水彩詩集 私の本棚は誰かの孤独と繋がって…❸サガン/悲しみよこんにちは
私の本棚は、誰かの孤独と繋がっている。
その書籍は、誰かに読まれる事を待っているのか?
【※この詩と絵は『悲しみよこんにちは』の主人公・セシルのイメージからインスパイアして、その世界観を形にしたものです。】
『悲しみよこんにちは』
まぶしい南仏の太陽、
乾いたあたたかい砂。
残酷で、狂おしい青い感情。
揺れ動くセシルは脆(もろ)い。
けだるい夏、私の不協和音、
パパと私、そして地中海のきらめき、
それだけで私たちの完璧な城は完成していた。
何も考えず、ただ肌を焼き、
刹那の快楽に身をまかせ、笑い合う。
そんな退屈で愛しい、パパと私の夏だけど、
あの人がやってきたアンヌ。
理性的で、洗練されていて、完璧な大人。
彼女の足音が響くたび、
パパと私の自由な城の床が、きしんで崩れていく。
パパが彼女を見る目は、
私に向けるのとは全然違う、
熱を帯びた、盲目な男の瞳。
それがたまらなく不快で、恐ろしい。
私のパパを奪わないで。
私たちの、あの甘やかで、
だらしない世界を壊さないで。
「ねえ、シリル」
私はあなたの胸に飛び込む。
あなたの差し出す優しさは、
私を焦がす太陽のよう。
だけどごめんなさい、シリル。
あなたを抱きしめながら、
私の心は別の場所にあるの。
あなたの背中に回した手のひらで、
私はパパを奪うあの人への、
冷たい復讐の計画を練っている。
これは恋? それとも、ただの道具?
あなたの無垢な愛を利用して、
私は恐ろしい罠を仕掛けていく。
心の奥で、小さな良心が悲鳴をあげているのに、
引き返せない。
あの完璧なアンヌの仮面を、
引き剥がしてやりたい。
…そして、すべては私の思い通りになった。
パパは私の元へ戻り、あの人は、もういない。
激しいブレーキの音と、
悲劇の砂嵐の向こうへ消えてしまった。
ほら、望み通りになったでしょう?
パパと私は、これでまた元の、
二人きりの退屈な城に戻った。
シリル、あなたとの淡い遊びも、もう終わり。
だけど、何かが決定的に変わってしまった。
夜、ベッドの中で冷たい風が吹く。
胸の奥をじりじりと焼く、
この得体の知れない感情は、
悔恨でもなく、ただの寂しさでもない。
大人になってしまった私が、
初めて知る、暗い温もり。
……悲しみよ、こんにちは。
私はこれから一生、あなたと生きていく。
※一見、幸福に満ちたその景色の中で揺れ動くセシルの脆く、残酷で、狂おしい青い感情。フランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』の世界観を、セシルの視点から紡いだ詩をお届けします。
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