はぐき先生が噛み砕く知識ノート⑤🔵嚥下内視鏡検査で『のどの奥』を見える化する(前編)
🌱 はじめに
以前の記事(知識ノート④)で、のどの奥の状態を詳しく確認するためには、専門的な評価が必要になる場合があるとお伝えしました。
「一度、検査を受けてみませんか」
もし主治医や歯科医師からそう提案されたとき、それがどんな検査で、何を、どこまで教えてくれるものなのかをあらかじめイメージできていると、それだけで気持ちの準備がしやすくなります。

今回から前編・後編の2回に分けて、子どもの摂食嚥下の評価で広く用いられている嚥下内視鏡検査(VE:Videoendoscopic Evaluation of Swallowing)について、詳しくご紹介します。前編では「VEとは何か・何がわかるのか」を中心に、後編では「VF(嚥下造影検査)との違いと、結果の活かし方」を扱う予定です。
実際にVEが行われている場面のイメージは、現場案内①(ネーザルハイフローを使いながら食べる支援に取り組んだケース)でも触れていますので、あわせてご覧いただくとより具体的にイメージしていただけると思います。
🔵 なぜ、客観的な検査が必要になるのか
VEの話に入る前に、検査がどんな位置づけにあるのかを少し整理しておきます。
子どもの摂食嚥下機能を把握するプロセスは、大きく分けて次の3つの積み重ねで成り立っています。

🔹 問診
まず大前提として、今どのような方法で栄養をとっているのか、その経路を確認することから始まります。栄養の届け方には、口から食べる経口摂取のほかに、いくつかの方法があります。
経鼻チューブ(NGチューブ):鼻から管を通し、胃まで届けて栄養を入れる方法
ED チューブ:鼻から管を通す点は同じですが、胃を越えて十二指腸や空腸まで届ける方法。消化の負担が少ない成分栄養剤(Elemental Diet)を用いる際に選ばれることがあります
胃瘻・腸瘻:お腹に開けた小さな穴(瘻孔)を通して、胃(胃瘻)や腸(腸瘻)に直接栄養を届ける方法
静脈栄養:血管から直接栄養を届ける方法。腕などの血管を使う末梢静脈栄養と、太い血管に管を留置して行う中心静脈栄養があります

経口摂取をしていても、していなくても、必要があれば嚥下の精密な評価を行います。経口摂取をしている子どもであれば誤嚥のリスクや食形態の適否を確認するために、経口摂取をしていない子どもであっても、唾液の処理の状態や将来的な経口摂取の可能性を見据えて評価を行うことがあります。どちらか一方だけが評価の対象になる、というものではありません。
そのうえで、出生時の状況、哺乳期のむせやすさや吸う力、離乳の進み方、現在の食事の様子、体重や成長の推移、内服薬の影響(抗けいれん薬による唾液分泌の変化など)、胃食道逆流の既往といった、これまでの経過を丁寧に聴き取ります。あわせて、姿勢保持の安定性、心疾患による水分量の制限やアレルギーによる食材の制限といった医学的背景、消化管症状の有無、食事への興味・意欲、精神運動発達や口腔機能・口腔感覚の発達の程度、呼吸や吸引など医療的ケアの状況についても把握します。

🔹 実際の食事場面の観察
姿勢の安定性、口の開き方、口唇の閉じ具合(食べこぼしの有無)、噛み方、舌の動き(前後・左右・挙上)、嚥下のタイミング、食事にかかる時間や集中力の続き方などを、実際の食事の様子を見ながら確認します。

🔹 客観的な検査
ここまでの2つは、いわば「外側から見える情報」です。しかし、食べ物がのどの中に入ってから、実際にどう動いているか──いわゆる咽頭期と呼ばれる部分の様子は、問診や観察だけで正確に把握するには限界があります。むせるかどうかという反応だけでは、のどの奥で本当は何が起きているのかまでは判断しきれないためです。
そこで必要に応じて行われるのが、VEのような客観的検査です。つまりVEは、「この検査だけで全てがわかる」魔法のようなものではなく、それまでの問診・観察の積み重ねの上に位置づけられる、評価の一部として理解していただけると、検査の意味がより伝わりやすいかと思います。
🔵 VEとは何か
VEは、鼻から細径の内視鏡(ファイバースコープ)を挿入し、のどの奥(咽頭・喉頭)の様子をモニター画面に映し出しながら、リアルタイムで直接観察する検査です。
「内視鏡」と聞くと大がかりな検査を想像されるかもしれませんが、実際に使用するスコープは非常に細く、多くの場合、鎮静や麻酔を必要としません。この細さがあるからこそ、0歳の乳児であっても実施できる検査です。また、特別な大がかりな設備を必要としないため、外来でも、訪問診療やベッドサイドでも、同じように行うことができます。X線を使うVF(後編で詳しく扱います)とは異なり、放射線被ばくがないという特徴もあります。

検査では、普段食べているものや、色をつけた検査用の食品・飲料を実際に食べたり飲んだりしてもらいながら、その様子をリアルタイムで確認していきます。着色することで、内視鏡の画面上で食べ物の動きがより見分けやすくなります。
場所を選ばずに実施できることは、単に「便利」というだけでなく、普段生活している環境、慣れた姿勢や食器、いつもの介助者との組み合わせで評価できるという意味を持ちます。それは、その子どもの「実際の食事場面」により近い情報を得られることにつながります。
(※検査の実施可否や具体的な方法、鎮静の要否は、子どもの状態や医療機関の方針によって異なります。詳細は主治医・担当の専門職にご確認ください)
🔵 VEで何を見ているのか
内視鏡を通してのどの奥を観察することで、次のような情報が得られます。ひとつずつ、その意味も含めてご紹介します。
🔹 のどの形やつくり(形態)
咽頭後壁、舌根、披裂部、声帯といった部位の形態を直接確認します。生まれつきの形の特徴や、左右差の有無なども、ここで把握できる情報のひとつです。
🔹 のどの動き(機能)
声帯がしっかり閉じるように動くか、咽頭がきちんと収縮するかといった機能面を見ます。声帯の動きは、気管に食べ物や唾液が入るのを防ぐ役割に関わっており、咽頭の収縮は、食べ物をスムーズに食道へ送り込む力に関わっています。
🔹 唾液や分泌物の様子
のどの奥にどの程度分泌物(唾液など)が溜まっているか、それを本人がうまく処理(嚥下)できているかを確認します。分泌物の貯留が多い場合、唾液そのものが気管に入り込むリスクにもつながるため、大切な観察項目です。

🔹 嚥下の際の喉頭蓋(こうとうがい)の動き
喉頭蓋は、食べ物を飲み込む瞬間に気管の入り口に蓋をする役割を持つ組織です。この動きがタイミングよく起きているかどうかを、嚥下の前後の様子から確認していきます。
(※実は、嚥下が起きているまさにその瞬間は、VEでは直接見ることができません。飲み込む瞬間、のどの奥の組織が内視鏡のレンズに近づくことで、画面が一瞬真っ白になる「ホワイトアウト」という現象が起こるためです。そのため、咽頭の収縮や喉頭蓋の動き、誤嚥そのものの瞬間は、嚥下の前後に見える所見――嚥下後にどの程度食べ物が残っているか、気管内に食べ物が見えるかどうかなど――から推測して評価する、という側面があります。嚥下の瞬間そのものをより詳しく確認したい場合には、後編でご紹介するVF(嚥下造影検査)と組み合わせて評価することもあります)

🔹 嚥下後の咽頭残留
飲み込んだあとに、梨状窩(りじょうか)や喉頭蓋谷(こうとうがいこく)と呼ばれる、のどのくぼんだ部分に食べ物が残っていないかを確認します。残留が多いと、その後の呼吸のタイミングなどで気管に入り込んでしまう「嚥下後誤嚥」につながることがあります。
🔹 誤嚥の有無とその程度
食べ物や唾液が気管の方に入り込んでいないか、入り込んでいる場合はどの程度かを、嚥下前後の様子から確認します。
🔹 喉頭軟化の程度
喉頭を支える組織がやわらかく、息を吸うときに一部が内側に引き込まれるような動きがないかを見ます。喉頭軟化があると、呼吸と嚥下の協調にも影響が出やすいことが知られています(Irace et al., 2019)。
これだけの情報を、リアルタイムで、しかも実際に食べている場面と重ねながら確認できることが、VEという検査の大きな特徴です。
🟠 むせない誤嚥(サイレントアスピレーション)という視点
VEが持つ大切な役割のひとつに、サイレントアスピレーション(むせを伴わない誤嚥)の発見があります。
一般的に「誤嚥=むせる」というイメージを持たれることが多いのですが、実際にはむせという反応が起こらないまま、食べ物や唾液が気管に入ってしまっているケースが、子どもにおいても少なくないことが報告されています(Weir et al., 2011;Arvedson et al., 1994)。むせがないからといって、誤嚥がないとは限らないのです。
これは、感覚の受け取り方や神経の働き方など、さまざまな背景によって起こりうるものであり、「むせないから大丈夫」「むせるから危ない」という単純な図式では捉えきれない部分です。見た目や食事の様子だけでは気づきにくいこうした状態を、実際にのどの奥を見て確認できることが、VEという検査が持つ大きな価値のひとつだと言えます。

🌱 前編のまとめ
ここまで、VEがどんな検査で、何を見ているのかをご紹介しました。「内視鏡」と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、実際には特別な準備を必要とせず、普段の生活の場に近いところでも受けられる、鎮静を必要としない検査です。
後編では、よく比較されるVF(嚥下造影検査)との違いや、VEの結果がどのように日々の関わり方に活かされていくのかをご紹介します。
📌 この記事についての大切なお願い
のどの奥の状態や嚥下の様子には、一人ひとり違いがあります。検査の必要性や実施のタイミング、結果の見方について気になることがあれば、かかりつけの医師・歯科医師・言語聴覚士など、専門家にご相談ください。
参考文献
📕Weir KA, McMahon S, Taylor S, Chang AB. Oropharyngeal aspiration and silent aspiration in children. Chest. 2011;140(3):589-597.
📕Arvedson J, Rogers B, Buck G, Smart P, Msall M. Silent aspiration prominent in children with dysphagia. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 1994;28(2-3):173-181.
📕Irace AL, Dombrowski ND, Kawai K, et al. Evaluation of Aspiration in Infants With Laryngomalacia and Recurrent Respiratory and Feeding Difficulties. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2019;145(2):146-151.
