる
・行きたい時にスタバに行けて、フラペチーノが頼めるようになる
・行きたい時に美容院にいけるようになる
・フリーランスとして、自分の仕事で生きていく
・Instagramの発信をお仕事としてはじめる


これが全部できるようになったら、わたし、かなりすごい!想像してワクワクする。髪の毛が綺麗で、フラペチーノを飲んでいる未来の自分。トッピングとかしてたりして── ふと我に返ると、大切に飲んでいたドリップコーヒーはとっくに冷え切っていた。まだ半分以上残っている。周りのざわめきも、空腹さえも忘れてページをめくっていた。体は冷たいコーヒーで冷えているのに、頭の芯は燃えるように熱かった。


私にも、できるかもしれない──。


──


そして、おすすめされた2冊目の本に移った。それが、「1万円起業」。

直後につけた当時の記録。


店内の喧騒が、すっと遠くなる。数ページ読み始めただけで、直感した。これは、買う本だ。この本、すごい。持ち帰らなきゃ。この本、すごい!!


内容としては、少ない元手で、そう、タイトル通り1万円くらいを元手に(わたしにも1万円ならある!)年収1000万円を目指そう、という内容のものだった。(今読み直すと500万円を目指そう、だったが当時勘違いしていた)

そこには、実際に少ない元手でスタートし、大きな金額を稼いだ人たちのケーススタディがたくさん載っていた。さすがにこんなにたくさんの例が載っていたら、わたしにもできそうなものが一つくらいはあるはず。フリーランスをはじめよう、と思った時には、まわりに2人しか参考になりそうな人がいなかった。でもここには何人もいる。本ってすごい。すごい本に出逢ってしまった。教えてくれた友人に興奮してメールを打った。これはわたしの人生を変える本だ──。


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夜まで粘る覚悟で、ちびちび飲んでいたスタバのドリップコーヒーを一気に飲み干し、レジに向かった。レジのお会計を待っている間に一瞬、「bookoffで探そうかな」という貧乏魂が頭をよぎるが、さすがに今すぐ読みたい、と我にかえる。勇気を出して700円弱の「1万円起業」文庫本を購入した。わたし、魔法の書を手に入れたかもしれない!!


電車に乗るまでの時間も惜しく、歩きスマホならぬ歩き読書をした。駅に着いてからも、電車に乗ってからも夢中で読む。そうか、そうか、そうか。お金がなくても、どんなに少ない元手でも、ちゃんと稼ぐことができるんだ。しかも、世の中にはこんなに成功している人たちがいる。当時わたしは彼らのエピソードを読みながら、自分にもできるかもしれない、という感覚を徐々に積み上げていった。なんだ、たくさんお金がいるんじゃないのか。アイデアなのか。視点の切り替えなのか。夢中になりすぎて2回も電車を乗り過ごした。でも気にならなかった。それまで複雑な迷路にしか見えなかった「ビジネス」というものが、くっきりと描かれた一枚の地図に見えた。

「やりたいこと」だけではなく、稼ぐためにはきちんと「求められるもの」に重ならないといけないんだ──そんな重要なことを、独立するこの一番最初のタイミングで知れたことは、とても、とても大きい。なぜなら、この「求められること」という視点が抜けているために、なかなか芽が出ずに苦しんでいるフリーランスの方々を、この後何人も見てきたからだ。情熱やエゴだけでは、ビジネスとして続けるのは難しい。

──


序盤のさまざまなケースをみて、いよいよ、「さあ、あなたも実践してみよう!」という章に入った。え、待って、まだわたし何も決まってない、と著者に置いてきぼりにされそうな感覚を覚えながら、先を読まずに、もう一度最初に戻って、1つ1つのケースを注意深く点検した。真似できそうなもの、わたしにも応用できそうなものはないか。


そして、なんとわたしは幸運なんだろう。
この本の中で、わたしが完全にトレースできそうなものを発見する。


ストーリーの中に、ウェディングドレスとウェディングアクセサリーを作るブランドを行う女性の話が出てきた。彼女の家にはたくさんの布があったから、ほとんど新たなお金をかけることなしに、元手ほぼ0円でブランドをスタートできた、ということだった。

家にあるもので作って、ブランドをはじめる・・・?

──待てよ、わたしの家にも布だけは大量にある。1万円もかけず、もはやわたしもブランドができるかもしれない。夢だったブランド。諦めていたブランド。憧れだったブランドを持つということ。もしかして、本当にできるのかもしれない。


ブランドをやるには、数百万円の元手がいると思っていた。大学生のころに一度ネットで調べてみたことがある。(今思うと謎ソースだが)「ブランドをやるには200〜300万円いります」「専門学校に出ている必要があり、コレクションで発表する必要があります」というような記載があり、それを見たわたしは、「到底無理だな」と諦めていた。しかし、この本の中の彼女は、0円でブランドをスタートし、大きな売上を作っている。専門学校も出てなさそうだし(と勝手に判断)、なんならコレクションなんてやってなさそうだ。ブランドって、0円スタートしてもいいのか!目から鱗だった。


当時、1万円起業を読んだあとに書いた要点まとめ。2015年。
深夜2時とか3時とか、夜型すぎる・・・

"サービスを売るのではなく、自由を提供する。
幸せを箱に入れて売る。"

一万円起業


これらの金言とも言える言葉たちに、ブランドを始めるタイミングで知れているわたしは幸運すぎる。この言葉たちのおかげで、最初からわたしは「ものを売る」という概念を飛び越えてブランドをスタートできた。ものを売る立場として、これは非常に大きなアドバンテージだ。


そして、この本では、「やる」と決めたビジネスについて、企画書をA4用紙1枚にまとめよう、という章がある。わたしは本書で指示された通りにA4用紙1枚に企画書を作り始めた。

■概要
・何を売るのか?
・誰が買うのか?
・このビジネスアイデアは誰を助けるのか?
■お金
・いくら請求するのか?
・どうやって支払いを受けるのか?
・このプロジェクトで稼ぐ方法は他にあるか?
■売り込み
・顧客はどうやってこの商品を知るのか?
・どうすれば口コミで広めてもらえるだろうか?
■成功の基準
・顧客数 または 年間純収入
■障害と問題
・このプランの具体的な懸念は?
・懸念に対して考えられる解決策は?
■期日
このプロジェクトを___________までに立ち上げる。

1万円起業より


夢中になって書いた。プロジェクトは「ブランド」、で決まりだ。ブランドを立ち上げることを前提として書き始めた。書きながら「わたし、本当にブランドが始められるのかもしれない・・・!」とドキドキした。この本の中に出てきたブライダルブランドからインスピレーションを受けて、「ブライダルのヘッドドレス(結婚式の時に髪の毛につけるアクセサリー)ブランド」を立ち上げることにした。上記の内容に沿って、アレンジを加えずに、丁寧に1つずつ質問に答える形で書いていった。本当に、わたし、ブランドができるのかもしれない──


──



そして書き上げた企画書を誰かに発表しようと思い、彼に「ちょっとプレゼンを聞いて欲しい」とお願いしてみた。「お金がない」と悲壮感を漂わせながら日々を送っていたわたしが、本を読んだあとはまるで別人のように目をランランとさせていたらしく「おお!いい顔してるね〜!どれどれ見てみよう」と腰を据えて真剣に聞いてくれた。今思い返しても、本当に優しい。


「わたし、ブランドを始めることにしました!」と切り出し、「おおーいいね!」と返してくれる彼は、最高の聞き手である。本を読んだこと、それをもとにアイデアを練り、この企画書を作ったこと。ブランドの内容と、どんなふうに売っていくか。夢中になって話した。しかし話しながら、ふと不安になる。「わたしにもできるんじゃないか」と思って意気揚々と書いたが、でも話しながら相当大きなことを言っていることに気づく。ブランドなんてわたしにできるんだろうか。仰々しいことを書いてしまった。真剣に聞いてくれている彼を前に、一気に頭が冷えてきて、自分の計画がなんだか荒唐無稽なもののように感じた。でも、なんとか最後まで話し切る。


話し終えると、彼は企画書から顔を上げ、興奮気味に、でも真剣な目で真っ直ぐに私を見て、こう言った。


「めちゃくちゃいい!!──ひとみなら絶対できるよ」

その力強い一言で張り詰めていた何かが切れ、視界が滲んだ。希望を持ってやろうとしていることを、一番近くの人がこんなにも信じてくれる。それがどれほど心強く、嬉しいことか。暗闇の中で、ようやく一つ、確かな光を見つけた気がした瞬間だった。

──



そして彼は続けて、非常に有益かつ適切なアドバイスをくれた。「この収入を作るために、材料費を抜いて、利益何円のものを1ヶ月に何個売る必要があるか。そして、それを達成するために、何個の在庫を作る必要があるか。そこまで詰めてみると一歩目の行動が明確になるよ」 


なるほど・・・確かに。作れた分だけ売る、なんてことをしていたら、いつまで経っても稼ぎたい目標収入にならない。逆算が必要なのか。それもまた目から鱗だった。何しろ世間知らずな無知なわたしである。本当に何もわからなかったし、知らなかった。その的確すぎるアドバイスを聞きながら、自分のとんでもない幸運さを思い知る。わたし、めちゃくちゃすごい環境にいる。こんな最強の上司のような、最強のメンターのような存在がいる状態で起業できるなんて!

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急いで何円のものをいくつ売ればいいのかを計算してみる。そんなこと、したことがなかった。でも、ここで気づく。材料費ベースで売値を考えていたら、永遠に生きていく分を稼ぐには至らないことを。わたしがその前の月、スタイリストや衣装制作のお仕事で全くお金が増えなかった理由が、ここで明らかになった。「売りたい金額」をもとに、デザインを逆算して考える必要があるのか。衝撃だった。


例えば月に20万円を稼ぎたいとしたら、当たり前だが利益で20万円が残る必要がある。単に売上を20万にすればいいわけではないのだ。そんな当然なところからスタートした。売上を30万円作るのに、1万円であれば30個、2万円であれば15個売る必要がある。ブライダル向けのアイテムなので少しは高単価で売れるかもしれないが、小売(お客様に直接販売する)をしたことがないわたしは、一気にそんな数が毎月売れていくイメージが全く湧かなかった。そんな売り場所のアテもない。インスタのフォロワーはほぼ友達のしかいない、500人くらいだ。


そうなれば卸しかないな、と思い、営業にまわることに決める。卸で取引先が決まれば、1つのデザインで複数個一気に納品ができ、まとまった金額が入ってくる。


・・・となると、売り込みのためのポートフォリオ的なサイトがあると便利だな。そう思い、ひとまず「こういうイメージのブランドです」ということがわかるように、ブライダルヘッドドレスを早速6点、作ることを決める。

家にあった生地をベースに、不足している材料は新宿の東急ハンズやオカダヤ、渋谷のTOAで買った。代々木に住んでいたので、電車賃をケチって、彼の持っていたボロボロのママチャリを相棒に新宿へも渋谷へもいった。


──


そして、7月末、6点のヘッドドレスが完成した。

スマホで写真を撮り、minneというハンドメイドの販売プラットフォームで、商品ページをつくった。

ブランド名は、いろいろと迷った挙句に、Hitomi Maruo Designとした。
わたしのものづくりはお洋服から始まったので、お洋服のブランドっぽい名前にしたかった。そして、わたしの名前が入っている名前であれば、わたしにしかできないブランドになるだろう。そんな想いも込めて。


2015年7月20日。
2冊の本を読んでから、約2週間が経った頃。

わたしはひっそりと、facebookの投稿をもって
自分のブランド「Hitomi Maruo Design」をスタートした。

はじめての投稿


ブランドを始めると決めたはいいけど、やっぱり表で「ブランドを立ち上げました」というのは、怖くてできなかったんだと思う。無言でfacebookのブランドページを作り、作ったものを並べた。2015年7月20日。これがブランドとしてはじめて、作ったものを表で投稿した日。だから、この日をブランドスタート日にしよう、と決めた。


これが今のmaruo vintageの原型になる。

一番最初に作ったヘッドドレス


2つ目に作ったヘッドドレス


実際にヘッドドレスを作ってみて、お洋服を作るより遥かに少ない時間で完成し、さらに簡単で衝撃を受ける。これなら量産できそうだ。作りながら「これはいけるかもしれない」という手応えを感じる。

取り急ぎページを作成。それらしいBioを作ってみた



売り込みの準備はできた。

そして次なるステップ。卸で取り扱っていただくための営業だ。さて、どうやって、どこに、売り込もうか。そもそも、本当にブランドとして機能するんだろうか。来月も生きていけるんだろうか。


フリーランスとしての道は始まったばかり。
2015年5月に会社を辞めて、まだ2ヶ月。

ちょびっとの不安と、大きな希望を持って、わたしはある会社に連絡をした。


──つづく──








執筆後記


続きものとして書いている、わたしの人生の物語たち。前回の記事が、思った以上に反響をいただきとても嬉しいです。あの記事をきっかけにフォローしてくださった皆様、目を止めてくださった皆様、ありがとうございます。

今日はエモーショナルな文章、というよりはどちらかというとテクニカルな、どんな流れでフリーランスとしてブランドをやるに至ったのか、を意識的にスローモーションで書いてみました。これは「フリーランスになりたいです」という方々によく聞かれる部分で、どうやってわたしがフリーランスとしての稼ぎの種を見つけていったのか、売り上げを作っていったのかを、全てお見せしたいな、と思ったからです。

本ってすごいですよね。周りに参考になる人やアイデアがなくても、本さえあれば無限に得られる。この当時はまだ、自分で書籍を選ぶ、ということはできなくて(どうやっていい本を見つけたらいいのかわからなかったんです)、だから、人からおすすめしてもらったものを、選り好みせずにひたすらに読んでいました。この時期、付き合っていた彼にお勧めされた「まんが道」という藤子不二雄(A)先生の作品も、ブランドをやることに大きく影響を与えてくれたと感じています。好きなことをやる、ということの強さとエネルギーを思い知った。むしろ、好きなことじゃないと成功しないよね、好きなことを貫いていいんだよね、そう思わせてくれた漫画でした。

正直、こんな受け身な状態でよくブランドの種が見つかったな、と自分のラッキーさに呆れてしまうのですが、とはいえ、皆さんにも参考になる部分はあると思うのです。

これを読んでくださっていて、フリーランスとして生きていきたい、と思っている方。1万円起業は個人的にとてもおすすめです。マイクロビジネスの本質が載っているからです。本文でも少し触れましたが、事業として成り立たせるためには、自分の「やりたいこと」に「求められること」が重なるところでお仕事をすることが必須条件になります。

でも、往々にして、「自営業でやっていくぞ!」と意気込む人が陥ってしまうのが、「自分のやりたいことで生きていく!」とエゴだけで走ってしまうケース。これは「求められること」に重なっていないから、やれどもやれども全然お金にならない、になっちゃうんですね。

じゃあ、自分が求められることってなんだろう?ということになるんですが、それはあなたのこれまでの人生の歩いてきた道に、あなたの武器は落ちています。そんな「自分にあるもの」を思い出すきっかけをくれるような本でもあります。

とはいえ、本を読まないにしても、一度考えたビジネスアイデアを、この1万円起業のフォーマットに沿ってA4用紙1枚で企画書にしてみる、というのはなかなかにいい気づきをくれると思います。自分の"抜けている部分"も見つかるし、"軸"みたいなものが見える。無知で自立心のかけらもなかったわたしが、こうして今、自営業として11年、生きて来れているんです。あなたもきっとできます。大丈夫。

そして、もう一つ。

当時の私にとって幸運だったのは、一番近くに最強のメンター(彼)がいてくれたことです。アイデアを面白がってくれて、的確なアドバイスをくれる存在。もしあなたがこれから何かを始めるなら、そんな風に自分の挑戦を応援してくれる人を、一人でいいので見つけてみてください。それは、どんなビジネス書よりも力強いお守りになります。

自営業、いいですよ。わたしはこの生き方が、とても気に入っています。
自分の力で稼げるようになると、言いたいことが言え、嫌な場所から逃げ、自分で人生を選択する「自由」が手に入るんです。西原さんの書籍の内容ですね。あの当時はイライラしながら読みましたが(笑)、改めて思います。真理だなって。だってこんなに貧乏だったわたしが、なんと今、ブランドは会社になり、代官山に店舗があり、さまざまな百貨店さまでPOP UPをさせていただいていて、わたし自身はパリに住んでいる。はっきり言って、この時のわたしからは考えられない人生です。でも、人生って、自分の力で変えていけるんです。変えよう、と思えば、本当に。

この文章が、あなたの自由が手に入るヒントやきっかけになりましたら幸いです。ブランドで稼ぎ始めるまでのエピソードは、もし読みたいと思ってくださる方がいらっしゃいましたら、今日みたいに丁寧に綴っていきたいと思います。

今日の記事が「よかったな」、あるいは「続きが読みたいな」と思ってくださったら「スキ」をいただけますと、とても励みになります。

いつもありがとうございます。


わたしのブクログ(読書記録)





【お知らせ】

この記事では、なけなしのお金を握りしめ、たった6点のヘッドドレスから震える手で始めたブランドの誕生について書きました。

そんな小さなブランドが、皆さまに応援していただいたおかげで、明日8月27日(水)から、阪神百貨店梅田本店でポップアップを開催できるまでに成長しました。

10年前、1杯のコーヒーで一日を粘っていた自分に教えてあげたいような、夢のような気持ちです。

あの頃の私が作った原型と、今のmaruo vintageの世界。

物語の「今」を、ぜひ見にいらしてください。

◆maruo vintage POP UP STORE
期間: 2025年8月27日(水)〜9月2日(火)
営業時間:10時〜20時
場所: 阪神百貨店梅田本店 2階 メインエントランス入ってすぐ

※初日オープン〜お昼、土曜日オープンから11時までは、
混雑回避のため、整理券でのご案内となります。
現在整理券は完売しております。
上記以外はフリーオープンとなりますので、
ぜひお気軽にお立ち寄りくださいませ。

会場で現在の姿をご覧いただけますこと、心から楽しみにしています。




続編・第4弾はこちら


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