【熔ける前の井川意高物語】#09:海外出張も多かった副社長時代!
井川意高氏は現在、インフルエンサーとして活躍されていますが、かつては大王製紙の社長を務め、カジノで106億円もの巨額を失い、特別背任の罪で懲役4年の実刑判決を受けたことで広く知られています。
一方で、その父であり、「大王製紙の中興の祖」と称されながらも、その功績が十分に世に知られていないのが井川高雄氏です。
井川親子と共に仕事をするという貴重な経験を持つ私だからこそ、彼らとの思い出を振り返りながら、なぜあのような事件が起きたのかについて、冷静に考察してみたいと思います。
🌳戦後から続くチップ調達戦略の進化
大王製紙が戦後急成長を遂げた背景には、化学パルプ設備の導入と、三島工場の立地がありました。
この工場はチップ船(木材チップのような軽い原料を効率よく運搬するための専用船)で運ばれた木材チップをそのまま※保税上屋である工場内のチップヤードに直接荷下ろしができ、原料を効率よく使用できる環境が整っていました。
※保税上屋は、輸入貨物が国内に正式に入ってくる前に税関の監督下にあって、通関手続きを行うまで一時保管場所で、通常は保税上屋から横持ちをして工場へ運び込むことが必要です。
これにより、輸入チップを主原料とする高いコストパフォーマンスのパルプ製造が可能になり、三島工場は、業界でも有数の価格競争力を誇る工場となりました。
製紙業において、木材チップは”紙パ産業の米”として基盤的な役割を果たしています。紙製品の製造には安定したチップ供給が不可欠です。
そのため、供給源である樹木を自らの手で海外植林を手掛けてきたのです。
しかし植林には大きな投資が必要で、私が外材部長だった1999年から2002年の相場は10,000haあたり30億円の投資というのが世界標準でした。
そのため、大王製紙は世界標準よりもコストやリスクを抑えた植林適地を探しながら、未来の植林事業、原料調達の方法を模索していました。
大王製紙がチリに大型投資を行った1989年以降、90年代には他の製紙会社も続々と海外植林に参入しました。
とりわけ豪州、ニュージーランド、チリ、ブラジル、南アフリカなどは、広葉樹であるユーカリの植林に適した土地として注目されていました。
当時はまだ印刷用紙需要が拡大傾向にあり、広葉樹チップの供給確保が優先課題だったのです。
植林事業はバラ色なものではなくリスクも大きいため、次代の経営者として期待されていた井川意高氏は、積極的に世界を飛び回り植林適地を目利きしていきました。
そうした中で、彼が賛同してくれた豪州タスマニアでのJV植林構想は、植林コストが高騰する前の非常に良いタイミングで軌道に乗せることができました。
🌳タスマニア森林公社との提携メリット
大王製紙がチリで植林を始めた際には、まず牧場跡地や灌木地などの土地を購入する必要がありましたが、タスマニアでは植林用地の手当てが不要でした。
タスマニア森林公社(現在のSustainable Timber Tasmania)は、州政府が100%出資する企業で、80万haもの「公営林」から得られる木材でビジネスを展開しています。
保護区の森林とは異なり、長期にわたり生産と植林を循環させて持続的な収益を生み出すことが可能な生産林の運営も役割としている公社なのです。
つまりタスマニアの森林経営を担当するタスマニア森林公社がパートナーということで、土地手当の必要はなく、伐採後の再植林地がJVに提供されるというスキームだったのです。
日本でも第3セクターと呼ばれる形態で地方自治体と民間が共同出資して運営する公共性の高い事業がありますが、総じて赤字でどうしようもない事業の延命策のようなものです。しかし、タスマニア森林公社は、公共性の高い森林を維持するために収益を上げることができる事業で稼ぐことのできる森林運営のプロなのです。
タスマニア森林公社が大王製紙にJV植林を提案してきた目的は、広葉樹を成木(製材用材)として育てるためには※間伐が欠かせず、その間伐材の用途を担ってくれるパートナーを探していたのです。
※間伐とは、樹木を適度に間引くことで、森林内の過密状態を解消し、樹冠から樹木だけでなく下草にも十分な光が入り、養分や水を樹木に供給できるようにする林業の手法です。
大王製紙にとっても、植林適地を提供してくれ、しかも植林オペレーションを森林公社が担当してくれるこの事業モデルは、多くのリスクをヘッジすることができました。
そのようなメリットを活かして、当社は、顧客とのパートナーシップ強化のための長期的に安定した事業基盤を持つ事業植林を計画したのです。
それが顧客にも出資してもらいやすいプラットフォーム「プランテーション プラットフォーム オブ タスマニア」構想でした。
そして、その設立を強く後押ししてくれた重要な存在が井川意高氏であり、森林に対するその深い理解と経験値での目利き力だったのです。
🌳タスマニアでの植林プラットフォーム構想の具体化
井川意高氏の賛同を得たものの、プロジェクトの最終承認には井川高雄氏の理解と同意が必要でした。そのため、企画書に加え、顧客への出資依頼提案書も準備して、高雄氏に報告しました。
大王製紙は戦後、王子や日本製紙の代理店網に依存せず、独自の営業活動によって成長してきた企業です。
エンドユーザーに直接アプローチする営業体制を敷き、設備も自前の技術陣が設計を手がけるという自前主義が企業文化でした。
そのような企業文化の下で、豪州側に主導権のあるマジョリティを委ねるという構想が果たして受け入れられるのか、不安が残っていました。
井川意高氏の協力を得てプロジェクトの大枠は固まったものの、最終承認には井川高雄氏の理解と同意が必要でした。そこで私たちは、事業の意義や顧客のメリットを詳細にまとめた企画書を準備しました。
企画書には、顧客にも出資してもらう構想を「プランテーション プラットフォーム構想」と称して臨みました。駅の構内には、移動という共通の目的を持った者が集まるように植林というプラットフォームに環境と事業の両立を目指すパートナーが集まるプロジェクトの意義を提案の柱に据えました。
この構想の最大の狙いは、製紙業における安定的な原料供給を確保すると同時に、顧客が長期的な利益を享受できる仕組みを構築することにありました。
顧客への出資依頼提案書には、次のようなポイントを盛り込みました:
安定供給の保証 「プランテーション プラットフォーム オブ タスマニア」への出資により、顧客は、紙の生産に必要な広葉樹チップの安定供給が長期的に確保され、紙製品の安定供給を受けられる。
伐採原木による収益の分配 タスマニア森林公社との提携により、植林から伐採までのオペレーションが保証され、伐採された原木をチップに加工して大王製紙へチップ販売を担当するボラル社もプロジェクトの参加者であることから、確実に投資回収できるスキームである。
環境面でのメリットと社会的貢献 植林事業は森林資源の持続可能な利用を推進し、環境保全の一助になるという観点を加えました。この点は特にCSR(企業の社会的責任)活動に熱心な企業に響きやすく、森林保護を重視する顧客への魅力的なアプローチとなりました。
井川高雄氏への報告でも、長期的に顧客との信頼関係を築き、資金調達と事業安定化を同時に図る「プランテーション プラットフォーム」構想は、国内外の競争を勝ち抜くための戦略であるとの説明を試みました。
高雄氏は熱心に耳を傾けた後、「競合他社との差別化を図れるのか」「環境負荷への配慮が顧客の共感を得られるのか」などを質問し、私は、想定されるリスクや将来的な収益計画についても丁寧に回答し、最終的に承認をいただきました。
こうして、大王製紙は2000年6月、豪州タスマニア島でのJV植林事業を正式に始動しました。
このプロジェクトは、15年周期で植林と伐採をローテーションする計画でしたが、残念ながら1サイクルで終了してしまいました。その理由については、後述したいと思います。
次代の社長である井川意高氏が、2000年のシドニーオリンピック直前に豪州での新事業立ち上げ式に参加してくれたお陰で、このプロジェクトが未来への種まきとして重要であることが象徴されました。
一方、私はその間も別のタスクを命じられて、世界を飛び回る日々でした。重要なイベントを部下に託しつつ、次々と課される新たな任務に追われていました。
井川意高氏に応援してもらえる案件であれば、それだけで高雄氏に向かっていける原動力となりました。非常に心強い副社長 井川意高氏の存在でした。
井川意高氏が得意としていた植林分野の話と共に、次回はジョブローテーションによる人材育成の要諦を深堀りしていきましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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