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漫画家アシスタント物語 古い話で章〈16〉 デビュー前の長い坂道を黙々と

 
《 写真上:仕事場近くの目白通りですが‥‥真夏のカンカン照りの時に撮影した写真です。今はもう9月で涼しくなりましたが、この写真を撮影した時は猛暑日で頭がクラクラしていました。ちなみに、写真に写っている人物の中に、スタッフが一人混じっていますが内緒です‥‥2014年8月撮影  》
         < この「古い話で章〈16〉」は、文庫本約8ページ分 >

 
 

「古い話で章」は、独立した「章」ですので、「諦めま章」の続きではありません。 無料で、各話、お楽しみいただけます!
 
ただし‥‥ 各話が連続していますので、
「古い話で章〈1〉」からお読みいただく方が、よろしいかと思います。
 
はじめての方は、
「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!

 

 
              その31

 《 漫画家アシスタントが・・・白髪になっても語り合う!? 》

 
描いた漫画が「 つまらない 」とか「 面白くない 」、「 ダメだね~ 」などと何本も没になると‥‥‥‥‥‥ 普通なら数本で諦めてしまうケースが多いものです。
 
「 ここを直せば良くなるよ 」とか「 これを変えれば面白くなるぜ 」といった先に希望の見えるような言い方もあるかと思いますが‥‥‥‥

当時( 1970年に20歳だった )加川さんが受けた批評は、ただ赤い『 × 』が各ページにビッシリと書き込まれているだけでした。

この繰り返しを毎週々々、続けて一ヶ月、二ヶ月‥‥ 半年‥‥ 一年‥‥

‥‥‥‥よく続いたものだと思います。

私なら、3~4本でダウンしたろうと思います。

これほどの集中と持続力、その結果は「 完全勝利 」とはいかぬまでも、技術的な成長や実力をアップさせたものと思われ‥‥‥‥

北千住の喫茶店で加川さんに話を聞きながら‥‥‥‥ 私は、ドラマチックな「 覚醒 」を期待して質問したわけです‥‥‥‥‥‥

「 それでも‥‥‥‥ だんだん回を重ねていくと、赤ペンの『 × 』も減っていったんじゃないですか? 」

「 そうねぇ‥‥‥‥ 良い時もあったかも知れないけど‥‥‥‥ 結局、10コマのうち9コマはダメだったねぇ‥‥‥‥ 」
 
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥しばらく‥‥‥‥‥‥ 沈黙。( 2014年、6月‥‥‥‥賑わう喫茶店の中で、私と加川さんは黙ってコーヒーをすすります )
 
 
こうして、秋山プロでの一年が経過するのですが‥‥‥‥ それでも加川さんの創作意欲は衰えませんでした。

結局、毎週1本で、50本以上‥‥‥‥
 
毎回、同じように赤い『 × 』だらけ‥‥‥‥ それでも諦めない加川さん‥‥‥‥

ところが‥‥‥‥‥‥‥‥ 

先に切れたのは、ジョージ先生の方でした‥‥‥‥

先生も我慢の限界が来たのか‥‥‥‥ ついにブチ切れてしまい‥‥‥‥

「 お前ぃ~は、描き過ぎなんだよ! 」

「 はぁ‥‥‥‥? 」

「 もう、描くんじゃね~~よ! 右手に包帯巻いとけっ! 」

そう言われて、加川さんは、本当に右手に包帯を巻いたそうです。

こうして、加川さんの漫画制作は中断します‥‥

懐かしそうに‥‥ 加川さんは当時を振り返って‥‥‥‥

「 つまらない漫画ばかり描いて、自分を追い込んでいたんだ‥‥ 」

そう語りながら、苦笑いするのです。

先輩の加川さんも私も、頭にはかなり白いものが混じり、すっかり年をとりました‥‥‥‥

それでも‥‥‥‥‥‥

喫茶店で話す姿は‥‥‥‥ 年金や病気の話でもしている高齢者に見えるかも知れませんが‥‥‥‥ 実は「夢」の話をしているわけです。

加川さんは、ちょっと笑みを浮かべながら‥‥‥‥

「 それからさぁ‥‥ 先生はよく『勉強しろ』って言うけどさ‥‥‥‥ 」

「 はい。よく言いますね 」

「 でも、若い頃なんか、その『 勉強 』の仕方も分かんないわけじゃない 」(笑)

「 確かに、『 勉強 』って具体的に何をど~勉強するのか‥‥ 何かを暗記するとか? 」(笑)
 

ところで‥‥

「 漫画の勉強 」‥‥とは何でしょうか?

そもそも、漫画なんて「遊び」だったはずなのに、いつから「 勉強 」になったのやら‥‥‥‥

「 勉強 」というと、普通は単語を覚えたり、参考書を読んだり、問題集を解いたりする事ですが‥‥‥‥

「 漫画の勉強 」とは何でしょうか‥‥‥‥?

一言では語れないほど難しい‥‥‥‥‥‥‥‥

私は、今( 2014年当時 )、大学で「 漫画背景 」を教えていますが、背景画なら教えられても、「 漫画の勉強 」を学生に教えられるのかどうか‥‥‥‥ 疑問です。
 
でも‥‥‥‥
 
今更、「 漫画の勉強って何をするんですか? 」なんてジョージ先生には訊けませんのです‥‥‥‥‥‥‥‥。

 

 


30年前の仕事場を撮影したものです。中央やや左にいるのが私です。1994年、1月、撮影

 
              その32

   《 漫画家アシスタントが・・・度胸を見せる!? 》

 
人生とは面白いもので、お気楽に怠惰な時間を過ごしていると‥‥ あっという間に時が過ぎ、記憶も薄っぺらなものになっていく‥‥

アシスタントの生活でも、漫画を描いたり資料を読んだり、絵やセリフの勉強をしたりしている密度の濃い時代の記憶は、しっかりしているのです。

ところが怠惰な時期は、ものすごいスピードで時間が過ぎてしまい、極端な話ですが‥‥‥‥ まるで浦島太郎が玉手箱を開けた瞬間のように、自分の頭が白くなっている事に愕然とするのに大変似ているのです。
 
実際は、私は40歳代で漫画を描くのをすっかり止めていますが、それからの10数年‥‥‥‥ 記憶が飛んでしまったのではないかと思われるほど、空しい‥‥‥‥ 本当に空しい‥‥‥‥ 過去の空白化‥‥‥‥ そんな印象があります。

ただ、楽しい時間というものは、人生においてとても大切だとは思いますが‥‥‥‥

怠惰に過ごしてしまうのは、その間、ゾンビのように「 死 」を生きている状態に近いのではないかとも思われ、今さらながら冷たい汗に気分が落ち込んで行くのです。

さて、私の先輩であり、多くの示唆を与えてくれた兄のような存在である加川さんですが‥‥‥‥

いよいよ、秋山プロを辞める時が来ます‥‥‥‥

何本もの作品( 絵コンテやネーム )をジョージ先生に見せに行っていた加川さんですが‥‥‥‥

「 おめぃ~は、描き過ぎなんだよ! 」

‥‥と、先生に言われてから6~7年間‥‥‥‥ ほとんど漫画作品を描くことがありませんでした‥‥‥‥ 少しは描いても、もう、無我夢中で描くんだという気持ちは無くなっていました。
 
しかし、絵の何処を直すのか‥‥‥‥ ストーリーの何処をどう直すのか‥‥‥‥ キャラクターの何処をどう直すのか‥‥‥‥ 重要な問題の突破口を見つけた訳ではありませんでした。
 
ただ‥‥‥‥
 
本を読んだり、映画を観たり、漫画制作に関係する事にはアンテナを張っていたわけですが‥‥‥‥ それでも、毎日を惰性で生きているようなスッキリしない日々が続いたのです。
 
 
それでも、漫画制作を止めてしまったわけではありません‥‥‥‥

実は、この頃、先生には内緒で出版社に自分の作品を持って行っていました。

その作品は、完成した原稿ではなく、タイトル画と絵コンテだけの代物で‥‥‥‥ これで連載を狙う度胸はさすがですが‥‥‥‥ 明らかに無謀でした。

S学館、K談社‥‥‥‥ それも「 週刊少年S 」やら「 週刊少年M 」やらの一流処への持ち込みです‥‥‥‥

結果は、悲惨で‥‥‥‥ 各社とも門前払い同然のあつかいだったそうです。

特に、K談社( ! )の「 週刊少年M 」の編集員は、ちらっとタイトル画を見ただけで、ろくに絵コンテを見もしないで、ポイッと原稿をデスクに投げつけたそうです。

これが、ようするに‥‥‥‥ 編集員の‥‥‥‥

『 チラ見でポイッ! 』

これをやられた人間は、生涯、この屈辱を忘れる事が出来ません。

もっとも、還暦を過ぎた現在の加川さん‥‥‥‥冗談でも話すような笑顔ですが‥‥‥‥ 目は笑っていません。

3分でも、感想を言ってくれる編集員に出会えるようなら‥‥‥‥ まだましな方でしょう。

長い時間、苦しみながら描いて、電車乗り継いで持って来てるのに‥‥‥‥ 『チラ見でポイッ!』じゃ~救われません。
 
「 何故、ダメなんだろう? 」
「 何処が悪いんだろう? 」
「 どうしたら良いンだろう? 」

ボツ原稿をかかえて、あの神保町の町をトボトボと下を向いて歩く時に思う事は、誰でも同じようなものです‥‥‥‥‥‥
 
加川さんは、20歳代の‥‥ 若い頃の自分を思い出しながら‥‥‥‥
 
「 今から考えてみれば‥‥ 当然なんだよ‥‥‥‥ だって、面白くね~~んだから! 」( 笑 )
 
  
 
  
 
     「 漫画家アシスタント物語 古い話で章〈17〉」へつづく・・・・
                 「古い話で章〈15〉」へもどる‥‥
                        「もくじ」 へ‥‥
 
 
 
 
 
 
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