【熔ける前の井川意高物語】#15:社長らしい存在だった!
井川意高氏は現在、インフルエンサーとして活躍されていますが、かつては大王製紙の社長を務め、カジノで106億円もの巨額を失い、特別背任の罪で懲役4年の実刑判決を受けたことで広く知られています。
一方で、その父であり、「大王製紙の中興の祖」と称されながらも、その功績が十分に世に知られていないのが井川高雄氏です。
井川親子と共に仕事をするという貴重な経験を持つ私だからこそ、彼らとの思い出を振り返りながら、なぜあのような事件が起きたのかについて、冷静に考察してみたいと思います。
🌳顧問井川高雄氏の流儀:逆鱗からの再起
私は、部長昇格後、3年ごとに新たなタスクが課されるジョブローテーションで経験を積むことになりました。
そんな経験の中で、井川意高氏と共に四国に赴任して、労務部長を務めたときに井川高雄氏の逆鱗に触れ、出世街道から外れました。
四国から3年で東京に戻ってきた時は、周りの目も冷たく、これで出世とも縁がなくなったと思っていたのですが、それまで営業推進部で管轄していた「物流」を独立させた部署設立に際し、初代物流部長を拝命しました。
その後、全国の自社営業倉庫を見て回って課題整理をしたレポートが、井川高雄氏の目に留まり、直接報告に来いと指示がありました。
この辺りが井川高雄流のやり方で、一度は逆鱗に触れて外された者に、もう一度チャンスを与えるわけです。
物流の仕事にやりがいを感じ始めていた時に、全く予想もしていなかった再度の海外駐在を命ぜられたのです。しかもリーマンショックの影響で真っ赤な業績だったハワイのリゾート事業の現地責任者の辞令でした。
🌳井川高雄流「人物特性表」に見る人事の流儀
井川高雄氏は、人事部に人物の特性をその人物の過去の上司、少なくとも3代前の上司のコメントまでをまとめた人物特性表を作らせていました。
そして、その書類を人事異動の際の報告添付資料の一つとして、異動案の際に目を通していました。
人物特性表と呼んでいたこの資料を作るのは、人事部にとっては、もの凄く手間なことなので、9.16事件を機に、求める当人がいなくなったことから今では作っていないと思います。
しかし、井川高雄氏健在の折には、この面倒な資料が人事異動報告の際の重要な資料の一つでした。
普通は、同一人物の評価ならどの上司でも同じような評価をすると思われるかもしれませんが、人によっては人物の長所を見ている視点や視座の違いから見解が異なる場合があるのです。
その人物の見方において、マイノリティな意見もしっかりと読み込んでいたのが井川高雄氏でした。
また、コメントしている上司を井川高雄氏がよく知っていれば「やっぱりこいつの見識は高いな」とポジティブなコメントを残す場合もあれば、コメントによっては、例えば人物の特徴を曖昧に書いていたりすると、そのコメントを記した上司がなっていない直ぐに代えろ、こんな上司の下で部下が育つかと怒り出したりすることもあり、人事部にとっては非常に気を遣う資料でした。
人物特性表が発展して管理職の多面評価として、上司のコメントだけではなく、部下から見た上司の評価を集めることを私がハワイに着任してから人事部が始めたことがありました。
上司には黙って人事部へ上司に対する評価のコメントを提出するというこの360度評価制度は、1,2度やったものの、人事部にとってはとても手間だったと思うので、9.16事件後すぐに止めてしまい、長続きすることはありませんでした。
🌳社長井川意高氏の現場主義と見識
社長井川意高氏からどんな言葉を受けてハワイに着任したのかはよく覚えていませんが、ハワイから報告のために帰国した折に、意高氏から思い出深い言葉を掛けられました。
それは、人事部が1,2度しか実施しなかった部下からの多面評価に関する井川意高氏のコメントでした。
ハワイに着任して改革を進めていた私は、現地の管理職からボロクソに評価されていたことを社長である井川意高氏からフィードバックされたのですが、叱責どころか励ましを受けました。
ハワイから定期的報告のために帰国した際に、社長室で意高氏から下記のような対話で励まされました。
(意高)上家、ハワイの管理職から大王からヒットラーが来ただとか、女性蔑視者で男性管理職の話しか聞かないだとか、散々な評価コメントだな。
(私)不徳の致すところで、情けない限りです。
(意高)君からのレポートを読んでいるので現地の状況はよく分かっている。リーマンショック後の大赤字の会社の管理職でありながら、どうしていいのか、何のアイディアもなくぬるま湯に浸かってきた者が、君のような改革志向のトップが来た時の拒否反応なのだから、人事部には、こんな評価は気にするなと言ってある。気にするな、思ったとおりにやってくれ。
(私)ありがとうございます。リゾート事業などやったことはありませんが、とにかく着任後マウイ島内の全てのホテルとタイムシェアを見てきました。どうやったら事業を立て直せるかは、まだ、明確には見えていませんが、これまでの営業スタイルでは駄目だということだけは明確です。思いっきりやらせていただきます。
この社長の励ましは、大変ありがたい一言でした。
現場臨場感をよくご存知の意高氏だからこその励ましであり、こんな酷いコメントを人事部に送っていた女性マネジャーたちも帰任する際には「大王から来た最高の責任者だった」とおべんちゃらを言ってくれる関係になっていました。
これこそが心理的安全性の重要性を表わしていることだと思います。
結局、言うだけ番長ではなく、結果を出すことが現場リーダーの全てなのだということであり、それをやれるように、やりきるように励ましてくれたのが社長の井川意高氏でした。
9.16事件後にこのハワイの事業は、ノンコアビジネスとして売却してしまいましたが、真っ赤々な事業を過去最高益で閉じて、高値売却につなげられたのは、私の自慢話になりました。
そしてそれは、社長井川意高氏の一言があったからこそ実現出来たことだったのは間違いありません。
そういった見識を持った社長でなく、形だけどこかのコンサルの受け売りで360度評価を始めていたら、私は、事務的に子会社の現地責任者を交代させられて、事業の高値売却はできなかったかもしれません。
🌳兄弟でも対照的な常務井川高博氏
私がハワイに着任した際のエリエールハワイの事業を管掌していた役員は、意高氏の弟の高博氏でした。
上司なので最初は私からのレポートにも反応がありました。意高氏とは違い否定的な反応と上から目線の指図ばかりが返ってきて辟易としていました。
ある時、高雄氏から「定期的に帰国して報告に来い」との指示が秘書を経由して入ってきました。その日を境に、管掌役員でありながら、高博氏はハワイ事業に全く口出しをしなくなりました。
ここにも親子の微妙な関係があったのでしょう。
ハワイのホテルで長い間働いてきたマネジャーたちに過去の駐在員のことや井川家の高雄氏、意高氏、高博氏のことを聞いてみると、彼らは実にフランクに教えてくれました。
そういったことを教えてくれる信頼関係を築いていたから知り得た言葉だったと思いますが、彼らの言葉は実によく大王製紙の駐在員や井川家の面々を観察していました。次のような話を聞かせてくれました。
ある駐在員のことはこんな風に教えてくれました。
「君らの提案を待っている。」と演説した現地トップの言葉を最初はみんな真に受けて、次から次に提案を持っていったけど、全部「ノー」で何一つ実行されることはなかったそうです。
その後誰も提案することはなくなり、彼のあだ名は「ミスターノー」となったという話を聞いて苦笑したのを覚えています。
また、意高氏と高博氏が一緒にホテルに泊まった時の印象から二人の違いを彼らはこんな風に教えてくれました。
「意高氏は、時差ボケがあったにも拘わらず、ホテルのウォークスルーに全部付き合ってくれて、とにかく現場を見る事を重視されていました。高博氏は、ずっと部屋で寝ておられて、現場には全く興味がない様子でした。」
確かに同じ兄弟でもその違いはあったかなと思います。
部下からの報告書だけで判断するのではなく、要所は必ず現場現物現実を自らの目で確認する。それは意高氏の特徴だったと思います。
一方、同じ兄弟でも書類だけで判断してしまっていたのが、高博氏だったかもしれません。実際に社長になることを宿命づけられたお兄さんとの違いは、現場臨場感への拘りの強さに現れていたのかもしれません。
井川家親子3名が去り、新生大王製紙となった2012年4月からの3か年、この中期事業計画が初めての中計でした。それから13年、もはや新生とは言えないほどの時間が経過しました。しかし、本当に新生と呼べる強固な企業体質は身に付いたのでしょうか、次回は、私の想いを綴っていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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