【サイドストーリー】「今度、虹を見たら」~シンゴのひとりごと(前編)~
🌿このお話は、連載中の長編恋愛小説
「今度、虹を見たら」の第四話で登場する、
サラの高校の同級生「シンゴ」視点のサイドストーリーです。まだ読んでいない方は、ぜひ第四話を読んでからここに戻って来てくださいね!
🌈第四話「銀色夏生と消えない残像」
🌱初めての方は、
良かったらこちらから順番にどうぞ♪↓
シンゴのひとりごと(前編)〜
彼女はいつも、
ある女性作家の文庫本を持っていた。
白い表紙で、きれいな写真と短い言葉が
ぽつぽつと並んでいる本。
絵にかいたような体育会系で、
ガサツな俺には、およそ無縁のジャンルだ。
俺が読むものといったら、
せいぜい宗田理か赤川次郎。
そんな俺が、柄にもなく
詩集やエッセイに興味を持つようになったのは、
間違いなく彼女がきっかけだった。
特に目立つわけではないけれど、
すごく大人しいわけでもない。
常に誰かと一緒にいるわけではないのに、
なんとなくいつも周りに人がいる。
でも、一人でいる時も所在なさげではなく、
凛としているのに穏やかな空気をまとっている。
一年の時から同じクラスだった彼女を、
何となく目で追うようになったのは、
二年の冬だった。
昼休み、学校の売店は戦場になる。
まるで怒号のような声が飛び交う、
パンやおにぎりの激しい争奪戦。
俺は図体がデカいだけあって、
持ってきている弁当だけでは全く足りず、
ほぼ毎日、この争奪戦に参戦する羽目になる。
その日も、二時限目の終わりに
早々と弁当を平らげてしまった俺は、
廊下の人混みをかき分けて、
混雑する売店に向かった。
俺は見かけによらず
無類の甘いもの好きである。
特に、木曜日限定の「チョコワッフル」だけは
絶対にはずせない。
あのチョコクリームをたっぷり挟んだワッフルは、俺の元気の源である。
そしてそのことは、どういう訳か
既にほとんどのクラスメイトが知っていた。
俺が廊下を急いでいると、
クラスの女子がすれ違いざまに
「シンゴさん、急いで!
シンゴさんの好きなチョコワッフル、
残り一個だったよ!」
と言った。
「え、マジで?」
俺は足を速めた。
頼む!売り切れないでくれ!
俺は今日、どうしても
チョコワッフルが食べたいんだ!
売店にたどり着き、いつもの棚を見ると
チョコワッフルの列はすでに空っぽだった。
「シンゴ、残念ー!売り切れでしたー!」
近くにいた友達が、からかうように笑う。
マジかよ……。
食べたかったのに。
と思いつつ、
「おのれ!
俺様のチョコワッフルを奪いやがったのは、
どこのどいつだ!」
とふざけた調子で、俺が言っていると、
「これ、良かったら」
と近くにいた女子が、
自分の持っていたチョコワッフルを、
俺に差し出した。
「わたし、カスタードの方と迷ってたんだ」
彼女は笑顔でそう言うと、
棚にいくつか残っている
カスタードクリームのワッフルを指さした。
「サラってば優しいー!
ちょっとシンゴさん、サラに感謝しなさいよ」
彼女と一緒にいた女子が、俺を小突く。
「あ、ありがとう」
なんだかどぎまぎしながらそう言うと、
彼女は小さく首を横に振って
「はい」
とその白くてきれいな手で、
俺の手のひらにチョコワッフルをポンと乗せた。
その時、一瞬だけ触れた指先のあたたかさが、
妙にくっきりと、俺の心に残ってしまった。
それからだ。
彼女のことが気になりだしたのは。
言っておくが、
彼女が俺の好きなワッフルを譲ってくれたから
と言うわけではない。
彼女の笑顔と、
カスタードクリームのワッフルが重なって
俺の心に
優しい魔法をかけたからーー
つづく。
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