小児における抗インフルエンザ薬の比較
こんにちは。小児科医のひろです。
最近、小児科外来では発熱した方のほとんどがインフルエンザ感染症の診断に至ることが多いです。
冬場になってから、かなり流行っているなと感じます。
インフルエンザの診断後に、解熱剤や去痰薬などの他に抗インフルエンザ薬として、小児では「タミフル」「イナビル」「ゾフルーザ」のどれかを処方することが多いです。
これらの薬について、効果の違いや安全性、3つのうちからどのように選択しているのか、をわかりやすく解説していこうと思います。
ぜひ、最後まで読んでみてください。
1. 抗ウイルス効果
タミフル(オセルタミビル)とイナビル(ラニナミビル)はインフルエンザウイルスが細胞から放出されるのを阻害するノイラミニダーゼ阻害薬です。
一方、ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)はウイルスの複製に必要な酵素(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ)を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成と増殖を直接止める新しい機序の薬です。
この作用の違いから、ゾフルーザは投与後24時間でウイルス量を大幅に減少させる効果が確認されており、同条件下でタミフルよりもウイルス排出低下が速いことが報告されています。いずれの薬剤も発症早期に使えばウイルス増殖を抑えて症状期間を短縮し、重症化リスクを下げる効果が示されています。
2. 解熱までの期間
抗インフルエンザ薬の使用により、通常は発熱期間が約1日短縮されます。タミフルの効果は健康小児では発熱期間をおよそ半日〜1日程度短縮するとされますが、大規模解析では「症状軽減までの時間に大きな差はない」との指摘もあります。ゾフルーザも症状改善までの時間はタミフルと概ね同等ですが、特にインフルエンザB型ではタミフルより有熱期間が短いとの報告が複数あり、B型に関しては解熱を早める効果がやや優れている可能性があります。また、いずれの薬も発症48時間以内に開始することで最大の効果を発揮します。
3. 年齢と服薬のしやすさから薬を決める
・タミフル(オセルタミビル)
生後2週以降の乳児から使用可能で、カプセルのほか粉薬(ドライシロップ)もあり小児でも内服しやすい形剤です。1日2回の内服を5日間続ける必要があります。
・イナビル(ラニナミビル)
吸入型の治療薬で、1回の吸入で治療が完結します。吸入薬(ドライパウダー)は一般に5歳以上で使用されますが、乳幼児にはネブライザーで吸入できる懸濁液製剤が開発され、1回吸入で同等の効果が得られます。吸入時にエアロゾルが発生するため、周囲への感染拡散防止に配慮が必要です。吸入のコツが必要な点はありますが、回数が1回で済む利便性は高いです。
・ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)
単回の経口投与(錠剤または顆粒)で治療が完了する点が最大の利点です。2018年に12歳以上を対象に承認され、その後小児用顆粒が導入されました。ただし年少児への適用には注意が必要です。日本小児科学会の指針では、12歳以上では他の薬剤と同等に推奨されますが、6~11歳では主にB型インフルエンザの場合に使用を提案し(A型では慎重判断)、5歳以下では耐性ウイルス排出が長引く可能性があるため積極的には推奨しないとされています。小児(特に低体重<20kg)では他薬の使用を検討した上で必要性を慎重に判断するよう添付文書にも注意書きがあります。
4. 安全性
・タミフル
主な副作用は消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢など)で、小児ではときに嘔吐が見られます。また、過去に異常行動(幻覚、興奮など)の報告があり一時話題となりましたが、その後の調査でインフルエンザ罹患時には薬の有無にかかわらず異常行動が起こり得ることが分かりました。現在、すべての抗インフルエンザ薬の添付文書に「インフルエンザ感染時には異常行動の報告がある」と注意喚起が記載されています。従って高熱時のお子さんを一人にしない等、服薬の有無に関わらず見守りが大切です。
・イナビル
吸入薬のため全身への影響が少なく、重篤な副作用はまれです。吸入時に咳き込みや喉の刺激感が出ることがありますが、大半は一過性です。
・ゾフルーザ
臨床試験ではプラセボ(偽薬)と副作用発現率がほぼ同等で、安全性プロファイルは良好です。ネットワークメタアナリシスでも、ゾフルーザ投与群はタミフル等に比べ嘔気・嘔吐など有害事象の発生率が最も低かったとの報告があります。重篤な副作用の報告は現在までに特にありません。ただし、まれにアレルギー反応等が起こる可能性は他薬同様ありますので、異変があれば医師に相談してください。
6. 小児に使える新たな治療薬は?
現在、日本で小児に使用できるインフルエンザ治療薬は上述のノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル、リレンザ〈ザナミビル吸入〉、イナビル、点滴薬のペラミビル等)と、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(ゾフルーザ)が中心です。リレンザは吸入粉末薬で通常5歳以上で使用され、気管支喘息などがない年長児で吸入可能な場合に選択されます。ペラミビル(ラピアクタⓇ)は静脈点滴で投与する薬で、生後1か月以上から適応があり、重症例や経口・吸入が困難な場合に用いられます。
近年登場した新規機序の薬としてはファビピラビル(アビガン)がありますが、日本では「新型または再興型インフルエンザ感染症で他の薬が無効な場合」にのみ使用が承認された特殊な位置づけです。催奇形性(胎児奇形)のリスクが指摘されており妊婦には使えず、小児への投与経験もありません。したがって季節性インフルエンザの一般診療で使われることはなく、現時点で小児が使用できる新たな治療薬はゾフルーザ以降登場していないのが実情です。
7. まとめ
インフルエンザ治療薬は「どれが一番強い」というより、お子さんの年齢・症状・飲みやすさ・安全性・その年に流行しているウイルスのタイプによって使い分けることが大切です。
・タミフル(オセルタミビル)
乳児から使えて、粉薬があり飲みやすい。副作用は主に吐き気や嘔吐がある。
・イナビル(ラニナミビル)
1回吸入するだけで治療が終わり、吸入が得意な年長児に向いている。4歳未満でも吸入懸濁液なら使用可能である。エアロゾル感染に注意が必要。
・ゾフルーザ(バロキサビル)
1回飲むだけの治療であり、特にB型には効果が高いとされる。ただし、小児では耐性ウイルスが出やすい。低年齢では慎重に使用。
どの薬も、発症から48時間以内に使うと効果が最大となり、症状を1日ほど短くします。薬の種類に関わらず、インフルエンザの発熱時は異常行動に注意が必要です。
改めて、薬の選び方のポイントをまとめます。
・乳児や薬が飲みにくい子 → タミフル
・吸入ができて、1回で済ませたい → イナビル
・年長児でB型流行、または単回内服を優先 → ゾフルーザ
他にも、インフルエンザに関する記事を書いておりますので、下記も是非ご参照ください。
