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恋愛小説「今度、虹を見たら」第四話〜銀色夏生と消えない残像〜


🌱初めて読んで下さる方へ🌱

これは私、「さら。」の実体験をもとにした
長編恋愛小説です。
まだ読んでいないエピソードがある方は
ぜひこちらから辿ってみてくださいね。


【第四話】

レイとの関係は何ひとつ変わらないまま、
わたしたちは高三になった。

夏が終わると
部活を引退するクラスメイトが徐々に増え、
図書館は三年生でいつもいっぱいだった。

わたしは
苦手な数学の勉強にすっかり飽きてしまい、
ノートを広げたまま文庫本を読んでいた。
現実逃避だ。

「あ、銀色夏生。」

そう言われて顔を上げると、
そばにシンゴが立っていた。

シンゴは一年生からずっと同じクラスの男子だ。バレー部だった彼は背が高く、
座っているわたしは
彼を見上げるような状態になった。

「ナツヲさんいいよね。俺も何冊か持ってる。『つれづれノート』はもう読んだ?」

体育会系の彼が
「ナツヲさんファン」だなんて意外だった。

「あ、それ確か詩集じゃなくてエッセイだよね?まだ読んでないな。
シンゴさんもう読んだの?」

わたしが言うと

「うん。今度持ってくるよ。
けっこうおもしろかったよ。」

とシンゴは言った。

そしてわたしの数学のノートを覗き込んで

「あー、微分積分!
このテの問題、やっかいだよな。」と言った。

「うん。
わたしこの内容の授業の時風邪で休んじゃって。」

とわたしが言うと彼は隣にしゃがみ、
わたしに解き方を教え始めた。

突然のことでちょっとびっくりしたけど、

「親切な人だな」

そう思いながら聞いていた。



「ありがとう。
なんか、わかったよーな気がする。」

そうわたしが言うと、シンゴは

「その様子だとあんまわかってないだろ?」

と笑った。

正解!とわたしは心の中で叫んでいた。

今でも男子と話すと
陰キャ時代の自分が顔を出して、
必要以上に緊張してしまう。

そのせいなのか、
それともわたしの理解力がないからなのか、
せっかく教えてもらったというのに
その問題の解き方は
さっぱり頭に入っていなかった。

「俺、微分積分は得意だから、
いつでも聞いて。じゃあ。」

と言ってシンゴは
自分が座っていた席に戻っていった。



次の日の朝、教室に着くと
シンゴが話しかけてきた。

「おはよ。
これ、昨日言ってた『つれづれノート』。
続きも持ってるから、読みたかったら言って。
あとこれ。休んだ時の分のノート。
微分積分のところ。」

そう言って、本と一緒にノートを渡してくれた。

わたしはシンゴの親切さに驚いて

「え?いいの?ノート借りちゃって大丈夫?
シンゴさん授業で使うんじゃない?」

と言うと

「ちょうど新しいノートに変えたところだから
大丈夫だよ。
返すのはいつでもいいから、ゆっくり使って。
あと、『シンゴ』でいいよ。
同級生なんだから。」

と言ってシンゴが笑った。

差し出されたノートの表紙には、
彼らしく大きめで伸びやかな筆記体で
「Shingo」と書かれてある。

中学で生徒会長だったという面倒見のよい彼は、クラスメイトから「さん付け」で呼ばれていた。

急に呼び捨てでいいよと言われても、
なんだか面食らってしまう。

とりあえずわたしはそれらを受け取り、
ありがたく使わせてもらうことにした。

それ以来、時々シンゴと
本やCDの貸し借りをするようになり、
気が付けばよく話すようになっていた。

シンゴと話す時間は楽しくて、
自然体でいられた。

けれど、
彼のお気に入りのCDを借りるたびに、
頭の片隅で

「レイもこの曲、好きかな」

と考えてしまう自分もいるのだった。

たまに友達に

「サラとシンゴさんって仲いいよね?」
「付き合っちゃえば?」

なんて言われて、
ちょっとドキッとすることもあったけど、

「それはないなー。」

とはぐらかしていた。

「だって、わたしにはレイがいるから。」

心の中でつぶやく。
でもそのあとには必ず

「付き合ってるわけじゃないけどね。」

という定型文が入るのが、なんだかむなしい。


秋から冬になる頃、
わたしはみんなより一足早く
推薦で短大に進学が決まった。

職員室で合格の結果を聞いて廊下に出ると、
なぜかシンゴが待っていた。

「どうだった?」

とシンゴに聞かれ、
わたしが小さくOKサインをすると

「おめでとう!
よし、めでたいから売店でなんか奢る!」

と言って、
わたしの手を掴んで売店に向かって歩き始めた。

「え、ちょ、ちょっと……」

まだレイとも
手をつないだことさえなかった私は、
どうしたらいいかわからず、
シンゴに手を引かれるまま歩き出す。

でも、シンゴがこんな風に喜んでくれるのを
心のどこかで嬉しく思っているわたしもいる。

売店でシンゴは
わたしの好きなカスタードクリームのワッフルを買ってくれた。

シンゴからの、合格祝い。


「シンゴさんみたいな人を
好きになれたらよかったのに。」


ワッフルを食べながら、
一瞬そんなことを思ってしまった自分に
戸惑っていると、

「ほら、ここんとこ。」

シンゴが口元を指さして笑う。

「クリーム、ついてるぞ。」

わたしは我に返って、
ポケットの中のハンカチを探す。

その時、わたしの指に何かが触れた。


レイの第三ボタンだった。


指先に、ちくりと痛みが走ったような気がした。


シンゴのまっすぐな優しさは、
わたしの心をゆっくりと溶かしてくれる。

でも、その優しさを感じるたびに
心の奥にある
レイの不器用な笑顔が蘇って来る。

レイには、しばらく会っていない。


つづく。


🌈次のエピソードはこちら
恋愛小説「今度、虹を見たら」第五話
〜二月の夕暮れ、冷たくなったミルクティー〜

🌈「今度、虹を見たら」全話まとめ

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