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水彩詩集 私の本棚は誰かの孤独と繋がっている❷1Q84のヨットハーバー

私の本棚は、誰かの孤独と繋がっている。
その書物は、誰かに読まれることを待っているのか?

この詩と絵は、村上春樹の『1Q84』の主人公・青豆のイメージからインスパイアして、その世界観を形にしたものです。】


「1Q84のヨットハーバー」


 そこは海風を感じる、穏やかなところ。
 
男は自身の小さなヨットを、
ハーバーに係留していた。
 
男は語る。
海の上で一人で身体に風を感じるのが、
如何に素敵なことかと。
 
青豆は西宮のヨットハーバーにいた。
 
そこは、関西から出張して来たビジネスマンと、
一夜を過ごした場所。
 
そこでは「普通の日常」と、
「暗殺者としての非日常」が、
 
言いようのない、
青豆の抱える深い孤独を際立たせる。


「青に漕ぎ出すヨットハーバー」


 白いマストが 竹林のように並ぶハーバー、
タイドグラフ(潮見表)が刻む時間は、
私の焦りを知る由もない。
 
18歳。大人と子供の境界線で、
学校の進路希望調査書は まだ真っ白なまま。
 
「あなたのためを思って」
と、言う部屋の空気は重く、
教室のざわめきは 
私の行く手を塞ぐ霧のようで、
逃げるように辿り着いたヨットハーバー。
 
波の音だけが ただ規則正しく、
足元を濡らしては引いていく。
 
錆びかけたベンチで、
リュックから取り出したのは、
ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』。
 
それは、息苦しさに押しつぶされたハンス青年の物語。
 
夕暮れの海が金色に染まるなか、
頁をめくる私の心に、確かな風が吹き抜けた。
 
「私たちは、自分の内なる声に
従わなければならない」
他人の引いた航路(ルート)を
なぞる必要はない。
 
座礁を恐れて 
港に縛り付けられているくらいなら、
破れた帆でもいい、自分で舵を握るんだと。
 
本を閉じると 潮風が私の髪を揺らし、
夕闇の向こうに、
灯台の光がひとつ、ぽつりと灯る。
 
もう、迷わない、私は大きく息を吸い込み、
自分の海へと、最初の一歩を踏み出す。


『朝のヨット』


 湿っぽい、早朝の潮風の中を、
何艘かのヨットが走ってゆく。
 
朝日は東の空を染めているが、
海上はまだ、暗さを秘めている。
 
鴎(かもめ)が一羽、ヨットを追いかける。
ヨットの方向と速度を一定に保ちながら。
 
そんな光景を少年は見ていた。
 
「ねえ、つれて行って、私も」と少女。
少年は「海は、二人でたのしみに出かける場所じゃない。」
 
少年はそして海に消えた。


※『朝のヨット』山川方夫(1930~1965)は、「三田文学」を編集し、短編・ショートショートの名手と言われました。この詩は、その作品をオマージュしたもので、作品は絶品です。


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