漫画家アシスタント物語 古い話で章〈12〉 初日から先輩と喧嘩する!
《 写真上:1969年当時に秋山プロが入っていたマンションの表玄関です。今では、リフォームされて美しくなっています。2014年5月、撮影 》
< この「古い話で章〈12〉」は、文庫本約8ページ分 >
「古い話で章」は、独立した「章」ですので、「諦めま章」の続きではありません。 無料で、各話、お楽しみいただけます!
ただし‥‥ 各話が連続していますので、「古い話で章〈1〉」からお読みいただく方が、よろしいかと思います。
はじめての方は、「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!
その23
《 漫画家アシスタントが・・・蒸気爆発する!? 》
ジョージ先生から弟子入りを許された加川さんは、その翌日から漫画家アシスタントとして、先生のマンションへ通うようになります‥‥
仕事場は、新宿区中落合〇丁目にある小さなマンションの一室( 4畳ほど )。先生は、隣の6畳の部屋を仕事場にしていました。
加川さんより数週間ほど前にアシスタントに成っていたのが、16歳のK君( ※参照 )と17歳のウイタさん( 仮名※参照 )の二人。
加川さんが19歳ですから、新入りとはいえ、彼が最年長者という事になります‥‥‥‥ 先生の歳が26歳ですから、秋山プロの平均年齢が19.5歳‥‥‥‥ 美しいほどの若さです!( 1969年当時 )
ちなみに、現在( 2014年、スタッフ2名と先生 )の平均年齢が62歳ですから、当時は、信じられないほど若々しい職場だったわけです!
‥‥‥‥と言いますか‥‥‥‥ 現在の方が歳を取り過ぎていると言った方が良いのでしょう。
先日、加川さんと、45年前に17歳だったウイタさん( 現在は私より年上の61歳!)と中落合辺りをブラブラと散歩しました。 すっかり白髪頭になって歩く今の姿から、45年前の10代の青年を想像するのは困難を極めます‥‥‥‥
さて、45年前に話を戻しましょう‥‥‥‥
先生の仕事場とフスマを一枚隔てただけの仕事場。 そこで、3人のアシスタントがせっせと背景を描きます。
フスマのすき間から、先生が人物を入れた原稿をス~~と差し出します。 スタッフの一人がそれを受け取って、背景を入れるという手順になります。
年長者とは言っても加川さんは一番後輩ですから、ウイタさんの指示通りに仕事をします。
前に〇森プロを夜逃げしていますから、秋山プロでの初日は、緊張感と新鮮な気持ちで一杯だったわけです。
ところが‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「 何だよ‥‥? 」
やけに陰気な小声が、加川さんの耳に届きます‥‥‥‥
「 何だよ、それは‥‥!? 」
驚いて前を見ると‥‥‥‥ 17歳のウイタさんが、年下のK君の原稿を見ながら注意しているのです‥‥‥‥
長身( 180㎝以上 )で髪の毛の長いウイタさんは、クールでキリッとした印象、その冷めたい眼と大柄な体格には圧力があります。
まだ幼い表情の16歳のK君は、黙ってうつ向いたままです‥‥‥‥‥‥
その彼に、ウイタさんは容赦しません‥‥‥‥ ブツブツと陰気な声で絵について注意し続けるのです‥‥‥‥‥‥
19歳の加川さんから見れば、16歳のK君はまるで子供も同然です‥‥‥‥ それが、痛ましい姿に見えたのも当然だったかも知れません。
この時、加川さんが以前勤めていた〇森プロで、先輩から毎日文句を言われ続けた屈辱が蘇って‥‥ 血が逆流するような思いに捉われます‥‥‥‥
瞬間的に沸騰したお湯が蒸気爆発するように‥‥‥‥
「 ふざけんなよ、コノヤロ~! 」
思わずカッとなってしまった加川さんがウイタさんに食って掛かります。
「 てめぇ、細けぇ~ことグチャグチャ言ってんじゃね~~よっ! 」
驚いて茫然とするウイタさんに、反撃を許さぬ強烈な一撃を加えます‥‥‥‥
「 ネチネチ、いじめてんじゃね~~ぞぉおおっ! 」
突然、緊張状態に突入した仕事場に加川さんの罵声だけが響きます‥‥‥‥
「 てめぇ、キンタマついてのかよっ! 」
‥‥‥‥しばらくの沈黙の後に‥‥‥‥‥‥( 初日から仕事どころじゃありません! )

その24
《 漫画家アシスタントが・・・気持ちを込める!? 》
加川さんの怒鳴り声に仕事場の雰囲気は一変しました。
仕事の初日からケンカです‥‥‥‥ 小さな4畳間の仕事場は凍りつきました‥‥‥‥
もっとも、男ばかりが狭い部屋で肩を並べて仕事をしていれば、仲良し子良しとばかりとはいきません。( ただ、この場合は、初日です )
茫然とするウイタさん、そして、幼い表情を強張らせて泣き出しそうなK君‥‥‥‥
すっかりしおれたキャベツのようになったウイタさんに‥‥
「 てめぇ、キンタマついてのかよっ! 」
‥‥‥‥と、最後の一撃を加えると‥‥‥‥‥‥ しばらく沈黙がつづきましたが‥‥‥‥
突然‥‥‥‥
フェッフェッフェッフェ‥‥‥‥!
例の‥‥‥‥ 低い独特の‥‥‥‥ あの人の‥‥‥‥ 笑い声が響いてい来ます‥‥‥‥
フスマ一枚隣の部屋にいるジョージ先生の笑い声です‥‥‥‥
ビックリしたのは先生も同じだったと思いますが‥‥‥‥ なんだか楽しんででもいるように‥‥‥‥
フェッフェッフェッ‥‥‥‥という、癖のある笑い声を出しながら‥‥‥‥
「 じゃ、今日は‥‥‥‥ もう終わりにして帰ぃ~れ 」
3人は、それぞれに帰り支度を始めます‥‥‥‥
帰り道、加川さんは、まだ幼い表情のK君と肩を並べて歩いていました。
加川さんがKさんに気を使ってやさしい言葉でもかけながら歩いていたのだと思います。
しかし、その時、背後からバタバタと足音が聞こえるので、二人が振り返ると‥‥‥‥
ウイタさんが二人の後を追って走って来るのです‥‥‥‥
加川さんは、とっさに『 文句でも言いに来やがったな 』と、緊張した瞬間‥‥‥‥
息を切らせてウイタさんが、加川さんに向かって手を差し出します‥‥‥‥ その手には‥‥
タバコのショートピース( 10本入りの小さなタバコ )が一箱、しっかりと握られていました。
「 加川さん‥‥ これ‥‥ 」
そう言って、ウイタさんは、加川さんの手にタバコを渡します。 そして、そのまま恥ずかしそうに、駅へ向かって走り去ってしまったのです。
二人は、ただ茫然と走り去るウイタさんを見送るのですが‥‥‥‥ 不思議なのがショートピースです。
『 何だぁ‥‥ このタバコ? 』
そう‥‥‥‥ 疑問に思ったのですが‥‥‥‥
加川さんは、ウイタさんのやさしい気持ちが分かったような気がしました。
もし、私だったら、『 あいつとは、明日から絶対に口もきかね~ぜ! 』とか思って不快な一日を過ごすかと思うのですが‥‥‥‥
加川さんは、一つのタバコから、手のひらにウイタさんの気持ちが伝わって来るのを感じたのでした。
『 ウイタって、結構いい奴かも‥‥ 』
次の日からは、3人が仲の良い同僚として仕事を始めることになります。
19歳で一番年上の加川さんが兄貴分として、この3人がまとまります‥‥‥‥
そして‥‥‥‥
青年から中年になり、漫画の仕事から離れて、それぞれの家庭を持ち、それぞれの仕事をしていても、例えバラバラではあっても、3人の心は、いつもジョージ先生の漫画原稿の上で結ばれていました。
白髪頭になり、顔のシワもすっかり老人のように深く刻まれ、体も弱り‥‥‥ 一番年下だったKさんが病没してからも、この3人は、いつもお互いのことを想って‥‥‥‥‥‥
「 それは‥‥ ちょっ‥‥ 」
「‥‥‥‥?」
「 ちょっと、違うな‥‥‥‥ 」
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥?! 」
「 そんな事、言ってないと思うよ‥‥ 」
先日、所沢でお会いしたウイタさんは、62歳でも若い頃と同じようにスリムで姿勢の良い180㎝の長身‥‥
そんな彼を見上げる私は、目をショボショボさせる‥‥‥‥‥‥
小さな私を見下ろしながら、ウイタさんはクールに‥‥
「 まるで‥‥ 俺が悪い奴みたいじゃないか‥‥‥‥ 」
「 漫画家アシスタント物語 古い話で章〈13〉」へつづく・・・・
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~~~ 参照 古い話で章〈12〉~~~( 読んでも、読まなくても!)
【その23】
・K君 : 1969年当時、16歳、神戸出身、中学を出て東京で就職後、秋山プロへ入る。
・ウイタさん : 1969年当時、17歳、横浜出身、高校を中退、転職、新宿放浪をしながら秋山プロへ入る。
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