ヒューマンドラマ小説|サンクチュアリが見えたら(25)|雨粒に映るもの
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田舎の古民家シェアハウス『サンクチュアリ』。
住人は老若男女6人と猫が一匹。
住人の一人、雨宮茉莉花は40代シングルマザー。小学生の男の子が一人いる。茉莉花は、ある日サンクチュアリへの帰宅途中で男性と揉めていた50代の元モデルの女性、夏見紫をサンクチュアリに誘う。
茉莉花もまた、そうしてサンクチュアリに迎えられた一人だった——
茉莉花をサンクチュアリに誘った野路菊さくらは、過去に不倫経験のある70代女性。その他、神野宗四郎は30代の同性愛者の男性、木南悠はお金のない現役大学生。
仕事、恋愛、家族——
これは、それぞれがそれぞれに、生き方に悩みながらも、少しずつその答えを見つけていく物語。
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雨粒に映るもの
麗子は言ったあと、「あー、疲れた。お客来ないわねえ」と言って、タバコに手を伸ばした。タバコに火をつけ、組んでいた足の上下を組みかえる。何も言わない紫の様子を察してか、麗子は言った。
「まあ心配することないわよ。さくらさんが自分で話さないのなら、きっと婦人科ね。うちの母親も70ぐらいの頃、よく行ってたもの。出血があったり、子宮脱だったり、結構多いらしいわよ。何歳になっても女は女ね。うちの母も、言い出せなくて、長く我慢してたみたいだもの」
「そうなんですか」と言いながら、紫はテーブルを拭き終え、カウンター内に回る。
「さくらさんって子どもさんいるの?」
「さあ。どうでしょう。知らないんです。どうしてですか?」
「ううん。まあ子ども産んでるか産んでないかで、変わることもあるから——」
麗子が途中まで言ったところで、一人の客がスナックの戸を叩いた。
「いらっしゃいませ〜」と麗子が言い、煙草を片付ける。馴染みの客らしい。慣れた様子で「ママ、しばらく」と言った後ろに、暮れ始めた町の景色がちらっと見えた。

その日は、朝からしとしとと雨が降っていた。
ラジオ体操がないので葉が朝早くに紫を起こしに来ることもなく、湿気で空気が重いせいか、サンクチュアリの中もいつもよりしっとりと静かだった。
母屋に入り、居間に回ると、「おはようございます。紫さん」と、茉莉花がレシピ本を読んでいた手を止め、顔を上げる。新しいケーキの研究だろうか。レシピ本には、沢山の付箋が見える。
「茉莉花、おはよ」と言うより早く、返事をしたのは、紫の腹の虫だった。茉莉花が、目を細めてくすくすと笑いながら、「朝ご飯の支度しますね」と言う。
ちゃぶ台に、すぐに美味しそうな和定食が運ばれてきて、「ありがと。何だかいつも奥さん役ばかりやらせちゃって、ごめんね」と紫が言う。
「いえ。最近、紫さんがご飯のセットしてくれるから、何気に助かってるんです。これはその御礼」
「いやいや、茉莉花がやってくれてる家事を思えば、お安い御用よ。ごめんね。私が料理できないから」
「何言ってるんですか。その分、洗濯当番少し多くしてくれてるじゃないですか。私の当番のときもよく手伝ってくれるし、凄く助かってます」
紫は、サンクチュアリでの食事当番を免除してもらう代わりに、洗濯当番を多めにしていた。宗四郎やさくらは、食事を作る代わりに、出来合いのものを買ってくることもままある。悠は大学の授業時間の兼ね合いで洗濯当番を減らしてもらう代わりに、基本的に毎日のお風呂掃除は悠担当ということになっていた。
その辺の、お互いの出来ること、出来ないことでバランスをとりながらの共同生活の決まり事は、毎月月初の「サンクチュアリの会」で話し合われるらしい。主に食費として住人が負担している家計費の収支も、そのとき発表される。ちなみに、そのまんまなネーミングは宗四郎発案。

【1199文字(あらすじ、その他除く本文のみ)】
9ページから18ページに、いっぽびとさん提供の新たな挿絵を追加しています。
今回も思わず見惚れてしまう綺麗なイラストなので、是非遡ってご覧になってみて下さい😌✨✨
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