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これは「承認のコップ」シリーズ6部作の3話目です。
単話でもお楽しみいただけます。
5話目6話目は有料記事になります。

【前回のあらすじ】

塾の授業中に寝ていて「なにも動じない」子を
どうにかしてやる気を出そうと
スタッフミーティングをすることにした

彼が過去、中学受験を過去実施していた
そのあたりポイントだとあたりを付けた

が、本人から中受の事実を言われていない私は
教室全体でコミュニケーションをとっていく施策に走り

初歩の初歩、単なる「挨拶」から会話を始める…


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授業では、どうせ寝てしまう。

だから、教室全体で決めたのは
「授業以外の時間で関係を作る」
というシンプルな方針だった。

まず取り組んだのが、挨拶だった。

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彼は、授業の挨拶が終わるや否や、
立ち上がった。

挨拶もそこそこに、
誰よりも早く教室を出ていく。

何も持ってきていないので、
教室貸し出しの筆記用具をペン立てに戻せば、
それでもう帰宅完了だった。

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その帰宅の速さと、
私たちの「さようなら」、
どちらが早いか。

毎回、勝負のようになっていた。

「さようなら」ではなく
「さならッ!」というくらいの速さだ。

こちらが早く言えたとしても、
当たり前のように無反応、無視で
きょうも終わってしまった…
という虚無感。

それでも、挨拶をやめるという選択肢は、
私たちにはなかった。

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次のミーティングで、この話題が出た。

「なんなら、『さようなら』で
 揃える必要もないんじゃないですかね」

「バーイ!でもいいし、
 ちぇぇい!でも、何でもいいですよね笑」

「そこを変えていって、
 向こうが少しでも笑ったら、それでいいか」

そんな結論で、帰りの挨拶は落ち着いた。


もう一つ、素朴な疑問も出た。

そんなに勉強したくないなら、
なぜ塾に来るのか。

保護者も、
特別に過激な厳しさがあるタイプではない。

そこに、何か糸口がありそうだった。

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挨拶作戦は、少しずつ効いていった。

彼は、こちらに目を向けることはない。
でも、手だけは上げて帰るようになった。

小さな変化だった。
でも、確かな変化だった。

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そこから、少しずつ声をかけるようになった。
これは、ある日の教室での一幕だ。

「ん? なんか今日、疲れてない?」

つかれてないけど

「今日はペンケース持ってきた?」

持ってくるわけないじゃん

「来るわけないことないでしょ笑
 また貸していきますか。
 そういえば、学校でどうやって勉強してんの」

友達から借りてる

「友達にリース料払ってんの?」

リースって何よ

「ものを貸したときに発生する費用だよ。
 鉛筆使えば短くなるでしょ、
 年間どんだけ使うのよ」

借りないときもあるから

「授業で一切文字書かないってあんの? やばいでしょ」

そういう時は寝てるから

「もっとやばい奴だろ。 ていうかその子に鉛筆代払え」

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こういうくだらないやり取りを重ねるうちに、
少しずつ、打ち解け始めた。

そんなある日のことだ。
いつものように私からくだらない話を吹っ掛ける

「勉強好きなの?」

嫌いに決まってるでしょ

「嫌いなのに塾に来るから」

親がいけっていうから

「行けって言われても来てるわけだから、すごいわ」

なんでよ

「自分だったら、行かないで公園とか行くから」

ひとりで行ってもつまらないし。
だいたい公園行っても寝れないし

「寝ることに命かけとるな。疲れてるの?」

疲れてる

「なんで疲れてるの?」

夜中までゲームしてるから

「へ? 何時まで?」

朝5時くらい

「そりゃ眠いわ。ゲームやめないの?」

なんで辞めるの、ゲームしかやることないし

「なんのゲームしてるのよ」

○○(当時のゲーム名)

「ジャンルは?」

アクションというか、戦闘系かな

「逆に倒されたらイライラするんじゃないの」

する笑

「ストレスたまって、ゲームでストレス解消か笑」

そうそう

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その日は、そこで終わった。

くだらない会話だったと思う。

鉛筆代の話も、ゲームの話も、
授業には何の関係もない。

でも、この積み重ねが、
彼にとっての「見られている」実感に
なっていったのだと思う。

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次回は、後日改めて交わされた会話、
彼の生活リズムの話から書いていく。

▶次回:「頭が悪い」と思っていたのは、本人だった

▶①承認のコップという話

▶②着任初日、彼はすでに授業を放棄していた

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