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geogeist
照射|碧い夜の声|あわいの掌編集3|シロクマ文芸部《眠れない》
静かな夜に遠くの声がよみがえる。その記憶は、淡い光のように揺れていた。あの夜に言えなかった想いが、今ようやく胸の奥で形になる。
「眠れないなら、そばにいてあげる……」
やわらかなアルトの声が、ふと耳をくすぐった気がして、わたしは夜中に目を覚ました。
隣では妻が、むにゃむにゃと言葉にならない音を漏らしている。
夜更けの寝室は明かりが落ちて、月の白い光だけが薄布越しに漏れる。
◇
わたしはあの頃、見知らぬ土地でのひとりの生活に押し潰されそうで、ふるさとに、青い約束ごと残してきたその声だけを拠り所に、どうにか毎日をやり過ごしていた。
「……一晩中でも、いてあげる」
わたしは彼女に何を求めたのだろう。
愚痴だったのか、不安だったのか、それとも希望だったのか。
そして、あの夜ごとに、彼女はどんな言葉をくれていたのだろう。
その声や内容はもはや曖昧で、肝心なことは夢の彼方にある。
でも、枕元で受話器を握りしめて、その声を聞きながら浅い眠りに落ちて、いつの間にか次の朝が来て、だからこそ今のわたしがある。
だけど、その電話越しの声も、もう遠い記憶になっていた。
◇
「むにゃ……ないなら……いて……」
薄明かりの部屋に、糟糠の妻の寝息まじりの声が零れた。
それは機械越しの声とは違う、生の気配があった。
寝入る前にふっと浮かぶ黒猫のような薄い笑みも、遠い昔と変わらない。
でも、その声は、もう遠いものではなかった。
今日、青い花を買って帰ろう。
あの夜の気配が、戻ってくるような気がした。
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