はぐき先生が噛み砕く知識ノート④🔵「むせる・のどがゴロゴロする・逆流する」には理由がある──食べることの発達③ 嚥下・のどの奥の話
これまでの記事では、食べることの流れを3つのフェーズで整理し、口の「入り口」(フェーズ1)と口の「内側」(フェーズ2)について見てきました。
今回はフェーズ3。のどの奥──咽頭や食道に関わる話です。
フェーズ1は口の入り口の感覚が育っていく時期に、フェーズ2は口の内側の動きが育っていく時期に、それぞれ特有のつまずきが見られることをお伝えしてきました。フェーズ3では、そのどちらとも異なる、いわゆる「嚥下障害」と呼ばれる状態が主な課題となります。
「むせる」「のどがゴロゴロする」「逆流する」といったサインが気になっているご家族は、ぜひこの記事を読んでみてください。
🔵 まず整理:「むせ」って何?

本題に入る前に、ひとつ整理しておきたいことがあります。
「むせ」とは、気管に食べ物や飲み物が入るときに体が起こす防御反応です。気管への侵入を感知すると、反射的に激しい咳が起きて、異物を外へ出そうとします。これが「むせる」という状態です。
ただし、ここで大切なことがあります。
むせがなくても、誤嚥が起きている場合があります。
のどの感覚が鈍くなっていると、気管に食べ物や唾液が入っても「入った」という信号が伝わらず、防御反応としてのむせが起きません。これをサイレントアスピレーション(不顕性誤嚥)と呼びます。
整理すると、こうなります。
むせる = 誤嚥に対する防御反応が起きている状態 むせない = 誤嚥が起きていないとは限らない
「むせていないから大丈夫」とは言いきれない──これがフェーズ3を考えるうえでとても重要なポイントです。
🔵 フェーズ3について

フェーズ3は、のどの奥から食道にかけての動きに関わる時期です。フェーズ1・2で食べ物が口の中でまとめられた後に続くフェーズで、食べ物がのどへ送り込まれてから、食道を通って胃に届くまでの時期を表します。実際の嚥下動作では、これらの複数の段階が連続して起きています。
専門的には嚥下の5期(先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期)という考え方でも整理されており、フェーズ3は主にそのうちの咽頭期・食道期に対応します(嚥下の5期の詳細はまた別の記事でご紹介します)。
フェーズ1・2のつまずきが口の感覚や動きの発達の過程と深く結びついているのに対して、フェーズ3の時期に見られるつまずきは、神経や筋肉の働き、のどの構造など、より医学的な背景が関わることが多くなります。
🔵 フェーズ3の時期に課題となりうる主な状態
🔹 誤嚥とむせ
食べ物や飲み物、唾液などが、食道ではなく気管の方へ入ってしまう状態を誤嚥と言います。
誤嚥が起きると、体はむせによって異物を排出しようとします。ただし前述のとおり、のどの感覚が鈍い場合にはむせが起きないまま誤嚥が続くことがあります(サイレントアスピレーション)。
サイレントアスピレーションは、人工呼吸器や吸引、経管栄養など、日常的に医療的ケアを必要とする子どもたちに多く見られることが報告されています(Weir KA, et al., 2011; Arvedson J, et al., 1994)。
のどの奥の状態を詳しく確認するためには、嚥下内視鏡検査(VE)などの専門的な評価が必要です。どのような検査なのかは、次回の記事でご紹介します。
🔹 咽頭残留と嚥下後誤嚥
のどの奥に、食べ物や飲み物が残ってしまう状態を咽頭残留と言います。
のどには食べ物を押し出す収縮力と、「残ったものがある」と察知する感覚の両方が必要です。収縮力が低下していたり、感覚が鈍くなっていると、のどに残った食べ物や飲み物が嚥下動作の後に気管へ流れ込んでしまうことがあります。これを嚥下後誤嚥と呼びます(Weir KA, et al., 2011)。
食事中ではなく、食後しばらくしてからむせる場合には、この嚥下後誤嚥が関係していることがあります。

🔹 窒息
食べ物が気道を完全にふさいでしまう状態です(※緊急対応が必要)。誤嚥や咽頭残留がある場合には、一口量・介助のペース・食べ物のかたさや粘度が適切かどうかが特に重要になります。日頃からかかりつけの専門職に対応方法を確認しておくことをおすすめします。
🔹 胃食道逆流
いったん胃に入った内容物が食道へ逆流してくる状態です。乳幼児では生理的にも起きやすい現象ですが、頻繁に起きる場合には注意が必要です。
逆流した内容物には胃酸も含まれます。それが気道まで到達して誤嚥された場合、食べ物そのものを誤嚥する場合と比べて、より強い炎症を引き起こすリスクがあります(Jacobson JC, et al., 2021)。
「食後に気持ち悪そうにする」「吐き戻すことが多い」といったサインが続く場合は、専門職への相談のきっかけにしてみてください。
🔹 喉頭軟化
のどの入り口にある喉頭蓋(こうとうがい)という蓋の部分が柔らかすぎる状態で、嚥下のたびに動きが不安定になりやすい状態です。乳幼児期に見られることがあり、専門的な検査で確認されることがあります(Irace AL, et al., 2019)。

なお、呼吸と嚥下はのどの同じ場所を共有しており、互いに深く関係しています。このテーマについても、別の記事で改めてご紹介する予定です。
🟢 のどで何が起きているの?
食べ物がのどに入ると、体は瞬時にいくつかのことを同時に行います。
喉頭蓋(こうとうがい)が倒れて気道を守る
披裂部(ひれつぶ)が内側に倒れて気道を守る
声帯が閉じて気道をさらに守る
咽頭が収縮して食べ物を食道へ押し込む
食道の入り口が開いて食べ物を受け取る
これらが一瞬のうちに協調して動くことで、食べ物は気管ではなく食道へと送られます。この精密な連携のどこかにずれが生じると、誤嚥が起きます。


🟠 周囲が気づくためのサイン
フェーズ3の時期に課題となりうる状態は、次のようなサインとして現れることがあります(Tutor JD, 2020)。気になることがあれば、専門職への相談のきっかけにしてみてください。
食事中のむせ
食後しばらくしてからのむせ
夜間のむせ・咳き込み
声質の変化(食後にゴロゴロした声になる)
のどのゴロゴロ音
食事時間の延長、食事中の疲れやすさ
発熱を繰り返す
体重がなかなか増えない
食後に気持ち悪そうにする・吐き戻す
「周囲の誰かが気づくこと」が、早期の支援につながる入り口になります。

🌱 フェーズ3の時期のつまずきへの支援の考え方
フェーズ3の時期のつまずきは、口の動きの練習だけでは対応しきれない部分が多く、医師・歯科医師・言語聴覚士・管理栄養士・看護師など、複数の専門職が連携して状態を評価し、支援を組み立てることが重要です。
その子の状態に合った食形態・姿勢・ペース・一口量を、専門職とともに丁寧に探していくことが、食支援の基本的な考え方です。
経口摂取が難しい時期があっても、経管栄養などの方法で栄養を支えながら、その子らしい食との関わり方を続けていくことができます。経口・非経口を問わず、どちらもその子にとっての大切な食支援のかたちです。
具体的な対応法(姿勢・食形態・嚥下訓練など)については、今後の記事で引き続きご紹介していきます。
🌱 おわりに
「むせる」「のどがゴロゴロする」「逆流する」──これらはどれも、体が何かを伝えようとしているサインです。「気にしすぎかな」と思わず、気になることはぜひ専門職に相談してみてください。
📝 この記事について
この記事は一般的な情報提供を目的としています。お子さんの食事や嚥下に関する具体的なご相談は、かかりつけの医師・歯科医師・言語聴覚士などの専門職にご相談ください。お子さんによって状態は大きく異なります。
参考文献
📕Weir KA, McMahon S, Taylor S, Chang AB. Oropharyngeal aspiration and silent aspiration in children. Chest. 2011;140(3):589-597.
📕Arvedson J, Rogers B, Buck G, Smart P, Msall M. Silent aspiration prominent in children with dysphagia. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 1994;28(2-3):173-181.
📕Tutor JD. Dysphagia and Chronic Pulmonary Aspiration in Children. Pediatr Rev. 2020;41(5):236-244.
📕Jacobson JC, Pandya SR. A narrative review of gastroesophageal reflux in the pediatric patient. Transl Gastroenterol Hepatol. 2021;6:34.
📕Irace AL, Dombrowski ND, Kawai K, et al. Evaluation of Aspiration in Infants With Laryngomalacia and Recurrent Respiratory and Feeding Difficulties. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2019;145(2):146-151.
