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【#創作大賞2025#ファンタジー部門】マァァァァァム!11話

10はこちら。

「ボン!君に捧げるポエムを……ブワッ!」

上機嫌で帰って来たアグをボンの右ストレートが襲う。すんでのところでアグがかわし「へへっ」と笑ったのだが。

「どわふっ!」

ズシリと左フックがアグの右わき腹に決まってしまった。言葉もなく玄関にへたり込むアグ。

「ずいぶんとご機嫌のようだねぇ」

生まれて間もないゾウを背中にくくり、仁王立ちのままアグを見下ろすボン。

「ひ、酷いようボン」
「酷いのはおまいさんだよっ」

子どもは既に寝ている時間だったが、父親の声を聞いて大喜びで玄関まで飛び出したユキは目と口を大きく開け、その様子を凝視していた。ボンがユキに気づいてジロリと睨む。ユキはテトテトと部屋の奥へと走り込む。これから、ボンの雷が落ちるのを察したのだ。

これ以上は見ちゃダメ。聞いちゃダメ。

ユキは慌てて目をつむった。この家で一番偉いのはダド。でも、逆らっていけないのはマム。これはユキの心にしっかりと刷り込まれたこの家のルールだ。ボンはユキが布団に入ったのを確認した後、声を極力小さくしてアグにドスを利かせる。

「今……何時だい?」
「ご……午前1時半です」

私は朝から晩まで休みなく家のことをやってるんだよ!ゾウは生まれたばかりで、ユキも目を離せない年頃だ。普通は仕事が終わったらすっ飛んで帰ってきて手伝うもんだろっ!それをなんだい!ポエムの会だかなんだか知らないけれどもようっ!

キーッとなる若妻ボンに「ごめんごめん」と言いながら立ち上がるアグ。まだ右わき腹は痛いらしく押さえている。痛みに耐えながらも怒っている様子はない。連絡もせず深夜まで帰ってこないアグを心配し、手が出たのを理解しているからだ。

「本当にごめん」

怒らずに謝るアグに心が和らいだのか、ボンもだんだんと落ち着いて来る。

「いや、こっちも悪かったよ」
「でもさ、俺、ちょっとは進歩したと思わない?」
「え?」
「前は右ストレートでやられていたのが左フックまで耐えられるようになった」

バカ……とボンは顔を赤らめる。

「ポエムの会で君を称える詩を作ったんだ。聞いてくれるかい?」
「聞きはするけどさ、もう午前様はやめとくれ!」

そう言いながらボンは笑った。

📚📚📚

「マムは勉強が嫌いなんだと思ってた」

ボンの横を歩きながらユキがそう話す。

「そんなこたぁないさ。勉強は大切だよ」
「でもダドのことを……」
「あれは連絡せずに遅くなったダドに怒ったんだよ」

その後、仲直りはちゃんとしたさと言いながらボンは話を続ける。

「勉強をきちんとしておけば、あんな馬鹿な戦争なんて起きなかったさ、みんなダドみたいに思慮深い人間になっているだろうし」
「そうだね、ダドは優しかったもんね」

ユキは翌朝、仕事に行くアグの表情を思い出す。優しく自分を見つめるダドの顔をユキは今も思い浮かべることができた。

「イタイイタイない?」

と右わき腹をさするユキにアグは夜中起こしちゃってごめんね、と言いながらこう言ったのだ。

「ユキ、本をしっかりと読む子におなり」

頭を撫でられ言われたこの言葉をユキは一生忘れない。でも、マムは本を読んで帰って来るダドをいつも叱っていた。毎日を忙しく動き回るマムが本を読む姿を見たことがない。

朝は誰よりも早く起き、朝食の支度。
それをしながらゾウに離乳食を食べさせる。
ユキが汚した服はすぐ洗濯。
洗濯を干している合間に掃除と昼食。
洗濯を取り込み終わると夕食の買い物。

お店の人や近所の人と楽し気に会話をしながらも、全てを同時進行で行うマムの日常はとっても忙しい。

マムはいつ寝ているんだろう?

ユキはそれが不思議て仕方なかった。

もっと、マムを手伝わなきゃ。

人の心の内を察しがちなユキは、自然と本を読むことに罪悪感を覚えるようになっていった。しかし、ダドと4歳の時に交わした約束は守り続けたい。そのため、いつもみんなが寝静まった夜にそっと本を読んでいたのだ。

「とんだ誤解をさせちまったねぇ」

ユキを優しく見つめるマム。

「これからは堂々と本を読みなよ」

そう言うとユキを抱き上げ、大量の干しオヤチャイと交換した荷車にユキを乗せる。

「僕も荷車の後ろから押すよ!」
「荷車が干しオヤチャイでいっぱいになったら頼むよ」

子ども4人と子犬1匹しか乗っていない荷車なんて軽い軽いと笑うボン。そう言われるとボンの背中は、いつもより逞しく感じられる。ユキは安心して本を読み始めた。ゾウやサト、ユタは子犬のペスとじゃれ合う。つかの間の幸せを噛みしめボンは荷車を引きながら、そっとユキが読む本に目をやった。

だいぶボロボロになってきたね。

アグは多くの本を持っていたのだが、戦火の中を逃げ惑ううちに、ほとんどが焼けてしまった。あのポエムの本だけはユキが持ちだし無事だったのだ。大切そうに何度も繰り返し読んでいるユキを見て、もう内容も全部覚えているだろうにと気の毒に思う。しかし、今はこの本1冊しかない。

次の村に着くまでに野良オヤチャイをガンガン狩って、ユキや他の子のために本と交換してやろう。なあに、畑から逃げ出した野良オヤチャイはそこら中にいるし、オチャカナは空気の流れに沿って定期的に泳ぎ回っている。空気の流れさえちゃんと読めばすぐに……そこまで考えた時、ボン達を呼び止める声がした。

「待ちな」

母親の顔で今後の狩りについて考えていたボンにとって、それは不快でザラついた声以外なにものでもなかった。

12に続く

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