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漫画家アシスタント物語 古い話で章〈5〉 奥さんからの内緒話‥‥

 
《 画像上:仕事場のドア前から撮影した目白通りのイチョウ並木です。正面奥が池袋サンシャインビル、右の方へ行くと目白駅があります。2013年 》
          < この「古い話で章〈4〉」は、文庫本約8ページ分 >

 
 
「古い話で章」は、独立した「章」ですので、「諦めま章」の続きではありません。 無料で、各話、お楽しみいただけます!
 
ただし‥‥ 各話が連続していますので、
「古い話で章〈1〉」から読みいただく方がよろしいかと思います。
 
はじめての方は、
「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!
 
 
 
 

 
               その9

   《 漫画家アシスタントが・・・原稿のシワをのばす!? 》
 
 
「 先生、自転車を買って下さい 」

一日に4回、ジョージ先生の仕事場まで往復するのに40分以上かけることの無駄に気付いていたテラさんは、先生に進言します。

「 おお‥‥ そうか‥‥‥‥ 」

すんなりと先生はOKしてくれるだけではく‥‥‥‥

「 いい考えじゃねぃ~か! 」
‥‥と、褒めてくれさえしました。

そして、しばらく‥‥ 優しく‥‥‥‥ でもにらむように‥‥‥‥ 先生は黙ってテラさんを見つめながら‥‥‥‥

「 おめぃ~は、ウイタ( 仮称、先輩アシスタント、先生の一番弟子 )の事を考えてたんだろ‥‥? 」

ジョージ先生は、見透かした様に言うわけです。

ウイタというのは、最近(1970年頃)、仕事場を辞めた先輩アシスタントで、長髪で痩せていて、いつもアパートでプロレスごっこをした時に、皆から技をかけられていた先輩です。

「 おめぃ~は、ウイタの事を考えて、ずっと今まで遠慮して黙ってたんだろう‥‥? 」
「 ‥‥‥‥‥‥??? 」

突然、辞めた先輩のウイタさんの話が出てきたので、何のことやらサッパリ意味が分からないテラさんは、一瞬、固まりますが‥‥‥‥

先生は、そんな事には気付かずに‥‥‥‥

「 ウイタ( 手に障害があった )は、自転車に乗れなかったから、おめぃ~は、ウイタの気持ちを気遣って今まで( ウイタ先輩が辞めるまで )言うのを我慢してたんだろう‥‥?」
「 ‥‥‥‥‥‥ 」( まだ固まっている )
「 おめぃ~は思いやるりがあるなぁ‥‥‥‥ 」

ジョージ先生は口元にかすかな優しさを見せながらテラさんを見つめています‥‥‥‥

しかし、この時、テラさんはウイタ先輩の事など何も考えてはいませんでした。

まったく、ウイタ先輩の事など頭にはなかったわけで、遠慮だの、気遣いだの、思いやりだの‥‥‥‥そんな気持ちはこれっぽちもなかったのです。

しかし‥‥‥‥‥‥
 
「 おめぃ~はイイ奴だなぁ‥‥‥‥! 」
‥‥と、ジョージ先生にめられると‥‥‥‥
 
‥‥つい‥‥‥‥‥‥
 
「 はぁ‥‥ いや‥‥ そんなぁ‥‥‥‥ 」
 
‥‥などと、謙遜でもしているような照れたそぶりを見せるテラさんだったわけです。

こうして自転車を買ってもらって、毎日、4回、先生の仕事場( 新宿区中落合 )まで原稿運びをする事になったのですが‥‥‥‥

ある日、数枚の原稿を先生から受け取り、それを自分たちの仕事場( 豊島区千早町 )へ運ぶ時に、原稿の入った袋を前輪にからませてしまう失敗をやらかしてしまいます。

B4( ヨコ25㎝×タテ36㎝ )の茶封筒ごと前輪のスポークにからまってグシャグシャッと音を立てたのであわててブレーキを踏みますが‥‥‥‥

原稿はグチャグチャになっています‥‥‥‥ 慎重にスポークからはずして、膝にすり付けるようにシワを伸ばしてもどうにもなりません‥‥‥‥

血の気が引くような寒気を感じる‥‥ それなのに、嫌~な汗で全身がグッショリと濡れる‥‥‥‥

とにかく、そのまま急いでアシスタントの仕事場へ向かいます‥‥‥‥

「 何だぁこりゃ? 」
「 どうしたんだよ、これ? 」

先輩たちが茫然としている中、テラさんが経緯を説明します。

「 急に強い風に吹かれちゃって・・・・・・ 」

幸いに原稿が大きく破れているわけではないので、小さな破れ目にはセロテープを張って補修、後は、グシャグシャになった原稿のシワのばし‥‥‥‥

しばらく、全員でシワのばしをして、形だけは整えます‥‥‥‥

それに、背景を入れて仕上げれば、何とか完成にこぎつけたわけです。

これが、完成原稿( 背景画を完成させた原稿 〉をグシャグシャにしたら大変だったのですが、まだ、仕上げの前だったので、助かったそうです。

「 いや~~ あん時は ヤバかったよ~~ 小池ちゃん! 」

‥‥と、テラさんは笑います。

 
 
 
 


目白通りが中落合辺りで二股に分かれる商店街を撮影したものです。テラさんがこの近くを自転車で原稿運びしていた頃や、私が暮らしていた1979年頃は『二又商店街』という名前でした。その後『ニコニコ商店街』に変わり、さらに現在は「トキワ荘通り」なんてと呼ばれているようです。

 
               その10

 《 漫画家アシスタントが・・・奥さんから内緒話を・・・!? 》


1970年といえば、すぐに「 エキスポ70 」を思い出しますが、この年は、漫画「 子連れ狼 」( 双葉社 )やアニメ「 あしたのジョー 」( 講談社 )が流行り、私の師匠であるジョージ先生の「 アシュラ 」( 講談社 )なども随分と話題になりました。

音楽では、ちあきなおみ、由紀さおり、そして藤圭子の大ヒットにビートルズの解散‥‥

ボロボロの木造モルタルアパートの小さな一間に暮らすテラさんも、ジョージ先生の所での仕事も1年近くになりました。

いつもの様に朝10時頃に、仕事場へ向かいます‥‥

まだ、先輩アシスタントたちは寝床の中ですが、早く先生の所から原稿を持って来ないと、アシスタントたちの仕事が始められません。

自転車をこいで10分ほどで新宿区中落合にある先生の仕事場へ到着します。

先生よりも先に仕事場に着くと、預かっている合鍵を使って仕事場に入ります。

‥‥と、その日はいつもとちょっと違いました‥‥‥‥ 先生ではなく、先生の奥さんが先に来ていたのです‥‥‥‥

奥さんは、映画俳優の宮崎美子氏によく似たポッチャリとした可愛い人だったそうです。( 私は、40歳を過ぎた頃の奥さんしか知りませんが、若い頃にはけっこう野郎どもからモテたのではないかと思います。1995年頃に病没されました )

テラさんは、奥さんが部屋に来ている事は一、二度あった事なので驚きはしませんでしたが‥‥‥‥

丁寧に掃除をしているのか、なにか探し物でもしているのか‥‥ 少し、不自然な感じがありました。
 
ただ、18歳のテラさんに当時27歳だった奥さんの気持ちがわかるはずもありません。
 
「 あの頃は、俺も子供だったから全然わからなかったけどさ‥‥ 奥さん、先生の浮気を調べていたんだよ 」

先生の机周りやゴミ箱の中など、浮気の痕跡( 証拠品 )を探していたわけです。

まだ、18歳のテラさんは‥‥

『 今日は、お掃除なんだな‥‥ 奥さんも大変だな‥‥ 」

‥‥くらいにしか思っていなかったわけです。

しかし、その日は、奥さんが真剣な顔でテラさんに話しかけてきました‥‥
 
「 テラちゃん、先生、この頃おかしなところがな~い? 」
 
‥‥こんな質問をされて、何のことやらさっぱりわからないテラさんは‥‥
 
「 はぁ‥‥ 別に‥‥ 何もありませんけど 」
 
ちょっと変だな‥‥ とは思ったのですが‥‥‥‥ それが、浮気を調べていたのだとは、ずっと後になってからわかった事です。
 
何もないと言われた奥さんは、小さな声で‥‥
 
「 テラちゃん、この事は内緒にしておいてね! 」

まだ若くて純真だったテラさんの素直な言葉に、奥さんは安心されたのではないかと思います。

私が秋山プロに来た頃は、「 浮浪雲 」( 1977年より現在まで小学館『 ビックコミックオリジナル 』に連載中 )が全盛期で、新宿やら銀座で盛んに遊ぶ先生しかイメージがなかったのですが、1970年頃の先生は、意外と真面目だったみたいです。

18歳のテラさんに先生は‥‥

「 俺ぃは女の所には泊まらねぃ~よ、部屋へ行っても添い寝しかしねぃ~からよ 」

‥‥と、言っていたそうです。

また‥‥

「 俺ぃは『 添い寝のジョージ 』って言われてるんだよ 」

「 添い寝 」というのが真面目なのかどうかは知りませんが‥‥‥‥

ただ、テラさんは、昔を懐かしみつつも先生については、キッパリとした口調で‥‥

「 先生は仕事一筋の人だよ。イ~加減な人間だったら連載なんか続けられないよ! 」

確かに、先生がイ~加減だとは思えませんが‥‥‥‥ 女遊びもするし、金も使うし、女房も泣かす、でも、何本もの連載が滞らない‥‥‥‥ だから常人では真似出来ない凄さがあるような気がするのです。
 
 
 
 
 
     「 漫画家アシスタント物語 古い話で章〈6〉」へつづく・・・・
                  「古い話で章〈4〉」へもどる‥‥
                        「もくじ」 へ‥‥
 
 
 
 
 
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