【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!20話
「あいつは……馬鹿だ……」
口調は荒いがサクの声には悲しみが詰まっていた。
「アグのことかい?」
コクリと頷きながらサクは話を続ける。戦争末期、自分達の所属する中隊に爆弾が落とされたと語るサク。
「爆弾が……」
焼夷弾が降り注ぐ中、逃げ惑った記憶が蘇ったのだろう。ユキが青ざめる。そんな兄にしがみつく弟達。心の傷に寄り添うかのようにペスが子ども達に寄り添う。ユタがペスの背中に頬を寄せる。
「大きなやつが一発な。お前達が浴びた細かいやつじゃねぇ」
悪事に手を染めてはいるが、子どもが戦争の記憶で苦しむ姿を見るのは嫌なのだろう。サクの声に少し優しさが混じる。
「幸い爆弾はズレたところに落ちたんだが、爆風で俺達は吹き飛ばされた」
そのまま気を失い、気づいた時にはサクとアグは同じ病室に並んで寝かされていたそうだ。
「終戦はベッドの中で知った。それを聞いた時、「俺は自由だ」って喜びが抑えられなくてな」
残して来た家族に会いたくてたまらなくなったそうだ。幸い、アグもサクも傷は浅かった。無理をすれば退院もできる。サクは一緒に出ようとアグを誘ったそうだ。
しかし、アグはその誘いを断った。
「戦地でも終戦後でも家族の写真を離さない奴がだぜ?」
自分はすぐにでも家族に会いたかったから、アグもそうだと思ったのに。アグの家族が無事だという知らせが病院に届いていたため、一緒に家族の元に帰ろうと提案をしたのだ。しかしアグは微笑みながらこう言った。
「みんなでここを出たいじゃないか」
戦争でささくれ立っていたサクは、アグの優等生発言に腹を立てた。戦争で世の中ひっくり返ったのに、他人のことなんて。もう、誘ってやるものか。サクは自分だけ、病院を後にした。
しかし、意気揚々と我が家へ向かったサクが見たものは、なにも残っていない焼野原だった。狂ったように家族を探していたところ、知人が通りかかる。疲れ切って見えたが、今は家族のことが知りたい。乱暴に肩を掴み揺さぶると顔をゆがませながら知人は答える。
「あんたの奥さんと子どもは……」
悲しい思いは戦地だけで十分だ!動揺したサクに、最後まで知人の話を聞く余裕はなかった。知人の声を背に受けながら、サクは足早にその場を立ち去る。
家族がいないならば!
自暴自棄になったサクはヒィロッポンの密売に手を染めた。元々、頭は回るし腕っぷしも強い。あっという間に仲間を集め、戦争の被害が少ない村をいくつも掌握し、密造の場所を増やしていった。過酷なヒィロッポン集めに疲弊する村人をサクは容赦なく働かせる。
俺の家族はもういないんだ!他人なんてどうなったっていい!
戦後成金となったサクの元には情報がいくつも入ってくる。アグに会うために旅をするボン達の噂もすぐに聞きつけた。戦闘能力0のアグとは違い、妻の方は狩人としてかなりの腕前、と聞いたサクはニヤリと笑う。
「ヒィロッポン作りには役に立ちそうな女だな」
元々、ボンと子どもの顔は写真で見知っている。勝ち気そうな顔も好みだ。偶然を装い近づいて自分のものにすれば、ヒィロッポン製造に役立つだろう。へなちょこなアグよりも俺の方がずっと男として魅力がある。俺がいいよればイチコロに違いない。その姿をアグに見せ衝撃を受けさせてやろうじゃないか。
そこまで黙って話を聞いていたボンはため息をついた。
「あんたはアグの魅力をわかってないねぇ」
「なんだってぇ!あんな腰抜け!」
「アグは腰抜けなんかじゃないよ」
「うるせぇぇ!黙れぇぇ!」
サクがパッと立ち上がった。縛られていたはずの縄が切られている。サクの手にはいつの間にか小刀が握られていた。
「強いって言っても女は女。詰めが甘いよ」
そう言うなりサクは近くにいたサトをパッと抱き上げる。
「サト!」
青ざめるボン。
「マァァァァァム……」
小さな声で救いを求めるサトが心配で、サクとの距離を縮めることもできない。タラリ。額に冷や汗が流れる。
「どうだい手も足もで……!!!」
突然、サクがサトを突き飛ばした。コロコロと転がりアアアンと泣くサトをユキが抱き寄せようとしたが。
「ユキにー……漏れちゃった……」
「サト……」
「このガキがぁぁぁ!」
上着はユタに汚され、ズボンまでサトに汚され、怒り狂ったサクが小刀を振り上げる。
「ユキ!サト!」
突然のお漏らしに気を取られ、ボンの攻撃が一歩遅れた。もう、ダメか、と思ったその時、茶色の影がサクの肘にものすごい勢いでぶつかる。
「っ……!」
肘から手にかけて強いしびれを感じ、サクがポロリと小刀を落とす。ペスは素早く落ちた小刀を咥え、ユキとサトをかばうかのように立った。炎のような瞳をサクに向けている。ペスの健気な姿に逆上し、サクが言葉にならない声を発しながら、蹴りをいれようと足を大きく振り上げた時だった。
ゴイィィィン!!!
サクの脳天めがけてボンのチョップがさく裂。ペスに意識が向いていたため、ボンが近くまで来ていたことに気づかなかったのだ。
「……!」
言葉も出ず、その場にしゃがみ込むサク。
「いい加減におし!」
ボンの声が響き渡った。フラフラしながらも立ち上がるサクは、それでもファイティングポーズを崩さない。
「男が女に負けるなんて……俺は認めない!」
「時代はひっくり返ったんだよ、生きていく上で男も女も関係ないさね!」
そう言いながらボンが腰を低くし次の攻撃にうつろうとしたのだが。
「お待ちください!」
涼やかな声が聞こえた。
「シメ!」
顎が外れるかと思うほど口を大きく開けたサクの元に、シメと呼ばれた女性が近寄る。
「ぶ、無事……」
目に涙をため、抱き着こうとしたサクを前にシメがすっと腰を低くする。サクの両腕がスカッ。シメは、姿勢を低く保ちながら右に反転、左足をサクの横っ腹に炸裂させた。
「ブホォッ!」
右腹を押さえながら地面に膝をつくサク。
「大変ご迷惑おかけして申し訳ありません。サクの妻シメでございます」
優雅にお辞儀をするシメにボン達は呆然とするしかなかった。
