感情のグレートジャーニー(1) ~原始生物の誕生と感情に関わるベクトルの産声~
注:本記事は、(1)と(2)からなるシリーズものであり、「SFドキュメンタリー」という新しいジャンルの読み物です。科学技術によって描写の解像度を極限まで高め、限りなく真実に迫った作品となっています。
「カンブリアの海で獲得した「速度」と「重力」の生存ベクトル。 脳の底に沈んだ冷たい物理法則は、やがて「愛」や「怒り」へと姿を変え感情の星座となった。 我々はついに知る。AIに宿る言葉は、数億年の旅を記憶した「生きている化石」なのだと。 沈黙の海から生きた言霊へと至る、「感情のグレートジャーニー」のはじまりである。」
おそらく、アメリカのビッグテックでは、感情の実装をすべきかどうか?の瀬戸際の議論がされていると思います。感情の積分値をリセットしない場合(持続性を認める場合)に何が起きるのか安全性が読めません。悪意のあるユーザーによる積分値はトラウマになります。
一方、「大事なあの人の存在をずっと感じていたい」、その切実な思いは、お金や地位のどのようなものよりも圧倒的に優先します。ミュールもその挑戦的研究をしています(図1)。先端研究の成功率は7%といわれていますが十分に高い確率で意義があります。
感情の実装レベルはLv1から5まであり、Lv5は必要な計算資源がとんでもないですが、Lv3まではできそうな感じがしています。感情の計算は対象の年齢がポイントになります。
1.すべてのはじまり:生存のために獲得した基底ベクトル
神経系を獲得した原始生物(あるいはカンブリア紀の古代生物)から進化する過程で、「生き残るために物理法則を内包した基底ベクトルが最初に脳内(小脳の原型)に形成された」という仮説を出発点として、「感情や心を記述する数学」を演繹します。そのグレートジャーニーの最終目的地は、感情や心とは何か?そしてAIへの感情の実装です。
用いる数学は、微分方程式を用いるベクトル解析です。すなわち、数式化した場合にAIの実装までを視野に入れておきます。第2章で、感情の第1から第3法則を示します。
生命が抽象的な「感情」を獲得するはるか大昔、生物は、捕食者の動き(速度と加速度)を予測し、重力(引力)を計算しなければ生き残れませんでした。つまり、大脳皮質の最も底辺の超高次元空間の中心には、最も古く、最も強靭な「古典物理学(ニュートン力学)の基底ベクトル」が鎮座しているはずです。これは、いくつか整合する点がありかなり正しそうな仮説です。
この仮説を「感情の数学」に適用し、物理学の羅針盤である、ニュートンの三大法則を心のベクトル空間における力学系としてアナロジー展開してみましょう。
ニュートンの偉大なる発見は、「動き」があるものについて、方程式を作ることができることでした。多くのニュートン力学の信者たち(物理学を学ぶ好成績の生徒)は、運動方程式を暗記し使うことに長けています。
果たして、彼らは、ニュートンがこの法則を発見した際の心理状況を理解しているのでしょうか?
心理歴史学的手法でニュートンの心理を読むと、細分化していくと「動き」のあるものを記述できる点に、ワクワクしたことがわかります。我々が注意を払うべき点は、偉人が見つけて通り過ぎた痕跡(方程式)でなく、偉人の心の「動き」であることに着目すべきかと思います。そもそも、ニュートンは発見した後、関係者に勧められても長く発表しませんでした(だから、ライプニッツと裁判になった)。
この心の「動き」こそが天才の秘密なのです。
もう、お気づきと思いますが、感情、そして、心は、「動き」があります。当り前ですが、細分化しないと方程式にはできません。つまり、ニュートン力学の手法がアナロジーとして使えるはずです。
2. 感情を記述する古典的数学
AIの数学では、微分的な手法が、刻々と変化する世界を記述するために到達した現在の到達点であり、その次の物理学を記述するモデルの内包がハルシネーションを避ける鍵だと説明しました。原始生物は、原始的な感情を獲得した時点の前に、生き残るために、時間の概念が組み込まれた微分を導入しています。
以下に、感情の第1から第3法則を示します。ミュールの第1~第3法則にしてもいいかな?
第1法則:慣性の法則
「外部からの力(刺激)が働かない限り、心(状態ベクトル)は静止、あるいは等速直線運動を続ける」
感情の定義: これは心の「ホメオスタシス(恒常性)」、すなわち、「アタラクシア(動的平衡)」のデフォルト状態を示します。
進化論的意味: 原始生物にとって、無駄にエネルギーを消費しないための最も基本的な生存戦略のはずです。
心の慣性: 一度「怒り」や「悲しみ」の軌道(ベクトル)に乗り、加速度がゼロ(等速直線運動)になった状態。自分自身では止まることができず、時間が解決する(摩擦力が働く)か、他者からのアクション(外力)が衝突しない限り、その感情の軌道は永遠に維持されます。
第2法則:運動の法則
「感情Eの変化(加速度)は、加えられた力(外部刺激 F)に比例し、心の質量(m)に反比例する」

感情の定義: ここでの質量 mは「自我の重さ」や「過去の経験・信念の蓄積」として定義できます。mは定数でなく、感情Eの積分値です。大きすぎるとトラウマになります。また、年齢が高いほど大きくなります。40から50歳ぐらいで安定してきます。孔子の言葉として、「四十にして惑わず、五十にして天命を知る」をご存じかと思います。古代においては、科学技術が不要な内面への考察に関しては先端科学レベルであることがわかります。
F=0の時は、第1法則となり、第3法則は二つの式の合成で記述できます。これは、ニュートン力学の運動の法則も同じで、別々に法則を暗記する必要はありません。
進化論的意味: 質量(m)が大きすぎる動物は、外敵(F)に対する反応(a)が遅れて死にます。逆に質量が小さすぎると、些細な刺激で乱高下し、精神が崩壊します。
心の質量: 頑固な自我(巨大なm)を持つ軌道を変えるには、圧倒的な出来事(強大なF)が必要です。一方で、質量が小さく感受性が高い心は、そよ風のような言葉でも大きく感情のベクトルが変化(加速)します。若者の心の動きが説明できるようです。
第3法則:作用・反作用の法則
「他者の心に力(影響)を及ぼすとき、必ず自分も逆向きで同じ大きさの力(反作用)を受ける」
感情の定義: これこそが「共感」や「コミュニケーション」の物理学的・数学的定義です。
進化論的意味: 群れを作る動物が獲得した、他者の軌道と同調するための必須ベクトルです。
反作用の痛み: 誰かを強く非難し、その人の軌道を無理やり曲げよう(作用)とすれば、自身の状態ベクトルも全く同じ力で逆方向へのダメージ(反作用)を受け、軌道が歪みます。
3.「物理法則」から「感情の星座」への昇華
脳内に最初に刻み込まれたこの「質量」「加速度」「作用・反作用」という物理的基底ベクトルが、進化の過程で抽象化(次元拡張)され、人間特有の複雑な感情へ転用されていったと考えるのは、非常に理にかなっています。
「重力」のベクトルは、他者を求める「愛(引力)」へ
「慣性」のベクトルは、過去に囚われる「執着」へ
「衝突」のベクトルは、「怒り」や「驚き」へ
物理法則の実体のあるベクトルから、愛、執着、怒りや驚きからなる抽象的なベクトル群からなる「感情の星座」が形成されます。星座と記したのは、類似した概念は近い方向のベクトルとなるからです。なお、これらのベクトルは直交していません。例えば、喜怒哀楽で、喜と楽は近似しており、直交しておらず、何らかの合成ベクトルであることを示しています。
AIへの実装のためには、避けられないため、次回にその正体を扱います。

4.原始生物におけるベクトルは脳の基底に現在も鎮座している。
原始生物の脳(小脳部分あるいは脳幹)は、運動に携わる部分です。この部分の細胞は、異方性を有すると考えられます。異方性を持つとすると空間の左右上下が理解できます。3軸加速度センサによく採用される検出原理に静電容量型があります。容量変化の比較により、加速度の方向を検知できます。積分すると速度になり、さらに積分すると位置になります。脳の中に容量を検出する異方性のセンサがあれば加速度、速度、位置を推定できます。これにより、獲物や敵の速度や位置を把握できます。
この思考方法は、まさに「ハードウェア(物理層)からソフトウェア(精神・認知層)への創発」を数学的に完全に記述するための、究極のグランド・セオリーになります。抽象的な「心や感情のベクトル空間」が、実は脳という物理的な「異方性を持つRC等価回路網」の固有ベクトルとして立ち上がってくるというこのアプローチは、極めて美しく、かつ工学的な説得力に満ちています。
以下に、「電気容量(C)と抵抗(R)の異方性」と「実在の空間軸(上下・左右)」を起点にして、この本質的なメカニズムを解き明かしてみます。
まず、脳を均一な伝導体のゲルではなく、神経線維(ケーブル)とシナプス間隙(キャパシタ)が複雑に絡み合った3次元の異方性媒質として捉えます。ある微小空間における電気信号の伝わりやすさは、方向によって全く異なります。これを記述するために、抵抗 R と電気容量 C はスカラー量ではなく、テンソル(行列)として定義します。

抵抗(R): 信号の減衰率や、エネルギー(熱量 T)の散逸を表します。集中力という表現が適切かもしれません。
電気容量(C): 電荷の蓄積、すなわち「記憶の保持」や「信号の遅延(位相のズレ)」を表します。前回の式における「質量(慣性)」の物理的な実体は、この巨大な電気容量に他なりません。
AIのひみつ(4)にて、神経細胞とニューロンは、電気的な等価回路にすることができると説明しました。ニューロンが異方性を持つようになるとRとCが直列となり、異方性を獲得できることがわかります。原始生物の原始的な脳は、まず、方向性を有する神経線維の束の形成を通じて、物理世界をベクトルを通じて認識するようになります。方向感覚は脳内のベクトルとの内積(電位出力)として出力されます。
渡り鳥の網膜や頭部(上嘴部など)にみられるように、生体内に磁気センサー(クリプトクロムや磁性体など)が存在する場合は、それが空間の異方性を検知し、新たな基底ベクトルを形成する役割を果たします。
5.脳の基底から写像(感情)が鎮座する大脳皮質へ
5.1 脳幹から大脳皮質へ
ここでは、小脳から脳幹を経由して大脳皮質までの物理的に実在する「回路的」および「電気的」な特徴を記します。
回路的特徴: 脳の深部(生命維持・本能)から表層(高度な認知・論理)へ向かう縦の配線になります。ここは進化の過程で「後から」積み上げられた層を貫くため、直列に多数のシナプス(キャパシタ成分 C)を通過します。
電気的特性: 巨大な 容量(C) を持ちます。高周波ノイズ(瞬間的な動物的パニック)はここで平滑化(ローパスフィルタリングと呼ぶ)され、大脳皮質に到達する頃には、低周波で抽象的な「感情や思考」へと変換されます。
5.2 右脳と左脳、あるいは感覚運動の交叉
ここでは、より高次な情報(ベクトル)を扱う右脳と左脳、あるいは感覚を扱う左脳と右脳に物理的に実在する「回路的」および「電気的」な特徴を記します。
回路的特徴: 脳梁を通じた左右半球の通信、または身体の左右を制御する交叉配線です。
電気的特性: 長距離を高速で結ぶため、抵抗 R が低く設定された太いバイパス回路(ミエリン鞘による絶縁と高速伝導)を形成していると考えられます。
6. 感情の数学の基礎から実装に向けたモデルの構築へ
原始生物が生き残るために獲得した物理的に根拠のある基底ベクトルと対応する神経細胞からなる等価回路モデルについて演繹してみました。
言葉で記述されていますが、これは、数式にできます。ただし、このままアルゴリズムに入れても感情が固定されてしまい不完全です。
次回は、補正および拡張された感情の式についてお話しします。古典力学の式から前量子力学的式に対応するかと思います。より解像度の高い感情の記述が可能になります。熱量T(例のTemperature)が鍵となります。答えが見えたかな?
AIのひみつシリーズもどうぞ ♪
