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恋愛小説「今度、虹を見たら」第六話〜季節外れの雪、小さなメモ~


🌱初めて読んで下さる方へ🌱

これは私、「さら。」の実体験をもとにした
長編恋愛小説です。
まだ読んでいないエピソードがある方は
ぜひこちらから辿ってみてくださいね。



【第六話】

三月。
短大への入学準備や引越しのあわただしさの中
高校の卒業式を迎えた。

シンゴの姿はそこにはなかった。

「シンゴさん、今日入試で卒業式に出られないんだって。」

クラスの誰かが言っていた。

どうやらうちの高校の卒業式は、
シンゴが受験する大学の入試日程と
重なっているらしい。

ずっと借りたままになっていた銀色夏生の本。
最後だから返そうと思っていたのに……


気が付くと、いつもそばにいてくれた
まっすぐで優しいシンゴ。

その視線が、もしかしたら
わたしに向けられているかもしれないと、
一瞬でも思ってしまった自分が
ちょっと恥ずかしいけど。

わたしの平凡な高校生活に
ささやかな「温度」与えてくれたシンゴに、
「ありがとう」と言う代わりに、
心の中で入試での健闘を祈った。



こうしてひとつのシーンが終わりを告げ、
それぞれが未来に向かって歩きだす中
わたしの心はまだ、同じ場所に留まっていた。

地元を離れる少し前のある日、
母から
回覧板をレイの家に届けに行くように言われた。

「はーい。」

母に気づかれないように、
平静を装って返事をしたけれど、
その瞬間心臓が飛び跳ねそうになった。


レイに会えるかもしれない。
もしかしたら、
これが最後のチャンスかもしれない。

わたしは急いで自分の部屋に行き、
四月から住む引っ越し先の電話番号を
メモ用紙に書き移した。

LINEはおろか、携帯電話すらない時代。
この小さなメモが、
今後もレイとつながっていられるかどうかの
鍵を握っている。

わたしは書き写した番号を何度も確認し、
小さく折りたたんでポケットに入れた。

踏切の前を通り過ぎると、胸がぎゅっとなる。

お互い想いはあるのに
友達のままでいるという「今」を選んだ、
あの冬の日の出来事を思い出したからだ。


レイの家のチャイムを鳴らすと、
彼のおばあちゃんが出て来た。

「おや、サラちゃんかい。大きくなったねえ。」

「こんにちは。回覧板を持ってきました。
……あの、レイくんいますか?」

緊張のあまり、声が少し上ずってしまう。

「レイかい?ちょっと待っててね。今呼ぶから。」

おばあちゃんが
部屋の奥に入っていった数分間が、
何時間にも感じられた。

胸の鼓動が信じられないくらいうるさい。

しばらくして、レイが姿を現した。
ダボっとした黒いトレーナーに、
ジーンズを履いている。

あまり見ることのなかった私服姿のレイに、
思わずドキドキしてしまう。

「おー、久しぶり。」

いつもの屈託のないレイの笑顔。
その笑顔を見て、
さっきまでの緊張がうそのように
ほどけていくのがわかった。

「サラさん、引っ越しいつ?
オレ、4月に入ってからなんだー。」

優しい声でレイが言う。

「わたしは来週なの。」

わたしがそう答えると、
レイは一瞬だけ困ったような顔をして
視線を落とす。


「……そっか。」


呟くような、少し寂しげな声。

「会えなくなるな。」

「そうだね……」

これ以上言葉を交わしたら、
涙があふれてしまいそうだ。

わたしは小さく深呼吸をして、
ポケットの中に入っていた、
小さく折りたたんだメモをそっと取り出し、
レイに差し出した。


「あの……。
これ、引越し先のアパートの電話番号。」

レイはそのメモをゆっくりと、
とても大事そうに受け取った。

その時ほんの少し、
レイの指先がわたしの手に触れた。

はじめて感じた、レイの体温。

「サンキュー。
オレまだあっちの部屋に電話引いてなくてさ。
番号決まったら連絡するよ。」

レイは受け取ったメモを見つめながら、
優しい笑顔でそう言った。


「元気で。」

「うん。レイもね。」

交わした言葉はそれだけだった。

玄関を出ると、
もうすぐ四月だというのに
空からは白い雪がひらひらと舞い降りていた。

凍えるような寒さの中、足早に家へと向かう。

レイから、連絡は来るのだろうか。

「電話は顔が見えないからニガテ」
と言っていたレイ。

今まで電話で話したことはほとんどなかった。

この先、レイから何の連絡も無ければ、
わたしたちを繋ぐものは
完全になくなってしまう。

だってわたしたちには、
未来の保証なんて何一つないのだから。

ただ一緒に歩いていただけの、
付き合ってもいない二人。

それなのにわたしの心は、
さっき触れた、 
レイの指先のあたたかさを抱きしめたまま
どこにも動けずにいる。


季節はずれの雪は、静かに降り続いていた。

つづく。


🌈次のエピソードはこちら
恋愛小説「今度、虹を見たら」第七話
〜それぞれの出発。新しい街へ〜

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