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#503[短編]琥珀色の間[11]──香りが照らす心の輪郭

熱を帯びたてのひらで背中を往復するミシマ。爽子はミシマの言葉を反芻はんすうしては思考を巡らせた。


1話2話番外編・大翔ひろと3話 -I3話 -II3話 -III4話5話-I5話-II5話-III5話-IV、本稿

※ 連載ですが、どのお話からも読めます。


大翔ひろとと知り合った翌日、高校の先輩・ミシマの家に呼ばれた爽子は思わぬ展開に緊張していた。第12回。

爽子さわこは何度も、ミシマの言葉を思い返していた。

──自分も、大翔さんも、澪さんの「場」のキャスト。

澪さんの「場」を壊さないこと。
澪さんも「お客さんの場」は壊さないから──。

ミシマの声が落ち着いて背中に降りてくるたび、
爽子は昨日の自分を思い出した。

初めての場所で、初めての人と初めての会話。

どこに視線を置けばいいのかもわからず。
ハッと息を呑んだり、背中に汗をかいたり……?

首を包んでいた手がそっと肩を包み、もう一度、指先が背中に沈むと、ゆっくりと肩へオイルを滑らせっていった。

変に期待をさせない。
でも、現実を正確に想像させてくれるミシマに、
爽子は信頼を寄せていた。


──自分の世界を相手に押しつけない人。

少し前の自分が、ふっと胸の奥で顔を出す。

彼の軽やかな振る舞いの裏側に、
どれほど緻密な配慮と、それを悟らせないための孤独が隠されていたかを知った。

ミシマの指先が背中をなぞるたび、その軽やかさの奥にある小さな影がふと肌に触れた気がした。

大翔は、"人生の可能性を揺らした存在" ということ…

爽子の呼吸が、少しだけ浅くなる。

いつだったか、甘えていた自分を、心苦しく思うと話したとき、ミシマはイタズラっぽく笑って済ませた。ずっと、その繰り返しだった。

だからこそ「いい後輩でいよう」と思えるし、
場を壊すことはない、暗黙の深い安心がある。

指先の熱が、言葉にできない本音を露わにする。

きっとこの人は、誰かに合わせたり、喜ばせたりすることに、息が切れるほどの窮屈さを感じている、ふいにそれを思い出した──。


「好意や優しさ、というよりもっと単純なんだよね」

爽子の思考を読み取るように、ミシマは言う。

背中を滑るオイルが、かつて自分が一人で背負い込もうとしていた "場の空気" の重さと重なった。


『誰かと一緒にいながら、自分の孤独も守れる場所』

──爽子はハッとして背筋にほんの少しだけ力が入る。


ふと胸の奥に、小さな影が差す。
この優しさが、どこまで続くのかわからない──。

その不安を、昔の自分は言葉にできなかった。

「寒い?」 短い言葉だけが落ちてくる。

爽子は首を振る。
その瞬間、温風が静かに降りてきた。

(あ……)

ミシマの指先が、言葉にできない本音を言い当てるように、芯を捉えた。 

どうして、ここまでしてくれるんだろう──。その優しさに包まれるほど、どこか胸の奥がそっとうずいた。

もっと昔は、合わせるのも、喜んであげるのも苦しかった。そういえば、そうだった──。

でも、それをゴキゲンに変える方法がわかるようになって、お互いに居心地がよくなった。

「先輩、ふわっと、この香り、なんですか?」

「甘くて、すごくいい香りですね」


──琥珀アンバーだよ。
光を当てると閉じ込められていた時間が輝き出す──。

天井から降りてきた香りと、曲が同じ名前だった。


爽子はその言葉に、ふっと息を吸った。

眠っていた光が誰かの手で息を吹き返す。
自分では気づけない、でも誰かが照らすと見える輪郭。

光をかえした瞬間、遠い時間がふっと息をするように──。

(私も、そういうふうに見えていたのかな……)


「宝石ってさ」 ミシマはタオルを整えながら続けた。

「自分では光れないけど、光を当てると一気に輝くんだよ。きみは、そういうタイプだと思う」

爽子は驚いて顔を上げた。

「人としての美しさ、っていうのかな。触れ方で表情が変わる」
「でも、光を受けるとちゃんと輝く」

ミシマはそれ以上言わなかった。言葉を押しつける気配はない。

だからこそ、胸の奥に静かに落ちていく。


香りがふたりの距離を、そっと整えていく──。


爽子は、胸の奥がスッと収まるのを感じた。

大翔ではなく彼に惹かれた『自分』に惹かれていた…

その輪郭を照らしたのは、 いま目の前にいる、この人の静かな光だった。


<了, 1,700 字>


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久藤 あかり | はじめまして! スキ、コメントが1番うれしいです。私の記事を元にあなたの記事を書いてもらうのも大歓迎!心が動く言葉はありましたか?ご感想お待ちしています😊