硝子の靴異譚02|ブルーハワイ|風まかせ文芸部《青のグラデーション》
かぼちゃの馬車が野菜に戻ったら、帰るにしても方法はない。
でも、初対面の女性を連れ込むような場所では、ないのではなくて?
夜更けのファミレスのソファー席。どうして、わたしはこの人とここにいるんだろう。
なのに、心がすっぽりそこに収まってしまったの。
隣国の第一王子。真面目で朴訥で、少しピントがズレた人。
合コンの後片付けを、店員さんみたいにひとりでしちゃう人。
落とし物のつっかけを掲げて、真剣に考えちゃう人。
終電に乗り遅れたら「ドリンクバーでオールナイト」なんて言っちゃう人。
酔いのせいで、ちょっとだけ頬の温度が高い夜。ストロング酎ハイって、強いのね。
これでも、わたし王女なのよ。まあ、あなたとてそうだけれど。
飲み放題の安いドリンクを、ちゅうちゅうと吸っているだけなのに、どうして、それだけのことなのに、いつもの恰好が少し場違いに思えたのかしら。どうして、あんなことを聞いちゃったのかしら。
「あなたにとって、国家って何?」
「それは、わけへだてなく笑い合う場所である」
ダイアンサス王家のお印(しるし)は、代々紅玉。その熱い赤を宿しながら、王子様の紡ぐ言葉は、青さの階調をそのまま言語化したようだった。その透明な青に触れた瞬間、わたしの中の何かが、揺れた。
王家なんて、この世界ではゲームの中の数あるロールのひとつにすぎない。そのロールをどう演じるかは、わたしたちのスキル次第よ。
そういえば、この人は、誰かが困らないように動くほうを選んでいる。それが、この王子様のロールなのかしら。
硝子の靴なんて、誂えられたロールの象徴みたいで、好きになれない。
でも、この人なら、つっかけでお見合いに出かけていくようなわたしでも、そのまま受け止めてくれるかもしれない──そんな気がしちゃったの。
ソファーの柔らかさに、お尻が少し痛くなった頃。崩れたメイクのまま、ふたりで迎えた夜明け。
紺青の空がゆっくりと白みはじめ、柔らかな階調を描きながら、夜がほどけていく。ブルーキュラソーがソーダ水に溶けるように、色が淡くなっていく。
やがて、空に差し込む赤い光は、グラスの底のサクランボのように鮮やかで、その赤は、わたしのマリノールの碧玉へ、彼の紅玉がふっと入り込んだようだった。
「おはよう」
ケイザリオン王子が、そうはにかんだの。
「おはようございます」
ここで完璧な所作でコーツィ。
やればできるのよ、足元はつっかけで、マスカラのパンダ顔だけど。
でも、このふわふわした不思議な気持ちは、いったい何なのかしら。
◇
「そりゃ、もう恋じゃな──疑う余地なく」
ああ、若いふたりを慮って夜通し黙しておったが──
つい堪えきれずツッコんでしまった。
「ねえ、あなた。その語り、今はとっても野暮よ」
隣の妻が、そうわたしを窘めた。
おしまい。
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