井上農園×カンカク 凝縮されたうま味と思い【ドライシャインマスカット前編】
このnoteを結論から書けば、このロゴが…

こうなったって話。

上は以前から使っていたシール、下は#ヒキダシのメンバー、デザイン事務所カンカクがつくったロゴで11月から使い始めたもの。
デビュー戦はドライシャインマスカット。
高級なシャインマスカットを干しブドウにしちゃった、という商品。
愛媛新聞社のハーベストが1年以上かけて開発、販売開始した。

化粧箱にも袋にも入っているロゴ。
レトロ風からちょっとオシャレになった——っていうのが一見した感想。
だがこのデザイン、プロたちの思いや葛藤が込められてる。
◆
まずシャインマスカットの話から。
松山市から内子町に向かうのにライター㋶がお気に入りのルートがある。
砥部町~旧広田(現砥部町)~旧小田町(現内子町)を通る国道379号。
11月中旬、山は少しだけ紅葉に染まり昼間でも少し肌寒い。

内子町大瀬。
文豪・大江健三郎のふるさと。
川のそばにレトロな町並み、そして小学校。
THE 日本の山里。
平日だったので観光客の姿は見えない。

中心エリアの「成留屋の町並み」からさらに山へ。
鬱蒼と茂った木々の間を抜けていく。
寒いし、少し暗い。
突然視界が開ける。
下大久保団地。
陣ヶ森(標高565メートル)の山腹、山に囲まれた盆地のような場所に農地が広がっている。
昭和50年代に国のパイロット事業で切り開いた。
ブドウ畑は房も見えず、カンキツ畑が少し賑やかなぐらい。
まもなく冬。それでも来た道より明るいし温かい。

この一角でおいしいと評判のシャインマスカットをつくっているのが井上農園。
出迎えたくれたのは井上嘉秀さん(54)。
7代続く農家でブドウ農家としては2代目。
園地は4カ所で計1.4ヘクタール。井上さんの代でおよそ倍に増やした。

高級ブドウの印象が強いシャインマスカットは、甘くて皮ごと食べられ、種がないのが特長。独特の芳香がクセになる。
長野県や山梨県、岡山県などが産地として知られている。
愛媛県では内子町が大産地だ。

2020年の農林業センサスによると、愛媛県内のぶどう栽培経営体は282。
うち内子町はトップの77。うち大瀬は30経営体。
栽培面積は町内47.26ヘクタールで県内(102.35ヘクタール)トップ。内子町内では大瀬が17ヘクタールで一番広い。
内子町の農村支援センター、山田国昭所長(50)に内子とブドウの概要を聞いた。
「内子ではミカン以外全部つくってます」
パイロット事業などで農地が拓かれた当初は、葉たばこと柿を主に栽培していた。観光農園、巨峰ブームなどを経て徐々にブドウ農家が増え、現在はシャインマスカットが多い。キウイフルーツも盛んという。

ブドウ農家は大瀬・内子・五十崎の各地区に多く、97年にオープンした道の駅内子フレッシュパークからりも大きな販路になっているという。
「ブドウは捨てるところがないんですよ」と山田所長。
房で売ることも、粒をパックで売ることもできる。
ブドウは手が掛かり、体力的にも大変。中小規模の農家の後継者など課題もある。だが県内では知名度も抜群。稼げている農家もあり、産地としては順調、とのこと。
◆
粒パックの話題を井上さんに向けたところ、控えめな口調が明るくなった。
「別の種類のブドウをパックに入れて、カラフルにして売ったのは、内子ではウチが早かったんですよ」
からりの店頭では、少しでもお客さんの目に触れるようにと自立袋(スタンドパック)も導入した。
さらに売り場で独自にポップを飾り、房ごとに買ってくれたことに感謝を伝えるカードを添えている。
個性を打ち出す努力はずっと続けてきた。
その代わり価格は守った。値下げすれば売れる、と周囲に言われても、売れ残ることがあっても我慢を続けた時期もあった。
今ではからりの客や、県外の産地を知るバイヤーからも「井上農園は違う」と言われる。
みずみずしく、口の中でパンっと甘みと香りが弾ける。
自己主張少なめの井上さんも「味はね。うん」。
静かに自信を覗かせた。

どこで違いが出るのか?
「栽培方法は・・・普通ですよ」
シャインマスカットはどうやって栽培されるのか、詳しく教えてもらった。
春は芽かき。必要な枝以外に伸びそうな芽を取り除く作業。
4月下旬からは休む間もないそう。
棚付けでグングン伸びる枝の方向を決めてやる。
花切りで先端数センチ以外は落とす。ジベレリン処理も2回。
5~6月は超多忙。パートさん3~4人に来てもらう。
摘房(数万の房を約3分の2に減らす)し、数週間で摘粒(粒を調整し房の形を整える)する。時間との戦い。
↑ このあたりの話、辛抱強く教えていただきました。
房をすべて人の手で整えていることすら知らなかった💦
限られた時間で数万房すべて手作業とは…
↓ こういうキレイな房のカタチは人が整えてるんですね。

この間、ツル切りや誘引(ツルの方向を決める)なども同時並行。収穫しやすく整え栄養をブドウに届けるために大事な作業。
袋掛けが一番大変な作業、と思いがちだが「ようやく一区切り」で気分的には楽しい時期だそう。
他品種は8月から、シャインマスカットは9月から収穫。
いわば晴れ舞台。
「体力的には疲れるけど、良いのができれば気分はいいよね」

収穫を終えた11月からはオフシーズンだが春までは土作り。
井上農園の土は歩けば分かるほどフカフカ。
堆肥をふんだんに入れているという。
すべての作業は基本通り。
だが、ここにおいしさのヒミツがあった。

記念撮影的に収穫の様子を再現
井上さんは大瀬出身。静岡の大学で建設工学を学び、松山市の建設会社に就職。約20年前に父の仕事を継いだ。
県の営農指導を受けて技術を学んだ。
今も主な住居は家族の居る松山市。
繁忙期には午前4時台に家を出て「通勤」している。
「そんなに遠くないよ」と笑う。
1~3次産業が揃う松山市に住み、学生時代~前職は建設系。
下草刈りや農薬散布マシンを操る井上さんは楽しそう。

商業・技術者的な意識を持ち、基本通りの栽培法を着実に実行する。
「やれることは全部やる」とさらり。
そして一緒に仕事する人への気遣いを何度も口にした。
「みんながやってくれますから」
「パートさんたちのおかげですよ」
誰に何をどれだけやってもらうか、振り分けも重要なポイントだ。
商品の最終形や価格を見据え「経営」する。
そしてキッチリと作業する。
それが井上さん流。
ハーベスト参加などで知名度が上がれば、今度は「食べてくれた人をがっかりさせたくない」とさらに高いハードルを自分に課す。
「農家っぽくない、と自分でも思いますよ」
人事を尽くして天命を待つ?
「天命もどうにかしたいですよねぇ」と穏やかな表情ながら目は本気。
例えば霜。
春先には気象情報に神経を尖らせる。
陽当たりが良い場所だけに、夜明けとともに直射日光にさらされる。
霜が急速に解凍されると芽がやられるという。
未明からドラム缶を切った簡易ストーブをハウス内に並べ、火をくべて温度を調整する。
年数回とはいえ「やれることは全部」が想像を超えてくる。
霜対策にはバイオスティミュラント(耐ストレス性を高める新資材)も数年前から導入している。

◆
レトロな町並みの奥山で、1次 × 2次 × 3次産業のマインドでつくられるシャインマスカット。
おいしいわけだ。
それをドライにしてはどうか?
ハーベストの発案に井上さんは即決で乗った。
町役場の山田さんも内子のシャインマスカットとしては初の6次産業的商品として興味津々だった。
プロジェクトの準備は1年以上前から始まった。
海産物の干物づくりで定評がある石丸弥蔵商店(松山市)のノウハウと設備で、みずみずしい粒をドライに加工した。
試行錯誤してできたドライシャインマスカットは1袋入りと、大粒の化粧箱入りの2種類で販売中。
甘さはもちろん、後から広がる独特のマスカット香が上品で美味。
うま味がギュッと詰まっている。
井上さんが「素材は生食用と遜色ないものを使ってます」というのも納得。

これを機にロゴも作り、デザインされた商品にしよう——。
安い商品ではないし、手間暇も掛かっている。
何より井上農園のブランド力を上げたい。
カンカクがデザインを手掛けることになり、2025年に入って本格的なパッケージの準備が始まった。キーワードは「高級感」。

前編は以上です。続きます。
このnoteは#ヒキダシのプロたちと、関わった企業などを紹介していきます。
今回は「井上農園 × カンカク」でした。㋶
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