会いに向かう時間から、再会は始まっていた
娘たちに会う前の朝から、すでに旅は始まっていたような気がした。
大切な人に会いに行く今回の旅は、再会の瞬間より少し前から、心が動き始めていたように思う。
夜行バスで都会に着くと、通勤ラッシュ前のまだ静かな電車で移動できるのが、私は好きだ。
地方からの旅行は、どうしても大きなバッグが手放せない。だから、目的地まではできるだけ満員電車を避けたい、といつも思う。
夜中に出発したバスは、ひと気が少ないターミナルに到着。
シャッターが並ぶ地下街を通り抜ける。
ホームでも並ぶことなく、電車には余裕で座ることができた。
今回の旅は、お上りさんにもやさしい朝の時間から始まった。
待ち合わせまで、たっぷり時間がある。
いきあたりばったりで楽しもうと思った。
「そういえば、行ったことなかったね」
そんな夫のひとことで、サザンビーチへ行ってみることにした。
暑くも寒くもない、薄い水色と雲が混じった空。
海風に帽子が飛ばされそうになりながら、砂浜のやわらかさをスニーカーの底に感じていた。
少し先では、荒々しい波に乗ってサーフィンを楽しんでいる人たちが見える。
烏帽子岩や江の島が、遠くの水平線に浮かんでいた。
ここが、あの有名なサザンの曲が生まれた場所なんだ。
潮風をからだ全体に感じながら、目の前にある歌の世界に浸っていた。
帰りは、茅ヶ崎駅まで、コミュニティバスに乗ってみた。
「駅までの時間は、どれくらいかかりますか」
前に並んでいた人に尋ねると、地元に住んでいるらしいその男性が、
「ぐるっと回るから、20分くらいですかね」
とていねいに教えてくれた。
「ありがとうございます」と返したとき、
自然に笑顔になっている自分がいた。
停留所ごとに乗る人が増えていき、駅に着くころには小さなバスは、ほぼ満員になっていた。
窓の外には、洋館風のおしゃれな家や、少し年代を感じさせる店の街並みが流れていく。
車内には、高齢の女性たちの明るくにぎやかな声が広がっていて、その空気に混ざるうちに、気持ちも軽くなっていた。
そんな街の日常の一コマに触れながらバスに揺られていると、娘たちとの待ち合わせの時間が近づいていた。
再会は、会った瞬間から始まるんじゃなくて、会いに向かう時間から始まっていたのだと思う。
偶然巡り合った、海の風や波の音、その土地で暮らす人の空気まで、その日の再会の一部になっていく。
大切な人に会う日は、その前の何気ない時間まで、あとから大事な思い出になるのかもしれない。
