漫画家アシスタント物語 第2章〈6〉 豪傑伝説・・・・もう限界!
《 画像上:別冊ヤングジャンプに掲載された「覇王の船」のラストシーン》
< この2章〈6〉は、文庫本約10ページ分 >
その21
村野守美先生の逸話はたくさんあります。多くは先輩アシスタントから「 ここだけの話だけどね・・・ 」と、こっそり教えていただきました・・・・・( 1977年昭和52年 まったく、クソ暑い夏 )
逸話のほとんどは、( 有名な )某漫画家とのケンカ話や、手塚先生の虫プロで仕事をしていた頃に、スタッフたちを驚かせた武勇伝など・・・・・
でも・・・・・・特に印象深いのが・・・・・・暴走族を相手に大立ち回りの殴り込みをやってのけた事( 日本刀で暴走族と喧嘩 )・・・・・・どれも興味深い話なのですが・・・・・・・・
なにぶん「 伝聞 」による話だし、本人に確認したわけでもありませんので、残念ながら省略させていただきますが・・・・・( 短編小説にはしたいと思っています。2025年4月 )
私がいた一週間の間に実際に見聞きした事だけでもお話いたしましょう・・・・・・・・
まず、出版社とのケンカ・・・・・・・
村野先生が単行本を出版した時・・・・・・印税として約束した金額が売れ行き不振を理由に減額された事に怒りを爆発。電話で担当編集員を怒鳴りつけていました。
そしてもう一つは、中古のコピー機の調子が悪い事を電話で業者に文句を言っていた事。 ものすごい剣幕で怒っておられました。
アシスタントが仕事場や路上で怒鳴られるのは毎日の事でした。私に対しては・・・・・
「 劇画屋の絵はダメだ! 」
先輩アシスタントには絵の構図が悪い事で・・・・・
「 何やってんだ! これは何だ! 」 ( 路上で説教! )
日本で一番美しく、やさしく、ほのぼのした漫画を描く村野先生が、漫画界一の「 豪傑 」であると言われている事を知ったのは辞めた後の事です。
ここで誤解を避けるために言っておかなければならないのですが、村野先生は怒る時は怒る人ですが、間違った事は仰ってはいません。
ただの一言も曲がった事は言っていないのですが・・・・・・・私にはどうも・・・・・・・ついていけないわけで・・・・・・・・
最後に一つだけ・・・・・村野先生が直接話してくださった面白い(?)話を・・・・・・・ご紹介させていただきます。
先生はゆっくりと‥‥ 静かに話し始める‥‥
有名な某宗教団体の信者さんが村野先生の所へ勧誘にやって来た時の事です。
宗教の話だけして、さっさと帰れば良かったものを・・・・・・
黙ってうなずきもせず一言も発しない村野先生の顔色を判断して。早々にあきらめて退散していれば、あんなに恐ろしい目に会わずにすんだのに・・・・・
・・・・・
信者さんは、自分の人生を変え、望みを実現し、世界を変える事を、一人でしゃべり続けます。 完全に自分のペースで、相手を説得しているつもりになって‥‥‥‥
宗教と命、世界平和と革命精神・・・・・・まだまだ続く‥‥‥‥暗記された宗教理念を村野先生は黙って聞いている・・・・・・
まだ、聞いている‥‥‥‥動かぬ岩のように‥‥‥‥
爆発寸前の活火山のように・・・・・・・・

その22
宗教信者の長広舌を村野先生はジッと耐えておられた・・・ ( 1977年昭和52年,クソ焼けしそうな夏 )
「 静かなること林の如く・・・ 動かざること山の如し・・・ 」その山が・・・・・ついに動く・・・・いや、噴火する!
その信者は自分の饒舌に酔うように・・・・・・人の生まれながらの不幸や不運を運命やら宿命やらてんこ盛りで説き続ける・・・・・・
村野先生は、幼少期の事故で足が不自由なのだが、その足の障害について信者が先祖の因縁だの宿業だのと話し始めた・・・・・・・
「その障害は、あなたの先祖の業である」
その瞬間‥‥
村野先生は、信者の目をにらみ付ける。
憤怒の形相でにらみ付ける!
信者はこの時、体の血液が凍り付いた様に固まる・・・・・・・もう手遅れだ!
「 俺の目を見ろっ! 」 と、先生は怒声一喝!
さらにつづけて・・・・・
「 お前は死ぬっ! 」 先生は、人差し指を信者の眉間へ突きつける。
彼は完全に茫然自失・・・
「 俺の目ににらまれた者は必ず死ぬっ! 」
「‥‥‥‥」口を開き、愕然とする信者
「お前は、必ず死ぬっ!」
信者、あわてて目をそらし、震えながら・・・・・
「 そ・・・そんな事を・・・・・ 」
「 俺の目を見ろぉ~っ! お前は死ぬんだぁ~~っ! 」
「 そ・・・そんな事をしてはいけません・・・! 」
足の悪い村野先生は、膝でジリジリと信者に近寄る
「 目を見るんだあああ~っ! 」
「 やめて下さ~~いっ! 」
「 お前は死ぬ~~~っ!」人差し指を信者の眉間に突きつける。
「や‥‥やめてぇええええっ!」
信者は、震えながら立ち上がる‥‥
「死ね、死ね、死ね~~~~~~っ!」
気の毒な信者は、顔を隠すように、そのまま玄関の外へ逃げ出して行った・・・・・・。
村野先生はそこまで話してから、嬉しそうにニコニコ笑いながら、目を丸くして聞き入っている私に・・・
「 ウソは言ってね~よなぁ? 」
「 ・・・・・・? 」
先生は、無邪気な子供のように
「 誰だって一度は死ぬんだからよぉ! 」
「 ・・・・!」
「 ガッハハハハハハッ 」
この先生を何て面白い人なんだと思う反面・・・これほど怖い人もいないな・・・・・・と、一緒に笑いながら少し背筋が寒かったのを覚えています。
毎日が緊張の連続・・・・・・自分のいる場所がないような漠然とした不安・・・・・そして、凧の糸が切れるように、あっけなく別れの時が来ます・・・・・・・

その23
とにかく、緊張した毎日でした・・・・。 ( 1977年昭和52年 夏 )
そして、その緊張は一週間しかもたなかった。緊張の連続はつまらない些細なミスにつながる・・・・・。
毎日、何度ととなく怒鳴られる・・・・・。
日に何回怒鳴られたか思い出せない・・・・。
勤め始めてから4,5日して・・・・・・
「 忙しくなってから辞められると困るから、辞めるんなら今辞めろ! 」
この言葉を3回聞いたら辞めようと思っていた・・・・・ 二日と経たぬうちに、その時が来た。
簡単だった。
「 では辞めさせていただきます。 」
一週間何をやったのやら、2~3ページの仕事と犬の散歩、野球につり堀、ゴミ焼きに皿洗い・・・食って、寝て・・・朝起きたら、犬のフン始末・・・・・
それだけで終わった。
しかし、不思議と一つ一つの事が鮮やかに記憶されている。 濃密な一週間でした。
村野先生の所でのエピソードを最後に一つだけ書いておきます。それは・・・・・・・・ちょっとせつなく、申し訳ない事・・・・・
村野先生には奥さんと小学生のお嬢さんが一人おられました・・・・ 我々アシスタントはよく「 先生は怖いよなぁ~ 」などとぼやき合う事がありました。
ある時、先生の奥さんに呼び止められ・・・・
「 小池くん、○○( お嬢さんの名前 )の前で、先生が怖いって言わないでね‥‥ 」
「 ‥‥‥‥ 」
「 あの娘はアシスタントのお兄ちゃんたちが大好きなの・・・・・だから先生が怖いって聞くと、とても悲しむのよ・・・・ 」
「 ‥‥‥‥ 」
「 だから・・・ね‥‥ 」
「 はい‥‥‥‥ 」
村野先生の所で強い影響を受けた私の背景技法は、後にジョージ秋山先生の所で発揮されます。
大胆な構図、斬新な筆使い・・・・・・未熟者がただテクニックを表面的にマネした時に起こる悲劇的な結果を・・・・・・当時、予想する事は出来ませんでした・・・・・・・。
漫画雑誌「 ビッグ コミック オリジナル 」( 小学館 )に連載中の「 浮浪雲 」の仕上がった背景のその悲劇的な結果を見て、ジョージ秋山先生が・・・・・・・
「 な‥‥何だぁ! この絵は・・・・・? おみ~のこの絵は何なんだよぉ! 」
日焼けした黒い顔を赤黒く怒張させるジョージ先生・・・・・・。
「 おみ~はよぉ~っ・・・ 何考げ~てっだよぉおお! 」
「 は・・・はあ・・・・・・? 」

その24
村野先生の所を辞めてから、また例のごとくアルバイトニュースを毎朝、始発電車が出る頃、駅前売店へ買いに行く日々がつづく・・・・。
アルバイトは意外と簡単に決まった。TBSテレビのスタジオの美術係・・・・・・・と言ってもTBS本社のバイトではなく、その下請けで建具をスタジオ内に組み込む仕事をしている会社のバイト・・・・・。( 1977年 昭和52年頃 )
漫画とは全然関係ないんだけど、漫画家志望の私を結構面白がってくれる人たちが多く、普通のサラリーマンの世界とは違って明るく自由な雰囲気が楽しい職場でした。
当時のアイドル、ピンクレディー、松坂慶子、南沙織、桜田淳子etc・・・・・多くの芸能人を見ました。( 「 会えました 」と書くより、口を利く機会もなく、ただ「 見ました 」「 通り過ぎました 」と書く方が正確 )
中でもドリフターズの「 8時だよ、全員集合! 」のロケや、吉永小百合さん( おもわず敬称付き! )とドラマの仕事をした事は最高の思い出です。
毎日、ドアやらフスマやら、あちらのスタジオ、こちらのスタジオと運んで組み立てる。撮影が終わるとバラして戻す‥‥‥‥汗とホコリまみれになる肉体労働。
和田さん、石川さん、高野さん‥‥‥‥みんな、私なんぞとは大違いの働き者で、めちゃくちゃ優しかった。漫画家に成ろうとしなかったら、そこでずっと建具を運んでいたかもしれません。
さて、第2章もいよいよ終わりです。
第3章からは40年近くアシスタントをやる事になるジョージ秋山先生のところでの出来事の数々です。
「 漫画家アシスタント物語 」はここまでが序章で、ここからがまさに本編という事になります。
アシスタントの生活、漫画家志望者の希望と挫折・・・・幻想と絶望・・・・・その全てがこの第3章に描かれます。
《第2章、2005年2月~'05年7月:初公開》
~~ 《 追記 》 ~~~~~
拙ブログが出版される時に、登場する漫画家先生方から実名表記の承諾を得ています。そのため、このブログは出版化された日より、漫画家名や一部の人物、出版社など、実名表記させていただきました‥‥。
ただ、新しいブログ掲載による未承諾の先生方、実社名等の表記にご懸念のある方は、是非、ご一報下さい。 どうか、よろしくお願いいたします。
「第2章」まで、お付き合いくださって、本当にありがとうございました!

★ 「第3章」は、いよいよアシスタント人生の本番スタート! ジョージ秋山先生へ弟子入り。最初からドジ踏みますが‥‥‥‥まだまだ序の口です!
「 漫画家アシスタント物語 第3章 」 へつづく・・・・
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