デザイン 優しさを裏打ちする強さ
楽しいデザイン、その源流
サクラもほぼ散った4月上旬。
松山市内のデザイン会社「カンカク」のオフィスに午後の光が差し込む。
クリエイティブディレクター岡西幸平さん(49)の優しげな口調が、並べられたオシャレでカワイイ小物たちと相まって柔らかな空間をつくる。
突然その空気が破られる。
「若いころはティッシュにマヨネーズかけて食べたことありますよ」

岡西さんのクリエイティブ、たとえば新聞広告、WEBサイト、パッケージ、Tシャツ…
一抹のユーモアがふりかけられた、楽しさにあふれた作品が多い。
ふだんは青春時代の苦労をおくびにも出さない。
納得させられた。
だからこの人のデザインは優しいんだ、と。
#ヒキダシはネット空間デザイン ?
カンカクや愛媛新聞社などが展開しているLINE上のサービス「#ヒキダシ」。
友だち登録すれば、誰でも質問でき、登録されたプロや達人が答えてくれる。
その名付け親であり、ひな形のアイデアを出したのも岡西さんだという。
「本当はもっともっと自由に答えてほしいんですけどね」
「#ミンナのヒキダシ」では答えやヒントがもらえておトク。
答える側の企業や団体が、いろいろな人のさまざまな悩みや意見に触れ、気付きやビジネスチャンスを得られる。
質問と回答のやり取りを眺めるでけでもいい。
#ミンナのヒキダシ以外のサービスでもワクワクできる仕組みがある 。
地域のお店が出してるクーポンでお得になれる。
「#カイシャのヒキダシ」では企業や行政の新しい取り組みをプレスリリースで知って少し知識が増える。
1日1回覗いてもらえる、そんなサービスを目指している。
効率やスピードが求められるネットの片隅に、ちょっと緩やかな空間をデザインした。
デザインされる側から、する側へ
自身の人生は緩やかではなかった。
五十崎(現内子町)での高校時代、家業が破たんし、松山への進学を諦めた。
やぶれかぶれで上京、風呂トイレ共同の三軒茶屋のアパート暮らし。
金がないからこそ、真逆の華やかな業界に挑戦してみた。
モデルのオーディションを受け続けた。
「恥ずかしいから言ってないんですけどね」と振り返る。
有名ファッション雑誌に載ったがスポットライトは一瞬。
書店のバイトでしのいだ。赤貧暮らしはそのころだ。
夢を追うかたわら、食うために囲まれていた本だったが、ある日、装丁が面白いと思えてきた。
何万冊もの本が、それぞれ違う衣装=意匠をまとっている。
モデルというデザインされる側を模索していたが、デザインする側に意識が動く。
東京の事務所に何軒も飛び込み、働かせてもらえるよう頼み込んだ。
90年代末、世はデジタル化が進み、デザイン業界も写植からDTP(デスクトップパブリッシング)に向かっていた。
人手が必要だった事務所に潜り込めた。
最初は手取り5万円。最初に買ったパソコンは型番もおぼろげな中古のマック。
デザインのプロを育てる大学がそろう東京。数々の芸大がある。
そこではデザインの概念も学び、アートの素養も身につけるだろう。
だが岡西さんのデザインへの道は先輩のやり方を盗み見てオペレーション(作業)を覚える、地味で小さな一歩から始まった。
オペレーション、基本の大切さ
「だから今もオペレーションはすごく大事にしてます」
確かに岡西さんに仕事を依頼すると、そのスピード感に驚く。
かつ、届くデータの中身も整理されていて美しい。
ともすれば現代のコンピューティングは「結果が出ればいい」という世界。
プログラムにどれだけ無駄があってもパワフルなコンピューターでぶんぶん処理する。
デザインされた紙面用データも同じ。画面で見える姿が似ていても内部構造には良し悪しや醜美がある。
いざ修正、訂正が起きると悪いデータは手間と時間が掛かる。
下手な新聞広告用データに、同僚が舌打ちしているのを何度も見た。
岡西さんのデータにはごまかしがなく正確さと誠実さが伝わる。
オペレーターからデザイナーへ
一歩ずつ、一段階ずつ岡西さんはデザイナーへの道を歩んだ。
だからデザインとは? と問われた時、ちょっと考え込んだ後、こう答えた。「すべてのものは既にデザインされてるんです。モノでも、究極、生き物でも」
そこに今受け入れられやすいカタチや、今良いとされている色の組み合わせを提案する。
それが工業デザインですかね、と照れくさそうに話す。
素朴な答えだが、地に足を付けた歩みに裏打ちされてこその重みがある。
20代中盤で愛媛に戻り、主に制作を行う会社に入る。
バブルはとっくに弾けていたが新聞広告はまだまだ数が多かった。
同僚と徹夜したこともあった。
新聞広告の魅力にハマり、オペレーションだけでなく、デザインやディレクションをやりたくなった。
県内広告会社を経て15年前に独立した。
そこからの快進撃は周知の通り。
愛媛で広告にたずさわる人なら、カンカクの名前は知ってるはず。
愛媛新聞の紙面を中心に県内企業、自治体の広告を請け負い、数々の賞を獲った。
サイト(https://kankaku-ad.com/product/)で作品を眺めれば、独特の世界観が楽しめる。


道後温泉をはじめ歴史あることがらを扱うことが多いためか、イラストやフォントはレトロや手書き調のものが多い。
「無くなったり、評価されてないものを拾い上げて今に提案するのも楽しいんです」
岡西さんの柔らかい視線の先は、現実空間やネットだけでない。
時空すら超え、顧みられなくなりそうなものにも向けられている。
だから言葉に力みがない。
「デザインでみんなが少しだけでも豊かになれば、って思うんですよ」
このノートでは#ヒキダシに関わる人たちを紹介していきます。
今回は第3回でした。㋶
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