【#28】映画memo『旅と日々』
スキマからこんにちは。
また一つ心に残る映画を観たので、感じたことを書いておきますね。
三宅唱監督最新作
『旅と日々』。
観る人を選ぶかもしれませんが、映画や芸術が好きで、ときどき現実逃避したくなる人にはおすすめです(そういう方はもう観ているかもしれませんが)。
※展開がわかることが嫌な方は、鑑賞後にお読みいただけるとうれしいです。
あらすじ
強い日差しが照りつける夏の海。海岸でぼんやりと過ごしていた夏男はどこか陰のある女・渚に出会う。何を語るでもなく、なんとなく島を散策する二人。翌日、浜辺で顔を合わせた二人は、台風が近づくなか雨に打たれながら、波打つ海で泳ぐのだった......。
海で出会った二人の姿が、大学の講義室のスクリーンに映し出されている。つげ義春の漫画「海辺の叙景」を原作に脚本家の李が脚本を書いた映画を、授業の一環で上映していたのだった。上映後、李は学生から映画の感想を問われ、「私には才能がないな、と思いました」と答える。講義を終えた廊下で、李は魚沼教授と立ち話をする。浮かない顔の李に「気晴らしに旅行にでも行くといいですよ」と飄々とした口調で声をかける教授。ほどなく、魚沼教授が急逝したという知らせが届く。李は弔問のため、教授の弟の家を訪れる。あっけない最期に戸惑う李に、弟は教授の形見のフィルムカメラを半ば押しつけるように手渡す。
長いトンネルを抜けると、そこには一面の銀世界が広がっていた。無計画のまま降り立った町で、宿も見つけられずにさまよううち、李はひとつの古びた宿にたどり着く。屋根には雪が積もり、今にも崩れそうなその宿を営むのは、ものぐさな主人・べん造。暖房もなく、まともな食事も出ず、布団すら自分で敷かなければならない。ある夜、べん造は「錦鯉のいる池を見に行くか」と李を夜の雪の原へと連れ出すのだった......。
つげ義春作品の“らしさ”を感じる89分
ロカルノ国際映画祭で最高賞・金豹賞を受賞した本作。
『きみの鳥はうたえる』『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』の三宅唱監督による新作です。
国際映画祭のニュースは、私はあまり重視していません(今は映画制作に携わっていないし)。自分のアンテナに引っかかるかどうかで作品を選ぶタイプです。
今回は、大学の日本美術の授業で知ったつげ義春(ものづくりを志す人間が19歳になるまで知らんかったんか、というツッコミはスルーで)を題材にしていると知り、気になって観に行きました。
一部、退屈に感じる人もいるかもしれませんが、つげ義春ワールドの再現度はとても高いと思います。
つげ義春の漫画の魅力って、うまく言葉にできないんですよね。
「暗くて、エロくて、薄気味悪いけど、美しくて読んでしまう」
――そんな感じ。没入感がすごいんです。
絵の力がとにかく強くて、ネガティブな要素も含めて匂いがしてくるような。だからこそ実写化は難しいと思うんですが、本作はうまくいっている。
スタンダードサイズ(1:1.37)を選び、横移動するカメラ、絶妙な距離感の構図。
モノクロの使い方も美しく、ブルーと白と茶色を基調にしたトーンも見事でした。
人の可笑しみと哀しみが伝わるあたたかい作品
原作も読み直しましたが、つげ義春という人の誠実さやあたたかさを感じました。
そして三宅監督も、きっとそんな誠実な方なんだろうなと思います。
特に印象に残った台詞を、三つ挙げます。
★気晴らしに旅行にでも行くといいですよ
スランプの脚本家(シム・ウンギョン)に、大学教授(佐野史郎)が掛ける一言。ホッとしますよね。クリエイターの人生には、見守る人の存在が欠かせない。
★私には才能がないな、と思いました
毎日思っていることです。しんどいけど、主人公が口にしてくれると救われます。才能があってもなくても、ものづくりは苦しいものですよね。
★言葉の檻の中にいる
原作では主人公がつげ自身を投影していると思しき漫画家の設定なのですが、映画では脚本家に変更されています。「言葉を操る」仕事だからこそ、言葉に縛られている――その設定変更がすごく効いていると思いました。
脚本家が旅先で出会う、おんぼろ宿の主人(堤真一)。何もしてくれないようでいて、結果的に彼は彼女を救っています。
二人のやりとりはユーモアにあふれていて、どこか寂しい。
脚本家が少しずつ心を解かしていく姿を見ながら、私自身の旅を思い出しました。
“毎日は旅の途中”という言葉が浮かんでくるような、あたたかくて切ない時間が流れます。
俳優シム・ウンギョンと堤真一の素晴らしさ
前半の劇中劇で、河合優実が「泳ごうかな」と言ってビキニになる場面。
『ナミビアの砂漠』を思い出しました。彼女だけが出せる、不穏で湿度のある色気。あの感覚が再現されています。
でもやっぱり特筆すべきは、シム・ウンギョンと堤真一。
もうね、脚本家の李さんとおんぼろ宿のべん造が、そこにそのまま“いる”んですよ。
生きにくさ120%の李さんとべん造。通じ合っているようでいない。
でも確かに、互いの人生に触れている。この静かな関係性に心を掴まれました。
いやー皆さんにも観てほしいです。「あぁ、あいつが言っていたのは、このことだったのか」と思ってもらえると思います。特に堤さん、大好き。
『ファーストキス 1ST KISS』『国宝』『宝島』『雪風 YUKIKAZE』『爆弾』『愚か者の身分』『夏の砂の上』『片思い世界』『沈黙の艦隊 北極海大海戦』……。『兄を持ち運べるサイズに』『TOKYOタクシー』『星と⽉は天の⽳』『消滅世界』も控えています。『8番出口』は観ないで終わりそうだな。
いずれにしても今年は名作揃い(2文字タイトル多めw)で、選ぶ方も悩むでしょうね。
理解できない人生の方が楽だったかもしれない
旅先での小さな出会いが人生を変え、心の隙間を埋めてくれる――誰しも経験があるはずです。
私は、本作を観て、ベルリンへの旅を思い出しました。
相手に合わせ過ぎて疲れていた恋愛のさなかに訪れた街。
大きさの異なるパーツを繋ぎ、ほんの少し赤とシルバーを効かせたブルーと白の可愛いネックレスを手に取った私に、セレクトショップの店主が言ってくれました。
「あなたらしいわね。いいチョイスだわ」。
ネックレスは劣化してしまったので、直さないとつけられないけれど、ずっと手元にあります。あの言葉のおかげで、「私は私のままでいいのかもしれない」と思えたんです。
この作品も、そんなふうに優しく寄り添ってくれる映画でした。
一つ言えるのは、この作品を理解できない方が生きるのは楽だっただろうな、ということ。
でも理解できてよかったのかな。
いつにも増して長くなっちゃった! 映画は短いYO!
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