井上農園×カンカク 凝縮されたうま味と思い【ドライシャインマスカット後編】
前編からの続きです。
高級なシャインマスカットを干しブドウに——。
そんな尖り気味の商品を愛媛新聞社のハーベストが1年以上かけて開発、販売開始した。
前編では愛媛県内子町でシャインマスカットをつくる主に井上農園の話をアップ。

おいしいシャインマスカットづくりで定評がある井上農園。
妥協しない技術者的ものづくりと、経営者としてブランディングを大切にし、内子町大瀬で7代目の農家という6次産業マインドを持つ男、井上嘉秀さん(54)。
食材を乾燥させるプロ、石丸弥蔵商店(松山市)のノウハウと設備で、ドライシャインマスカットは良いものができる確信が持てた。
それを世に出すのを機に、農園のロゴを新たにつくることになった。
愛媛県の補助金(6次産業化チャレンジ総合支援事業)を得て、高級感を新ロゴに込めたいと考えていた。

デザインを担当したのは#ヒキダシのメンバーカンカク(松山市)。
このnoteでも何度も登場しています。
今回クリエティブを主に担当したのは本間暁さん(28)。
同事務所代表の岡西幸平さん(50)のような、ときに大胆(ムチャともいう)な突飛さは少ないが、若いデザイナーだけに感性はしなやか。
「食」への興味も強い。
基本に忠実な一方、カワイイもカッコイイも表現できるという印象。

彼女はA~Eの5案を井上さんに提案した。
狙いは「ひとめで井上農園さんと分かるもの」。
残念ながらボツになった4案はこちら。




デザイン案のうち、二つにリスが登場している。
高級感あるリスと、かわいいリスに描き分けられてる。
リスとブドウの組み合わせは古来から吉祥文様(縁起が良い模様)として描かれることが多く、ともに多産のシンボル。
葡萄栗鼠という言葉まである。
日本や中国、沖縄などで絵画や陶器、和服の帯、木彫りなどのモチーフになっている。
知識がなければ出てこないアイデアだ。
※ただし井上農園にはリスはいない。
井上さんが選んだのはA案。
ブドウの井上農園、というのがひとめで分かり、創業年で伝統も表現できている。
愛媛・内子とローマ字で産地を明示し、インバウンドも意識。
ブドウをアールデコっぽく配置。周囲を囲う線はブドウっぽくもあるし、封蝋にも見える。
井上さんの求める高級感と、必要な要素が詰め込まれたバランス型のデザインだ。

本間さんは案が採用され、ホッとしたのもつかの間、「事件」が起きる。
井上さんがそれまで使っていた旧ロゴの字体(フォント)にしてほしい、と要望してきた。
それを本間さんは「元のデザインに戻してほしい」と受け止めてしまう。

「驚いたしショックでした」
数日落ち込んだという。
そしてこんなデザイン案を4つ示す。

縦のものを横にしだけ😀
本間さんの凹んだ気分が伝わるようで、今見るとつい笑ってしまう。
落款印が陰文(朱文印=赤文字)から陽文(白文印=白文字)に変わっているのがせめての抵抗だったのか。
井上さんが「違う違う!」と連絡してきて、変更はA案のフォントだけだったことが判明。
誤解が解けて本間さんが改めてつくったのが正式なロゴとなった。

A案のフォントを旧ロゴに近い隷書体に変え、周囲の線をシンプルに。
井上さんは字体で7代目という伝統を表現したかった、という。
結果的にちょっとレトロ(内子町大瀬っぽさ?)と高級感が同居するデザインに仕上がった。

◆
だが、ロゴデザインだけでカンカクの仕事は終わらない。
並行してドライシャインマスカットを入れる袋を選び、化粧箱もつくる。
パッケージ製作は岡西さんが主に担当した。

ドライシャインマスカットは当初、瓶で発売する案があった。
まず瓶用の箱を紙で自作した。
既製品の箱を選んで色などを決めて終わり、ではない。
商品の性質や、大量生産時・郵送のコスト、使いやすさまで考慮する。

ドライシャインマスカットは袋に入れて販売することが決まったら、それに合わせて浅型の箱をつくった。
輸送時の揺れで商品が暴れない大きさ、中の仕切りの高さなどを試行錯誤。
想定するブドウと同じ重さのものを入れて強度も調べた。

続いて箱の紙はどれを使うか、大量の見本から選んだ。
手触りも確かめられる本物の紙が数百種類、冊子風にまとめられている。
ここから井上さんと一緒に選んだ。

「黒は決まってたんですよ」と岡西さん。
ただ、黒にも種類があり、手触りも違う。
井上さんの求める高級感をまとった、しかしベタっとしてない黒が選ばれた。

袋の候補のひとつ。

ちょっと和っぽすぎるかな、と採用されず、現在の袋に落ち着いた。
ドライを担当する石丸弥蔵商店が使いやすい袋なのも重要ポイントだった。
岡西さんプロデュースの黒い化粧箱に、本間さんデザインのロゴが金色の箔押しプリントが載せられた。
最初からそこに配置されていたような自然さ。
ドライシャインマスカットという商品を手に取る人のワクワク感をワンランク上げる。

カンカクの仕事に井上さんは「いや~、感謝ですよ」。
高級感の打ち出しが、思ったように、いや思った以上にカタチになったことを喜んでいた。


岡西さんも「楽しい仕事でした」。
妥協のないプロたちが、高級なブドウをつくって、干して、デザインしたドライシャインマスカット。
それを想像しながら食べると、ただでさえ濃厚かつ爽やかなおいしさが、さらに増すかもしれない。
このnoteは#ヒキダシのプロたちと、関わった企業などを紹介していきます。
今回は「井上農園 × カンカク」でした。㋶
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