アメリカAI行動計画(トランプアクションプラン)と州法の関係性 / 【速報版】トランプ「ONE RULE」大統領令の可能性雑感
0 はじめに
つい先日、「アメリカAI行動計画(トランプアクションプラン) / Winning the AI Race: America’s AI Action Plan」をまとめる記事を出した。
それぞれのAIに関する州法を日頃追っているとかなり華々しくなってきていた。そうした背景を踏まえるに、トランプ大統領から州法に関する何らかの発信がそろそろくるであろうと漠然と予想していたのも理由の一つにある。
これまで意図的に州法についても取り上げてきたが、今回の雑感はそれらも確認した上で読んでいただけると幸いである。
世界のAIガバナンスを見るにあたって一番注意すべきは、”アメリカは推進、EUは規制”というバイアスである。
アメリカのAI行動計画(トランプアクションプラン)は促進ベクトルと取れるが、カリフォルニア州・テネシー州等、州法レベルまで目をやるとかなり厳格な規制が準備されていることが多い。アメリカについては州法まで目を配りつつ検討することが不可欠であるといえる。
今回の雑感をそれを念頭に置いた上で読んでいただくと分かりやすいものと思える。
There must be only One Rulebook if we are going to continue to lead in Al. We are beating ALL COUNTRIES at this point in the race, but that won't last long if we are going to have 50 States, many of them bad actors, involved in RULES and the APPROVAL PROCESS. THERE CAN BE NO DOUBT ABOUT THIS! AI WILL BE DESTROYED IN ITS INFANCY! I will be doing a ONE RULE
Executive Order this week. You can't expect a company to get 50 Approvals every time they want to do something. THAT WILL NEVER WORK!
「There must be only One Rulebook if we are going to continue to lead in AI(AIでリードし続けるには、ルールブックは一冊でなければならない)」
「AI will be destroyed in its infancy(AIは未成熟な段階で破壊されてしまう)」
トランプ大統領がTruth Socialにこう書き込み、今週中にも「ONE RULE Executive Order(一つのルール大統領令)」を出すとも読めるような発信をしたのは、現地時間2025年12月8日である。
実は今年7月、連邦議会(上院)は「州AI法の10年間モラトリアム(一時停止)」案を99対1という圧倒的多数で否決している。が、予想よりもはるかに早く、再び議論の時が来たといえる。
今回は、この動きを単なる規制緩和としてではなく、「法的確実性」と「規制の空白」という観点から整理し、雑感としてメモしておきたい。
1 「ONE RULE」大統領令の可能性
一部の報道やトランプの投稿によれば、今回の大統領令は、AI企業が直面する承認プロセスを減らし、50州の規制を「ワンルール」に一本化することを目的としている。具体的には、司法省に「AI訴訟タスクフォース」を設置して州法を無効化する訴訟を提起させることや、連邦機関(FCC/FTC)に州法を上書きする権限を行使させることなどが想定・予想されている。
重要な文脈は、これが「プランB」であるという点だ。議会ルートでの「州法一律禁止」が全会一致に近い形で頓挫したからこそ、(やや大袈裟かもしれないが、)トランプ政権は大統領令という行政権限を用いた強行突破に出たとも捉えることができそうではある。
2 「法的確実性」か、それとも「非生産的」な禁止か
この動きをどう評価すべきか。ここには深いジレンマがある。
肯定的な側面を見れば、包括的な連邦AI法の制定自体は、企業にとっての「法的確実性(Legal Certainty)」を担保し、イノベーションを促進する上で極めて望ましい発展といえなくもない。50通りの州法に対応するコストがスタートアップの体力を奪う現状は、確かに是正されるべき課題といえる。
しかし、今回の「ONE RULE」構想が孕む論点は、信頼に足る連邦の安全基準が確立されていない状態で、州法だけを止めようとしている点にある。
州法禁止「だけ」が先行することは、生産的ではないとも言えなくはない。コロラドやカリフォルニア等の州法が手当てしようとしている安全性、倫理、権利保護といった懸念に対し、連邦が何の受け皿も用意しなければ、そこには巨大な「規制の空白」が生まれる。それは結果として、AIに対する社会的不信を招き、法的リスクを増大させる可能性もなくはない。
3 日本のAIガバナンスへの含意
日本からこの動きを眺める際、以下の三つの示唆が得られる。
第一に、アメリカの動向を多層的に捉える必要性である。連邦レベルでの緩和の流れと、州レベルの実務的な規制(およびその禁止を巡る法廷闘争)はセットで理解しなければならない。
第二に、「一つのルールブック」幻想への警戒である。日本でもルールの統一化を求める声は強いが、産業構造やリスクが複雑化する中、拙速な一本化が必要なガードレールの撤廃につながらないか注意が必要だろう。法的確実性は重要だが、それは何でもありを意味しないことに留保する必要はあるだろう。
第三に、この論争が長期化する前提で構えることである。上院が拒絶した道を大統領令で進む以上、州司法長官らによる激しい抵抗は避けられない。日本企業は、トランプのSNS投稿に一喜一憂せず、実際の執行状況を注視する姿勢が求められる。
4 おわりに
「ONE RULE」はビジネス界にとっては魅力的な響きを持つが、その実態が秩序ある統一なのか、それともAIガバナンスを未成熟なまま放置する「空白」なのかは、まだ見通せない。
確かなことは、AIの主導権を握るためのルール作りを巡る戦いが、新たな、そしてより激しいフェーズに入ったということであるよう思える。
今後も注視し動きがあれば、AIと法雑感で引き続き取り上げたい。
【出典】
1 Donald J. Trump, Truth Social (@realDonaldTrump), 2025年12月8日付投稿
2 Rebecca Bellan, “‘ONE RULE’: Trump says he’ll sign an executive order blocking state AI laws despite bipartisan pushback,” TechCrunch, December 8, 2025.
3 “Trump to issue order creating national AI rule,” Reuters, December 8, 2025.
4 David Morgan & David Shepardson, “US Senate strikes AI regulation ban from Trump megabill,” Reuters, July 1, 2025.
(マガジン)「AIと法-雑感」
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