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【熔ける前の井川意高物語】#01:大王製紙の中興の祖は?

元大王製紙会長、井川意高氏と言えば、カジノで106億円を失ったというショッキングなエピソードで一躍話題になりました。

東京大学卒業のエリートで、創業家3代目として2007年に社長に就任したものの、2011年に社長を退任して会長になった矢先に事件が発覚。特別背任罪で懲役4年の実刑判決を受けたニュースは、多くの人々に衝撃を与えました。

しかし、井川意高氏のストーリーはここで終わりません。現在、彼はインフルエンサーとして新たなステージで活躍し、自身の経験から得た教訓を多くの人に発信し続けています。さらに、その波乱万丈な人生を綴った書籍も出版されて、注目を集めています。

一方で、忘れてならないのが彼の父、井川高雄氏です。大王製紙を再建した“中興の祖”として称賛されるべき偉大な存在なのに、その名前がほとんど語られないのは本当に残念です。

実は、私は井川高雄・意高親子の下で仕事をしてきた元大王製紙社員です。だからこそ、語られることのない彼ら親子の功績を振り返りながら、なぜこのような事件が起きてしまったのかについて、私なりの視点で探ってみたいと思ったのです。

「熔ける前の井川親子の物語」のタイトルの方がフィットする内容かもしれませんが、今日からの全18話をお楽しみください。


🌳消えた中興の祖の存在

私は41年間大王製紙にお世話になりました。その大王製紙発展の礎を築いた中興の祖と言えば、何と言っても井川意高氏の父、井川高雄氏だと思っています。

ところが、意高氏の事件が起き、新生大王製紙を率いた佐光社長(当時)は、創業者の井川伊勢吉氏を称えたものの、中興の祖である井川高雄氏の存在を無きものとして新生大王製紙を船出しました。

社内外で井川高雄氏の功績を封印し、在任中「井川高雄」の名を口にすることはありませんでした。

確かにあの事件(今後、この事件を「9.16事件」と記します)はショッキングでした。

2011年9月16日、当年の6月に社長を退任し会長になったばかりの井川意高氏が、突然会長も辞めるとの発表がありました。

その辞任理由が、連結子会社からの借入れ(当時の残高 約59億円)に関連したガバナンス上の問題とのことでした。

ご本人には言い分があるようですが、結果的に会社法違反(特別背任)の罪で懲役4年の判決が出て服役したのですから、意高氏の社内での評価が厳しくなっても仕方がないと思います。

しかし、だからと言って井川高雄氏の功績を無かったことにして大王製紙を語ることはできません。

私は事件後ずっと、井川高雄氏の存在を消されたことに違和感を感じていました。

愛媛県伊予三島市(現:四国中央市)の田舎会社を、今の大王製紙にまで発展させたのは、井川高雄氏の先見性決断力類まれな経営センスのおかげであり、今求められているサステナビリティ経営を実践してきたからだと思っています。

創業者である井川伊勢吉氏(高雄氏の父)と大喧嘩をしてでも三島工場に塗工紙設備を導入する拡大投資に踏み切る決断も、アメリカの家庭紙メーカーからライセンス供与を受けてティッシュペーパーを製造する他の製紙会社とは違い、純国産家庭紙メーカーとして「エリエール」ブランドを立ち上げ、見事トップシェアに発展させたのも井川高雄氏の経営手腕でした。

そんな井川高雄氏をいなかったことにしてしまうのは無理があります。

どこの会社でも、会社発展の礎を築いた中興の祖が残した言葉や理念は、深く、そして強くその会社に根付いています。

そういった理念や経営哲学を言語化し、社員が共有するからこそ、強い会社が更に強くなるのです。その存在を消してしまうのは無理なのです。

「強か(したたか)」という言葉は、レジリエンス(強靭さ)を表す言葉で、まさに井川高雄氏の経営はレジリエンスで、そしてサステナビリティな経営でした。

その井川高雄氏の長男であり、東大法学部に現役で合格する地頭の良さを武器に、若い時から経営陣に名を連ねていた井川意高氏もまた、熔けた事件を除くと立派な経営者でした。社員はそう思っていました。

井川意高氏が熔けてしまうまでの出来事を振り返り、なぜこんな事件が起こったのかを自分なりに分析し、消された中興の祖、井川高雄氏の功績を残しておきたいと思います。

🌳その存在を消したい理由も理解できる

井川高雄氏が大王製紙に入社した昭和38年、大王製紙は一度経営破綻し、会社更生法を申請しています。井川高雄氏にとっては、父親が債権者集会で血祭りにあっている現場が大王製紙への入社式だった訳です。

その後、大王製紙が再び東証一部(現:東証プレミアム市場)の上場会社へと発展できたのも、井川高雄氏が推し進めた営業力の強化や、海外原料を主原料とした三島工場への投資の集中純国産ブランド「エリエール」をトップブランドに育てた家庭紙での成功南米チリでの植林事業古紙100%の新聞用紙にチャレンジしたいわき大王製紙の成功など、数え上げればきりがありません。

さらに、最近では人的資本経営と呼ばれる「人材の育成や組織運営」に磨きをかけ続けたことで、一度破綻した会社を復活・発展させたのです。

とんでもない事件の後を任された佐光正義氏(当時社長)が、事件を起こした井川家(高雄・意高親子)の影響を消したいと思った気持ちはよく分かります。

なにせ井川高雄氏は中興の祖であり、カリスマ経営者でしたから、その存在感は邪魔だったと思います。

しかし、井川高雄氏の存在を無かったことにしてしまったことで、大王製紙が戦後どこよりも発展した製紙会社であった理由も、何故9.16事件が起こってしまったのかについても社内の役員や社員が総括することもなく、特別調査委員会の報告書だけで新生大王製紙をスタートしてしまいました。

未来の大王製紙を支える若い社員が、井川高雄氏の経営哲学を知り、何故9.16事件は起こってしまったのかを自分の頭で考える機会を得ることは、決してマイナスではなく、むしろプラスだと私は考えています。

🌳どうして9.16事件後に大王製紙は潰れなかったのか?

企業を復活に導く中興の祖は、100人いたら99人が反対するようなことを平気でやり遂げる「決断力」がある人だと思います。

創業者の井川伊勢吉氏が反対するだけではなく、99人が「高雄さん、やめときなはれ」と言ったところで言うことを聞かず、逆に周りを納得させる構想に仕上げて突き進む、そんなカリスマ経営者が井川高雄氏でした。

そして一度決断したら、必ず勝ち戦にする。
そんな構想力(人・物・金の経営資源の配分計画)を持ち、施策を必ず実現する実行力を兼ね備えた経営者でもありました。

家庭紙分野(エリエールブランドの立ち上げ)への進出を決断したのもそう、福島県いわき市に古紙だけを原料にした新聞と板紙製造の工場を創ると言い出したのもそう、そういう決断力があった経営者でした。

いわき大王製紙の構想は、大量に古紙が発生する東京周辺を「アーバンフォレスト(都会の森林地帯)」と呼ぶ経営センスが導いたものでした。

同様に1989年当時、邦貨で100億円を資本金にあてて南米チリで植林事業会社を立ち上げるという大胆さも構想力と決断力のなせる業でした。

植林事業というものは、毎年10億円の植林を10年間続けて、無事に11年目にパルプ材を収穫できたとしても、それまではノーリターンという厳しい事業なのです。

こんな危ない投資をして原料を自らの手で育成する決断を誰ができますか?

どんなに緻密な計画を立てても、最後は直感のような「決断」が必要になるのが経営者です。

その直感が良い方向に働くようになるまでの努力と経験が、優秀な経営者にはあり、そうでない凡人経営者にはない、そこに大きな差があると思います。

今、地球温暖化を止める切り札として、また、生物多様性を保全して食料を確保する切り札として「森林」の価値が見直されようとしています。

ひょっとしたら森林の経済価値が爆上がりする未来がくるかもしれません。

井川高雄氏は、そんなロマンがある未来の種まき投資を決断できる方だったのです。

9.16事件後、大王製紙存亡の危機を救った佐光社長はどうだったのでしょうか?

佐光社長は、事件後の新生大王製紙を率いて、見事に復活させた立派な経営者です。

ただ、その成功は必ずしも佐光氏の手柄ではなく、中興の祖である井川高雄氏が育ててきた有形無形の財産(ビジネスや人材、ブランド)があったればこそできたことであり、井川高雄氏の「未来への種まき」が花開き、収穫を得たのが佐光氏だったと言えるかもしれません。

なにせ佐光氏自身が、井川高雄氏に鍛えられ、いろいろな経験や経営者としての訓練を積んできた井川高雄門下生なわけです。事件の時に佐光氏のような人材がいてくれたことは、ある意味で中興の祖である井川高雄氏が準備してきたことであり、彼の手柄だったのかもしれません。

つまり、中興の祖が築いてきた「財産」を使うことができたからこそ、事件後の大王製紙は潰れずに独立経営を維持できたのです。

佐光氏が井川高雄氏と同じようにどれだけ未来への種まきをしてきたのかは、次の代の社長の収穫を見ていれば分かると思います。

おいおい詳しく説明していきたいと思いますが、そろそろ井川意高氏が入社してきた時からの物語をスタートしましょう。


第1話なのでちょっとくどい解説でボリュームが多くなってしまいました。
つづきも楽しみにしてください。

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