巽くんと今日子さん 第11話
前回のお話
第11話 こたえ合わせ
そうだ、ラインだ。
付き合い始めた後、釣った魚にエサをやらないことはあるかもしれないけど、釣ってもないのにつれない態度で、わたしは1人水槽の中に取り残された。親しくなりたくてしていることが逆効果でしかなくて。
ラインすることが迷惑なだけで、巽くんの負担になっているんだったらもう巽くんの水槽の中から出よう。捕まえにきてくれなかったらそれはもう仕方がない。面倒に思われるのはしんどくて、水槽の中息ができなくなっていた。さっきまで浮かれていた私の心はどんどん重くなって足取りも重く歩くペースも落ちた。
巽くんが振り返って言う。
「LINEは、ごめんなさい。わざとでした。」
“わ·ざ·と”
ああ、やっぱり面倒に思われてたと悲しくなった。
「今、大学もあって、バイトも掛け持ちしてて夜もすぐ寝てしまうしキッチンカーの1日仕事のときはスマホも見ないし。時間的にも今、お付き合いする余裕はないなぁと思ってたのが一番で。」
「あと前にお付き合いした方とはLINEのやり取りが多くてそれでお別れしてしまって。高校の時だったんですけど。受験を控えてるなかでお相手の方のご家族にスマホ気にしてる時間が多いと見咎められて、交際反対されたのもありますし、自分でもやっぱり今は進路決める大事な時だからと気を引き締めたかったのもあります。」
「あっ、他の女性の話してすみません。」
「だから今日子さんたくさんLINEしてくれて好意もってくれてるのかなと嬉しかった反面、待ってくれ、今は無理だって思ったし、たくさんLINEでやり取りしたいタイプの方だったらお付き合いしても続かないだろうな、と思って。」
あっ、なんかこれ振られちゃってる感じなのかな。
巽くんはやっぱりきちんと整ってる。自分がまずしっかりあって、自分を律することができて、相手にもそういう方を望んでるんだ。でもだからといって、わざと、は傷つく。泣きそうになる。
「でも、今日子さんのLINE。あれはズルい。」
「優先順位上がったら連絡して下さい、って。待って待って、ってなって。ピュンピュンッて釣り糸引かれたらパクッてなっちゃいました。今日は来てくれて嬉しかったです。」
LINE送りすぎた自分も恥ずかしいし、なんだか色んな感情が混じりあう。自分でも何から話せばいいのかわからないまま言い訳から口に出してしまう。
「LINEはごめんなさい。」
「本当にあんまり自分から送ることないんです。」
「でも、巽さんとLINE交換できて嬉しかったのと、···ちょっと焦ってました。」
そう、私は焦ってしまった。まだ大学生の巽くんと比べて私はもう25歳を過ぎてしまった。ほんとは25歳までにお付き合いする人ができればいいな、と思っていた。年を重ねれば重ねるほど結婚がちらついて、好きだけでお付き合いできる、恋愛できる時期って短い。
だから好きだけで、純粋なお互いへの気持ちだけで付き合うことが出来る恋への憧れがあった。好きだけではダメなんだ、という巽くんは私なんかよりずっと大人だ。
「だって、わたし年上ですし。」
「今日子さん、いくつなんですか?」
巽くんがイタズラっぽく笑う。
「干支は?」
と、さらに続ける。
「言いたくないならいいですよ。でも僕は今日子さん、いくつでも気になりません。かわいいですし。」
「僕は前からいいなぁと思ってましたが、今日子さんは、お札あげた時からですか?」
少し思い出しながら、巽くんを意識し始めた頃を懐かしみながら言葉にする。
「わたしも前からです。まだお昼のシフトにいて、夕方はお客さんとしてお店に残ってたときから。」
「あっ、ストーカーじゃないですよ。巽さん目当てで残ってた訳じゃないです。でも佇まいというかすっと姿勢もよくて声もよく通って自然と目にも耳にも入ってくるというか、すてきだなぁと思ってました。」
「夜のシフトになって、“今日子さん”って下の名前で呼ばれてドキドキしましたけど、みんな下の名前で呼んでるし、すごく女性の扱い慣れてそうで。ちょっとジゴロというかそんなイメージで。ダメダメ好きになっちゃと意識しないようにしてました。」
「でも下の名前で呼んだりも、職場の雰囲気良くしたりだし、気遣いもできて、仕事への向き合い方も真剣なの伝わってきて好感度高かったです。」
そんなみんなに優しくて気遣いができる巽くん、好きにならないわけがない。でもそれに引き換え私はと、
いつも自信がなかった。
「でも、やっぱり新札頂いて。はじめて巡ってきた新札って1枚だけで。それをくれるなんてちょっとはなんて思って、ますます意識しちゃうようになって。」
「“好き”を自覚しちゃいました。」
並んで歩いていた巽くんがこっちを見る。
優しい眼をしている。
その眼がちらっと上を向き一呼吸おいてから言った。
「言わんとこ、思ってたけど」
「今日子さん好きです。」
嬉しさが胸いっぱいに広がった。
外の寒さも気にならないけど、差し出されて繋いだ右手があったかかった。
第12話に続く
なんのはなしですか
