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巽くんと今日子さん 第12話

前回のお話

 第12話 


昼下がりの井の頭公園を並んで歩く。
じんわりと伝わってくる手の温もりと感触。早くなった私の鼓動も手から伝わってしまいそう。

「今日子さん 好きです。」

その声が頭に響き、いつも以上に巽くんの顔をまっすぐにみることができなくて視線を落として歩く。でもその足取りは心と同じでフワフワと軽く弾んでいる。低い視線の先、わたしと同じように嬉しさで弾むように散歩する犬の姿が目に入った。

「あっ、あの犬。
 白くて頭がフワフワしててかわいいですよね。」

お互い黙ったままの時間がくすぐったくて、気持ちは巽くんに向いたまま照れ隠しのように唐突に話題を変える。

「ビション・フリーゼ、今日子さん好きですか。というか、犬と猫なら今日子さんどっちが好きですか。」

そう聞かれて私はどっちが好きなんだろうとすぐには答えられずにあれこれ考える。

「ビジョン..フリーゼ?っていうんですか。あの白いモフモフしたワンちゃん好きです。犬はどっちかっていうと小型犬が好きですけど猫もかわいいですよね。」

なんて優柔不断な答えだろう。好きといいつつ名前も知らなかったし、他にかわいくて気になる犬もたくさんいる。猫だっていろんな種類の猫がいるけどたいていの猫はいつまでも撫でていられるような気がする。

「犬と猫、どっちも好きですけど···もし、自分がなるとしたら········家猫です····。」

巽くんちの猫になれたら幸せだろうな、なんて思う。いつもの整っている巽くんじゃないリラックスした巽くん。それを邪魔しないようにそっとすり寄って少し体重を持たせかけぬくもりを感じてみたい。ああ、でも犬になってこうしてルンルンして外歩きするのも棄てがたい。

「見た目は…大型犬の仔犬ですけど。小さいけど手足はしっかりしてる感じで·····。こう、スラッと背が高くなりたかったんですけどね。」

巽くんは大型犬でシェパードのようにキリッとしたイメージだ。そのとなりにはスラリとして頭もよく会話が弾むような素敵なひとが似合うのだろう。私が隣でいいんだろうかと思うけど、巽くんは気にするような様子もなく妙に納得したように独り言のように呟いた。

「なるほど···、仔犬ですか。」

そのあと、今度は私に語りかけるようにゆっくりと言葉を声に出した。

「僕はきまぐれな猫よりは安心感のある犬が好きです。それと小さい女性、タイプです。」

「だから今日子さんは僕の好みのタイプのひとで、今日も一緒にこうして過ごせるのも嬉しいですし、こうして会ってみた感想、“楽で心地よい”です。楽っていうとあれですけど、自分の弱点先に伝え合えるとかほんとめったにないことで、肩肘張らずにいられるというか。」

私は変わらず低い視線のままで巽くんの言葉ひとつひとつにコクリ とうなずいた。

私もそうだ。まずピンと伸びた高い背に目がいって、あとは声だったりひとつひとつのやり取りがくすぐったくて心地よい。リラックスしているかといわれたらそこは違っていて、まだドキドキが勝っている。

「お互い、そのままで大丈夫です。」

巽くんは少し間をおいてから言葉を繋いだ。

「良かったらお付き合いしませんか。」

“よ か っ た ら お つ き あ い し ま せ ん か ” 

巽くんの声がゆっくりと頭に響いた。思わず顔を上げる。鼓動が早くなり上擦ってしまう声を押さえるように、気持ちを落ち着けながら言葉を返す。

「·····私で良かったら。よろしくお願いします。」

巽くんの顔を見上げた。巽くんは伸びをするように上を向き、深く息を吸ってからニッコリ笑った。

繋いだ手にぐっと力が入って握手のように握り合う。

「そんな今日子さんはサンタさんにクリスマスプレゼントの願い事をしても、弁天さまは やきもち 焼かないと思いますよ。」

「次はクリスマスプレゼント、一緒に買いに行きましょう。何がいいか考えておいて下さいね。」

優柔不断な私だけど、もしこうして巽くんと会えるのなら欲しいものはあった。でもうまくLINEでは伝えることができなかった。

「巽さんは何かありますか。」

巽君はまたちょっと上を向いてからこちらを見る。

「LINEでまた相談しましょう。」

LINEはちょっと苦手になってしまったけれど、今すぐに言葉で伝えられる気もしないので、ちょっと考えてから改めて伝えることにした。

「あっ、今日子さんやきもち売ってますよ。」

東京やきもち。東京都の都立公園内の売店で人気のお団子。俵にたくさん刺してあるお団子たちにそれぞれ顔がついている。くるみ味噌・醤油・みたらし味の3種類が選べるようになっている。

「寒いから食べてあったまりましょう。
 今日子さん、どれにしますか。」

白いお団子の一番上のお餅に少しずつ表情の違う顔がついている。ぼんやりと少しどぼけたような顔をしてたくさん俵に立っている様子はジブリの作品『もののけ姫』に出てくる“こだま”みたいだ。

どの子にしよう。味はみたらしもいいけどくるみ味噌も気になる。うん、決めた、みたらしは口のまわりにつきそうだし。

「このお団子で、くるみ味噌 お願いします。」

「じゃあ僕も同じで2本お願いします。」

食べながら、巽くんがいう。

「さっきの悩んでるとこ可愛かったです。女性はよく悩みますよね。やきもちも女性の方が焼くこと多いような。」

「···でも、こんなかわいい顔じゃなくもっとおっかないですよね。やきもち焼くってよく分からないです。分からなくて面倒になっちゃうこと、ありました。」

また、前の彼女さんのことだろうか。前の女性の話を聞いても特になんとも思わない。やきもちってある程度対等じゃないとやける間柄にならないと思う。わたしと巽くんはまだ妬いたりするような段階にはなってない気がするけど、この先、やきもち焼いてしまうことも出てくるんだろうか。やきもち焼いて面倒に思われたくないなと思う。

まだ始まったばかりの関係だけど、もう失いたくない気持ちでいっぱいになった。



第13話に続く


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