漫画家アシスタント物語 古い話で章〈11〉 先生はコーラを盗み飲む!?
《 写真上:池袋から目白の秋山プロへ歩いて行く途中にある公園、一ヵ月前は満開の桜だった場所です。中央の大木が見事です。2014年5月撮影 》
< この「古い話で章〈11〉」は、文庫本約7ページ分 >
「古い話で章」は、独立した「章」ですので、「諦めま章」の続きではありません。 無料で、各話、お楽しみいただけます!
ただし‥‥ 各話が連続していますので、「古い話で章〈1〉」から読みいただく方がよろしいかと思います。
はじめての方は、「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!
その21
《 漫画家アシスタントが・・・コーラに驚いた!? 》
漫画家アシスタントに成ろうとする時に、大抵の人は、自分の画力と漫画家の背景画の難易度を計算するものです。
『 俺には、こんな背景画は描けないなぁ 』
‥‥と、思えば諦めるし、加川さんのように‥‥
『 この漫画家( ジョージ先生 )なら、俺でも楽に仕事が出来そうだなぁ 』
‥‥と、思えば気楽に漫画家の門を叩くことが出来ます。
徹夜の連続が嫌で〇森プロを逃げ出していた加川さんにとって、秋山プロのギャグ調の作風は背景画として安易なものに見えたのでしょう。
また、事実、かなりいい加減な背景でもありました。
建物や室内、さらには主人公が乗っている自動車さえも、前のページと繋がらないような( 前のページと違う自動車を描いてしまう )読者をなめ切ったような絵も多々ありました。
もっとも、背景画自体のクオリティーをジョージ先生は、ほとんどチェックしないで通していたのですから、他の作家には無いクソ度胸があったと言えるかと思います。
「 明るくな! 」
私は、23歳で秋山プロに入りましたが、10年位の間に数回そんな風に言われましたが、背景画についての細かい指示を受けた事はありませんでした‥‥ 今から考えても不思議ですが、本当です。
背景画に対する指示は、ただ一言‥‥
「 明るくな! 」
私の絵がよほど暗かったからかも知れませんが‥‥!
さて、話を色男の加川さんに戻しましょう‥‥
1969年の春、加川さんは、アシスタント希望者としてジョージ先生の仕事場を訪ねます‥‥‥‥
東京都新宿区下落合〇丁目にある4階建ての小さなマンション( 当時としては中クラス )へ‥‥‥‥
マンションの玄関は薄暗く、階段も狭く窓もないので大変暗いわけです( 写真がありますので、次回、公開したいと思います )。
各フロアには3世帯分のドアがあるのですが、とにかく小さいのです。廊下自体が畳で2枚分位しかありません。
ジョージ先生の部屋は『 301 』‥‥
加川さんにとってのマンションは「 高級 」なイメージ、さらに先生の部屋のドア前にはコーラの箱( 20本ケース )が3段重ねて置かれています。
そのコーラの量を見て‥‥
『 売れっ子漫画家は違うなぁ‥‥ やっぱり凄いや! 』
‥‥と、思いながらドアの呼び鈴を押します‥‥‥‥
競馬好きの加川さんは、耳には赤鉛筆、手には競馬新聞という風体で室内に案内されます。
かなり世間ずれしているというか、なめ切っているというか‥‥‥‥
『 イ~加減な野郎だなこいつ‥‥ 』
‥‥などと先生に思われたかどうかは、定かではありませんが‥‥‥‥
応接ソファに座ると、ジョージ先生の奥さんがさっそく冷たいコーラを出してくれました。
テーブルの上には、二つのグラスに先生用と加川さん用のコーラが置かれています。
奥さんがニコニコしながら台所へ戻ると‥‥ 先生は突然、加川さんのコーラに手を伸ばします。
「 あっ!? 」
ジョージ先生は、茫然とする加川さんを無視して、そのコーラをゴクゴクと一気飲みしてしまいます。
そして、空のグラスを加川さんの手元に置くと‥‥
「 おい、こいつったら、も~飲んじゃったぜ! 」
「 ‥‥‥‥! 」
目を丸くしたまま動けない加川さんをニヤリと見ながら‥‥‥‥
「 ズ~ズ~シ~野郎だよなぁ~~! 」
「 ‥‥‥‥‥‥ 」
「 なに~? もっと飲みたい~? 」
「 ‥‥!! 」
「 お~い、あと2本‥‥ いや3本! 」
加川さんは、先生と空になった自分のコップ、先生のコップ、台所の奥さん、視線を行ったり来たりさせながら‥‥
『 何て人なんだ! この人は! 』
アタフタする加川さんを横目に見ながら、ジョージ先生は一冊のノートを取り出します‥‥
「 アシスタント希望者リスト 」
何やらたくさん名前や住所の記されたノートを目の前に置かれたのです‥‥‥‥

その22
《 漫画家アシスタントが・・・電話を待ち続ける!? 》
「 ここに名前を書け‥‥ 」
ジョージ先生は、そう言ってアシスタント希望者リストの下を示しました。
沢山の名前と住所が並んだ、その一番下に自分の名前と住所を記入しながら、加川さんは思います‥‥‥‥
『 こんなに沢山の希望者がいるなんて‥‥ こりゃダメかもしれない‥‥‥‥! 』
先生の奥さんが笑顔で運んでくれた二本目( 実際は1本目 )のコーラを緊張感と共に飲み干します。
「 困ったよなぁ アシスタントに成りたいって奴が沢山いてよぉ‥‥ 」
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 」( 汗 )
「 ま‥‥2,3日したら、連絡すっからよ、もし、無ければ諦めてくれぃ 」
前に勤めていた〇森プロの経験からして、簡単にアシスタントに成れると考えていた加川さんにとって、ジョージ先生は不可解な人物でした。
どうなるのか、さっぱり見当もつかないまま先生のマンションを後にします。
毎日、毎日、先生からの電話を待つ日々‥‥‥‥( 今度は、母親に見られないようにハガキではなく電話で連絡を待っている )
2,3日で来るかと思っていたのに、一週間経っても電話がありません‥‥
『 こりゃ‥‥‥‥ やっぱり、ダメだったかな‥‥‥‥ 』
そう諦めようかとも思ったのですが‥‥‥‥ どうしても、諦めきれずにこちらから電話をしてみる事にしました。
「 もしもし‥‥‥‥ 加川ですが‥‥‥‥ 」
ジョージ先生は、例の低い声で‥‥‥‥( 静かなのですが、迫力があります )「 う‥‥‥‥ おめぃ~か 」
不安と緊張で受話器を持つ手は、汗でビチョビチョです‥‥‥‥
「 ‥‥‥‥仕事の‥‥‥‥事なんですが‥‥‥‥ 」
「 待ってたぜ 」
「 ‥‥‥‥! 」
「 明日からな 」
「 は‥‥ はいっ! 」
ジョージ先生は、他の先生とちょっと違っていて技術的な事でアシスタントの採用不採用を決めるのではなく、その本人の切迫感によって決める事が多いのです。
どれほど高い技術を持っていても、「 なんとなく 」とか「 アルバイト感覚で 」とかいった動機の「 薄い 」人を雇う事はありませんでした。
「 あの時、電話をしなかったら‥‥‥‥ 」
加川さんは、当時を振り返りながら‥‥‥‥ あたかも通って来た崖っぷちを振り返るように話します。
「 それで、終わってたと思う‥‥‥‥ 」
19歳の加川さんの新しいアシスタント生活が始まります。
9年後に連載漫画を得て独立するまで、ジョージ先生のアシスタントを勤めることになるのです。
ちなみに、先ほどの「アシスタント希望者リスト」ですが、あれはやっぱり先生の「 見栄 」( 創作物 )だったようです‥‥‥‥ ホントに、何を考えているんだか分からない先生なのです。
「 漫画家アシスタント物語 古い話で章〈12〉」へつづく・・・・
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