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【熔ける前の井川意高物語】#08:優秀だったお世継ぎ!

井川意高氏は現在、インフルエンサーとして活躍されていますが、かつては大王製紙の社長を務め、カジノで106億円もの巨額を失い、特別背任の罪で懲役4年の実刑判決を受けたことで広く知られています。

一方で、その父であり、「大王製紙の中興の祖」と称されながらも、その功績が十分に世に知られていないのが井川高雄氏です。

井川親子と共に仕事をするという貴重な経験を持つ私だからこそ、彼らとの思い出を振り返りながら、なぜあのような事件が起きたのかについて、冷静に考察してみたいと思います。


🌳H&PC事業と未来への投資:ブランド価値の進化

井川意高氏が専務や副社長時代に築いた実績は、エリエールブランドの価値を高め、今日の大王製紙の基盤を形作るものでした。

H&PC事業(家庭用・パーソナルケア製品)を専務・副社長として率いた意高氏のリーダーシップによって、エリエールは国内トップブランドへと成長し、その評価は井川高雄氏の影響を超えるほどのものであったかもしれません。

意高氏も自身のYouTubeチャンネル「井川意高が熔ける日本を斬る」で、そのH&PC事業のブランド価値向上への投資の重要性を語っています。

彼の副社長時代の集大成は、P&Gから大人用紙おむつ「アテント」を買収したことでした。社長就任直前の2007年6月14日にプレス発表して自らの社長就任に際し、実績を誇示しました。

少子高齢化に対応し、子供用紙おむつから大人用紙おむつへの需要移行を見据えた決断であり、未来の成長につながる投資といえました。企業の継続的成長には、既に訪れている未来への投資が必要であり、それを見据えたリーダーの決断が求められていました。

順調に見えた社長就任でしたが、社長としての意高氏にとって父・井川高雄氏の強い影響力は、トップに就いた途端、とてつもない重荷となり、役員人事すら自由にできないストレスを抱えることになっていったと考えられます。

たとえば、父親の懐刀である木原氏と長谷部氏、さらに子会社立て直しで高雄氏からの信頼を得た佐光氏を副社長に加えた3副社長体制(副社長トロイカ体制)が敷かれ、社長として役員選任の人事権は制限されていました。このように、高雄氏の影響力が強く及ぶ経営体制に対して大きな葛藤があったに違いありません。

🌳柔軟な学びと共感力:実践で磨かれたマーケティング力

意高氏は、副社長時代にH&PC事業の責任者としてリーダーシップを発揮し、エリエールブランドの価値を再構築しました。

苦戦していた子供用紙おむつ「フレンド」ブランドを刷新し、新たに「GOO.N(グーン)」を立ち上げたほか、大人用紙おむつ市場ではP&Gから「アテント」ブランドを買収し、幅広い市場に向けたブランド再構築を行いました。

この時期、意高氏はマーケティングを体系的に座学で学んだわけではなく、業界で得た人脈や他社トップからの話をもとに、自ら試行錯誤を重ねて実践的なマーケティング論を築いていったとYouTubeで発言しています。

また、「自分は0→1の天才肌ではなく、1→10、10→100の事業を軌道に乗せる秀才肌だ。」とも発言されています。

確かに意高氏らしい発言で、知らないことを知らないままにせず、部下に「どういうことなのか?」と素直に尋ねる柔軟な姿勢がある方でした。このような柔軟な姿勢は、部下からの信頼を集める一因ともなっていました。

🌳原材料調達と未来戦略:プランテーションプラットフォーム構想

1999年1月に、私は外材部の部長に就任しました。それから1年も経たない頃、豪州タスマニアでの植林プロジェクトへの参画をサプライヤーのBORAL社から打診されました。

それはタスマニア森林公社と豪州のチップサプライヤーBORAL社によるジョイントベンチャー植林へ当社の参加を求めるものでした。

しかし、植林事業は大きな投資とリスクを伴うため、過去の外材部長はこの案件を職務権限で断り、その結果、井川高雄氏の不興を買って外材部長を解任されたことがありました。

そのような背景を踏まえつつ、私は「プランテーションプラットフォーム」というビジネスモデル構想をまとめ、JFE商事にデューデリジェンスを依頼しました。

私には勝算がありました。


当時大阪支店で支店長をしていた※木原和憲氏(私が米国から外材課長として帰任した時の外材部長)から電話が掛かってきました。

※木原和憲氏は元大王製紙取締役で、井川高雄氏のジョブローテーションで育成された一人でした。80年代に「30代の人事部長」として日経新聞に取り上げられたこともありました。

「顧客から一緒に植林できないかと相談があったんだけど、今更アンチレ(チリの子会社)に出資してもらう訳にもいかないだろうから、断るしかないかな?」という相談でした。

「支店長、実はいい案件があるので、しばらく時間をください。タスマニアで新規の植林話がありまして、これに出資してもらえるような構想をまとめて承認をもらいますので10日ほど時間をください。」

私は、その日のうちに、プランテーションプラットフォームというビジネスモデル構想のプロットを書き上げました。

タスマニア森林公社が植林JVの50%の権利を握り、BORAL社が15%、日本側の豪州法人が35%(後のPlantation Platform of Tasmania, Pty Ltd)という豪州側がマジョリティを握るプロジェクト案でした。

この日本側の豪州法人に顧客1社だけでなく、他にも多くの紙のお客様に投資をしてもらって、紙のサプライヤーと顧客というお付き合いだけでなく、原料チップの源である樹木を一緒に育てるパートナーとしてのお付き合いという関係強化を商売に付加することを企画しました。

これをJFE商事(当時は川鉄商事)に示して、商社として投資案件の基礎的なデューデリジェンス資料をまとめてもらいました。

川鉄商事が作った投資採算の試算資料の説明を井川意高氏にも一緒に聞いてもらいました。その面談後、意高氏からこんな質問がありました。

「上家、川商が説明していたDCレートというのは何のことだ?説明してくれないか?」

「はい、私も詳しくはないのですが、川商の場合、投資案件を評価する場合にディスカウントキャッシュフロー(DCF)法を使うそうです。持ち込んできた植林プロジェクトの将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法を取っていて、その割引率のことをDCレートと書いていました。」

その答えで十分だったとは思いませんが、「分かった。」と答えた意高氏は、ご自身で投資評価手法を詳しく学んだのでしょう。短期間で社員ではかなわない知識を身に付けられていて、翌週にはもう私では歯が立ちませんでした。

「上家、あの川商の試算でIRRはいくらになるんだったっけ?」
彼の柔軟な姿勢には、常に驚かされるばかりでした。


無能な見栄っ張りは沢山いますが、井川意高氏のように有能なのに分からないことを部下に素直に教えてくれと聞くことができる頭の良い方は、そうはいません。次回もう少し深堀りしてみましょう。

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