【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!3話
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アグとの幸せな結婚生活を思い出しながら歩いているうちに、世話になっているボンの兄の家に着いた。甥っ子達が怯えながら兄嫁の後ろに回り込む。
「アグは見つかったの?」
優し気な声を出してはいるが、兄嫁の顔はこわばっている。まるで、今にも自分と我が子に、ボンが襲い掛かるのではという雰囲気がひしひしと伝わって来た。ボンは普通にしているつもりだが、見る人間によっては恐怖の存在と感じるらしい。
アグは、そんな態度を一度も取らなかったな。
「あいつらが干しオヤチャイをとったんだ!」
ふぅっとため息をついたボンを見て、甥っ子達が騒ぎ出した。カッとなったゾウが言い返す。
「嘘つくな!」
「嘘じゃない!ユタが食べてるじゃないか!」
甥っ子が指さす方を見ると、ユタがさっき拾った干しオヤチャイをハムハムしてる。
「もったいない!ダメダメよ?」
「こらっ!落ちたもんを食うんじゃないよ!」
ボンがばっと干しオヤチャイを取り上げると、ユタがギャーっと泣き出した。それを見ていい気味だといわんばかりの顔をした甥っ子達。ゾウが「マァァァァァム!」と叫んだ。理不尽さに憤ったのだろう。ボンはそれを手で制止した。
「でもこれは、逃げ出す時に捨ててったものだろ?」
ボンに痛いところを指摘された甥っ子達はシクシクと泣き出す。
「まあまあ、子ども同士のことですから。多少のいざこざは」
兄嫁が我が子を後ろに隠し、ことをうやむやにしようとしたのだが。
「子ども同士のことでユキがここまでやつれますかね」
と静かにボンが言う。ボンの肩の上で息も絶え絶えのユキを見て兄嫁が黙り込む。
「アグを探しに行っている間にずいぶんとやつれちまってねぇ」
「私は別にっ!」
「旅に出る前にずいぶんとオヤチャイを獲っていったはずですがね」
そう言いながら、腰に下げていた鍬をブン!とボンが放り投げた。一呼吸もおかず、流れるような一連の動作。その無駄のない動きには殺気も感じられ、甥っ子達と兄嫁は「ひっ!」と声をあげる。自分達に向かって鍬を投げられたと勘違いしたのだ。
「獲れましたよ」
ボンの指さす方を兄嫁と甥っ子達が見ると、そこには鍬で仕留められたオヤチャイがベロンと伸びていた。
「ヒィィ!驚いたじゃないですか!」
涙目の兄嫁を見て、ボンはこの人は私のことをなんだと思っているんだろうと呆れる。悪いことをしているとの意識もあるらしい。兄嫁の揺れる瞳にボンへの恐怖だけでなく、罪悪感も存在するようだ。ボンは虚しさを抱えつつ、笑いたくなった。やるせなさは時に人を笑いたい気持ちにさせてしまう。
「旅に出る前に、たんとオヤチャイをお渡ししましたよね?」
ボンは戦禍によりアグと暮らした家を失い、兄の家に子ども4人と共に身を寄せている。申し訳なさを抱え、畑から逃亡するオヤチャイを獲る仕事を一手に担っていた。
馬鹿らしい戦争の影響で、植物が自分の意思で動くようになり、収穫期になると畑から逃げ出すのだ。それがオヤチャイと呼ばれ、狩る人間が必要となった。畑は耕す場所ではなく「狩る」場所となったのだ。土から出て来たオヤチャイはかなり凶暴である。そのため、最初は銃やナイフなどで仕留めようとしたのだが上手くいかない。戦後の飢えを抱えながらのオヤチャイ狩りは困難を極めた。
管理する人間のいない畑のオヤチャイは取り放題。凶暴なだけあって生命力あふれるオヤチャイは、持ち主のいなくなった畑でニョキニョキと育つ。だが、すばしっこく、時には噛みついてくるオヤチャイ狩りは至難の業。オヤチャイはひ弱な人間を侮っているようで時折、襲い掛かってくる。食料を欲しい人間と、地面から吸収する謎の栄養素で元気いっぱいのオヤチャイ。関係は逆転したかのように見えた。
そんなある日のこと。オヤチャイに襲われた人間が、たまたま近くにあった鍬を投げつけた。するとオヤチャイは鍬の下敷きとなりのびてしまったのだ。それを見ていた人間が真似をして走り回るオヤチャイに投げつけると。
簡単に獲れた。
それ以来、鍬はオヤチャイ狩りに必要な武器となった。重ければ重いほど、コントロールが良ければ良いほど、オヤチャイ狩りは上手くいく。体力自慢のボンにとって、オヤチャイ狩りは適職だった。世話になっている恩返しにと、ボンは逃亡するオヤチャイを見つけては鍬を投げ、仕留めては兄の家族に献上していたのだ。
ボン達親子が来てからの方が、兄の家の食糧事情は改善されたはずなのに。アグ探しの旅に出かける前にも、ボンは沢山のオヤチャイを仕留めて兄嫁に渡していた。それなのに、ユキは死にかけるほど飢え、他の子どもも腹を空かせている。その理由が知りたい。
「責めないでください!」
「責めているわけじゃ……」
そう言いながら金切声を上げる兄嫁にボンが近づこうとした時、シュゥゥンと空気を切り裂く音がした。ボンが慌てて下に降りていたゾウを抱きかかえる。
ドスッ
兄嫁とボンの間に突き刺さる巨大な鍬。
「女同士の諍いは止めにしようやあ」
ボンの兄、ヤスの鍬だった。
4話に続く
