恋愛小説「今度、虹を見たら」~プロローグ〜初めて名前を呼ばれた日
〜あらすじ〜
中学に入学したばかりのサラは、
地味で人見知りな、いわゆる「陰キャ」。
恋愛と無縁の生活を送っていたサラは、
ある日同じ部活のレイに声をかけられ、
二人は一緒に帰るようになる。
ある出来事がきっかけで
レイへの想いをはっきりと自覚したサラは、
レイに想いを告げる。
雨上がりの虹
卒業式でレイがそっと渡した
制服のボタン。
淡い想い出で終わるはずだったその恋は、
たとえすれ違い離れ離れになっても、
忘れた頃に二人をそっと引き合わせる。
距離、沈黙、別々の人生。
そして時を超えた再会ーー。
実話をもとに紡ぐ、
「魂の片割れ(ツインレイ)」との
気の遠くなるほど長く静かな物語。
たくさんの葛藤を乗り越え、
サラが本当の自分と向き合った先に見つけた
「答え」とはーー。
~プロローグ~
「あぶないから、帰り送って行けってさ。」
夕方から夜にかけて空がどんどん暗くなる頃。
部活帰りに一人で歩いていたわたしは、
突然後ろから声をかけられ
びっくりして振り返った。
そこには同じ部活のレイがいた。
まだLINEもスマホも、
携帯電話すらもない時代。
中学生になったばかりのわたしには、
周りの友達の
「彼氏ができた」とか
「付き合ってる」なんて話は程遠くて、
遠い世界のお話のように思っていた。
地味で真面目でガリ勉。
人見知りで男子がニガテ。
いわゆる「陰キャ」ってやつ。
きっとわたしの周りの男子は
自分に興味なんてないだろう。
そう思っていた。
自己肯定感低め安定。それが当時のわたし。
誰かを好きになったことがないわけではない。
今だって同じ部活に憧れの先輩もいる。
でも誰かと付き合うなんて
今の自分には考えられなくて、
その先輩のことだって
密かに思っているだけで十分だった。
恋愛とか結婚なんて、
はたして自分の未来に存在するんだろうか?
とさえ思っていた。
「送って行けって。」
自転車でグネグネ蛇行運転しながら、
もう一度レイが言った。
「送るってわたしのこと?
そんなこと、誰にいわれたのよ?」
突然のことで
どうしたらいいかわからないわたしは、
ついぶっきらぼうに聞いてしまった。
「別に誰だっていいじゃん。」
レイはそう言った。
「もうすぐ着くし、大丈夫よ。」
なんだか恥ずかしくなってそう言ったのだが、
レイは
「オレんちもこっちだから。」
と言って自転車を降りた。
レイの家とわたしの家は近所だ。
考えてみたら幼稚園も小学校も同じだった。
でも一度も同じクラスになったことはないし、
話したこともなかった。
存在は知っていたけど、
「危ないことをしてよく先生に怒られてた男の子」くらいの認識だった。
「サラさんはさあ、
なんで化学部になんか入ったの?」
ふいに名前を呼ばれた。しかも「さん」付けで。
「この人がさん付けで名前呼ぶなんて、
なんか意外だな。」
それまでのレイのイメージと違ったので、
なんだか新鮮だった。
「えーっと、
試験管とかフラスコとか、
実験道具見てるのが好きだからかな。
それに、サユキちゃんに誘われたから。」
と、わたしは答えた。
サユキは美人でコミュ力があり、
男子からもモテる。
わたしとはまるで正反対の子。
小学校卒業が近づいた頃、
二人ともハマっていた占いのことで意気投合し、
急速に仲良くなった。
中学の部活の話になった時、
特にやりたい部活もなかったわたしたちは、
「あんまり大変そうじゃない部活がいいよね。」
という一致した意見のもと、
化学部に決めたのだった。
不純な動機だ。
「ふーん。オレ、あのひとニガテ。」
レイが言った。
「あの人って、サユキちゃんのこと?」
わたしが聞くと、レイは頷いた。
ちょっと驚いた。
大げさかもしれないが、
「世の中の男子はみんなサユキの事が好き」
くらいに思っていたわたしにとって、
彼女のことをニガテと思う男子がいたなんて、
まるで
珍しい生物を発見したような気持ちだった。
「じゃあな。」
レイに言われて気づいたら、
もう家の前まで来ていた。
「あ、うん。
えっと、送ってくれてありがとう。」
そう言ってわたしは家に入った。
このわたしを
家まで送ってくれる男子がいるなんて、
ありがたいことだ。
それから何となく
レイと一緒に帰ることが増えた。
何も喋らずに
ただ並んで歩くだけの時もあったけど
その沈黙もなぜだか心地よかった。
レイは冷やかされるのがイヤなのか、
近くにクラスメイトが来ると
距離をあけてやり過ごし、
いなくなるとまた並んで歩くのが
なんだか可笑しかった。
わたしも
「レイと付き合ってるなんて
変な噂が流れたらどうしよう。」なんて、
ちょっと余計な心配もしていたので、
その方が好都合だった。
それにレイは部活以外の場所で会うと、
なぜかわたしを避けるのだった。
朝の登校中に会っても、
移動教室の時にすれ違っても、
目も合わせないしひとことも喋らない。
はじめはちょっと残念だったけど、
自分から話しかけるのもなんだか癪なので、
同じようにわたしもレイを避けていた。
なんだか意地の張り合いみたいだ。
その時はレイのことなんて、
何とも思っていなかったのだ。
当時のわたしにとってレイは、
陰キャのわたしを家まで送ってくれる
ありがたい存在で、
気をつかわずに話せる数少ない男子だった。
そんなわたしとレイに小さな変化が起きたのは
その年の三月。
卒業シーズンのことだった。
部活が終わり、
ビーカーとアルコールランプを片付けていると、
サユキが
「サラちゃん、ちょっと話があるの。」
と言ってきた。
それを少し離れたところで聞いていたレイは、
わたしにわかるように
「先に行ってる」という感じで片手を挙げて
理科室を出て行った。
「話ってなに?」
「この間ね、先輩とデートしたの。」
「……え?」
サユキの言う先輩とは、
わたしが密かに憧れていた先輩のことだった。
ショックで思わず固まってしまう。
「実はね、先輩から告白されたの。
断ったんだけど、
『中学最後の思い出に、
一度だけデートしてくれませんか?』
って言われちゃって。
サラちゃんの気持ち知ってたから、
悪いなって思ったんだけど、断れなくて。
ホントごめんね。」
サユキは、先輩と隣町まで電車で行ったこと
映画を観たこと
ランチのパスタは先輩がごちそうしてくれたことなんかを、申し訳なさそうに、
でもちょっと嬉しそうに話した。
「あ、でも付き合うわけじゃないから。
そこは安心してね。」
その言葉が取ってつけたように聞こえたのは
きっと羨ましかったからだ。
でもわたしがいちばんショックだったのは、
サユキが先輩とデートしたからでも、
そのことを
わざわざ報告してきたからでもなかった。
堅物そうでまじめなその先輩は、
サユキのような
キラキラした女の子には興味ないだろうと
勝手に思っていたのだ。
そんな先輩がサユキに告白したなんて。
結局男子はみんなかわいい子がいいんだ。
わたしみたいな陰キャには
興味なんてない。
完全に被害妄想だけど。
どうしよう。泣きそうだ。
「そ、そうなんだ。
いっそのこと付き合っちゃえばよかったのに。
わたしはほら、ただ遠くから見てるだけで
十分だったから。告白なんてできないし。
だから平気。じゃあね!」
そう言ってわたしは理科室を飛び出した。
「え、サラちゃん、待ってよ!」
遠くにサユキの声を聞きながら、
わたしは涙をこらえて玄関まで走り、
靴を履き替え外に出た。
歩いていたら涙があふれて来た。
外が暗くなっていてよかった。
これなら泣いていても誰にも気づかれない。
鼻をグスグスしながら
時々目をこすりつつ歩いていると、
後ろから自転車の音が近づいてきて、
わたしの横に並んだ。
レイだった。
びっくりして慌てて涙をふく。
「先に帰ったんじゃなかったの?」
わたしが聞くと、
レイはうんうんうんと三回無言で頷いた。
「もしかして、話聞いてた?」
「聞いてたんじゃない、聞こえただけ。」
レイ、聞いてたんだ。
ってことは
わたしが先輩のことを好きだってことも
バレちゃったのかな。
ちょっと、気まずいな。
なぜか、そう思った。
レイはわたしの好きな人なんて、
べつに興味ないだろうけど。
それからは二人とも何も聞かず、何も言わず、
ただ黙って並んで歩いた。
それがかえって嬉しかった。
「レイって意外と優しいんだな。」
ちょっとだけ、胸があったかくなった気がした。
それだけだった。少なくともその時は。
でもこれが。
わたしが後々人生の大半を費やすことになる、
静かで、でも気が遠くなるほど
長い長い恋のはじまりだった。
つづく。
〜読者の皆さまへ〜
ここまで読んで下さって
本当にありがとうございます✨
この小説は、ほとんどがわたしの実体験です。
次の第一話から、いよいよ
わたしたちのタイムラインが動き出します。
よろしければ次のエピソードも
覗いてみて下さいね。
さら。
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